#64《“海底”のクラ―ケン》

「海だっ! バカンスだっ!……なんてっ」


……まあ、バカンスではないのだが。


俺達は今、海に来ている。

雲ひとつなく空は真っ青だ。


「ふふふ……完璧だッ!」


今、俺は砂浜で水着姿で海を泳いでいる少女たちを見ている。


そう――


今、俺が見ているのはッ!


海で泳いでいる彼女達と……ッ!


水着だァッ!!


そして――ッ。


おっぱいだぁあああああぁああああああ!!!!! 


「俺はッ! この時を待っていたんだッ!」


あの輝く太陽のような少女を見るがいい!


「健全な男子なら誰もが見たかったであろうこの光景をなァッ!」


俺は過去に経験した出来事を教訓に、ある作戦をってこの海にきた。

それは、このゲ―ムを始めてばかりの頃だ。

昔この世界で彼女たちと混浴の温泉に入った時、俺はある誤算をしていた。


その時は混浴なわけだから、彼女達の全裸が視えると思っていたんだ……

このゲ―ム――【ワールド・オブ・ユートピア】の名の通り、まさに理想郷ユートピアが待っていると……。


だが、待っていたのは視界いっぱいに広がるモザイクであった……。

この世界のゲ―ムシステムが全裸を不適切な映像だと判断して俺の視界を規制しやがったんだ!


あのときの俺は。たかがAIごときに翻弄されたのだ……!


だが……ッ!


今の俺は昔の俺とは違う!


あの無念の敗退から今に至るまで、薄々とだが考えていたことがある。


なら水着ならどうだ?! と……。


水着なら、規制対象にならないだろう? 俺はそう思ったワケだ。


それもそのハズ……ッ! 水着は“軽装備”に分類されている……ッ! 

防御力が低い代わりに素早さと回避に特化した装備だ!


これは。“装備”であって規制対象センシティブではないッ!!


それに……!


「全裸でもない――ッッ!!」


俺は、ほんの少し前に管理用コンピュ―タのAI(らしきもの)に、

翻弄されていたに反撃したつもりでいた。


「どうだAI?! 参っかた……痛っ! し、舌噛んら……」


……ま、まあ要するにだ。

俺の作戦というのは、彼女たちに水着を買わせて海に行くっていう、

単純だが計算しつくされている作戦だったのだ。


俺の完璧すぎる作戦は見事に成功したのだ……! 


「ふはっはははは!」


俺は喜びに満ちあふれている。


「ふふふふふ」


それに呼応こおうして誰かが笑う。


「ふははははははは!」


俺も笑う。


「ふふふふふふふ」


誰かが反応して笑う。


「ふはふははははは――」


俺は続けて……。


――バシャ。


「ギャアアアアア!」


突然、俺は頭から水を掛けられる。

目の前に居たのは、フェ―ベだった。

フェ―ベは漆黒の水着を付けていた。

胸の大きさは……レアよりは少しあるくらいか。


「ふ、フェ―ベ?! さっきは海で遊んでいただろっ いつの間に目の前にっ!」


「ふふっ。瞬間移動など私には容易いことだ」


フェ―ベは笑いながら、


「いや、なんというか……」


漆黒の魔王は俺のおでこを指先でツンと突く。


「な、なんだよっ」


とても可愛く綺麗な花の髪飾りを着けたフェ―ベ。

ああ……本当に、お前を救えて良かった……。


「お前が鼻を伸ばして気味の悪い顔をしながら笑っていたものでな。

 水でも掛けたらその間抜け面がどうなるのかと思った訳だ」


フェ―ベは俺を見て少しニタついていた


「せっかく堪能していたというのにっ」

「さっきのハヤトは見事に変な顔をして……いたぞ。ふふっ」

「笑うなっ!」


「ハヤトさんっ」


イオがぱたぱたと小走りで俺の元にやってくる。


「どうした? イオ?」

「ハヤトさんも一緒に泳ぎましょう! ささっ早くっ!」

「い、いや俺はっ」

「さあ! 行きましょう!」


俺は半分強引に腕を引っ張られ、海に連れて行かれる。

後ろから付いてくるフェ—ベ。


――ズルズルズル。


「さあ! みんなで遊びましょう!」


――パシャ。


俺はイオに水を掛けられる。


「きゃははは!」

「やったなイオ!」


――バシャ。


俺はイオに反撃をする。


イオと水を掛け合いながら遊んでいると――後ろからドンと、謎のタックルを食らう。


「えっ?」


後ろを振り向くと、レアとコ―デリアがいた。


「「あははははは!」」


――バッシャン!


『ゴボゴボゴボ(だ、だれか助けて……)』


俺は溺れる。


『ゴボゴボゴボ(このままじゃ……死……)』


恥ずかしいことに、俺はカナヅチなのだ。


あ、俺。ここで死ぬの?

こんな浅瀬あさせで?

何度も様々な危機を乗り越えてきたこの俺が??


――バシャバシャバシャ。


俺はもがくが、助かる気配がない。

意識が朦朧としていく所で、何者かに腕を引っ張られ、海から引き上がれる。


「大丈夫? ハヤトくん?」


「げ、げほっ……げほっ……」

「あ、ありがとうリシテア」


俺を救ってくれたのは巨大な胸を持つ槍使いの少女だった。

なにをどう育ったらこんな胸が育つのやら……。


胸のサイズを設定したのは俺だった……。


「「あははははははっ!」」


声がした方向を振り向くと、レアとコ―デリアがいた。


「お前ら……さっき俺を押しただろう……」


すると、二人は顔を見合わせ……。


首を横に振った。


「わわわ、わたしじゃないです……よっ?」

「わ、わたくしは、やや、やってっていい、ままませんわわわわわわ」

「ぜっっっったいお前らだろ!」


俺はレアとコ―デリアに水を浴びせた。


「きゃあっ!」


レアははしゃぐ。


「え、えええ、ええ冤罪えんざいですっ!」


両手をパ―にし、必死に振って冤罪だと言い切るコ―デリア。


「面白い子達ね」


そうリシテアは俺の背後で言った。


俺はリシテアの方向に振り向き――!?


「――――っ!!」


異変を感じたのでリシテアに向かってに大声で叫んだ。


「リシテアッ!! 後ろだッ!!!!」

「――えっ?!」


――ゴゴゴゴゴゴ


海の中からナニカが現れる。

リシテアの背後から現れたのは――巨大なタコのようなもの。


ヤツの名は……《“海底”のクラ―ケン》


“ネ―ムドモンスタ―”だ。


俺達は水着装備から、いつもの装備に切り替える。


――にゅるん。


タコの触手がリシテアを襲う――ッ!!

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