#56 上級悪魔ファントム

俺達は悪魔がいる正面に向かって真っ直ぐ突き進んだ。

悪魔たちも俺達に近づいてくる。


「ケケケケ……」


一番前にいた彼女達は、迫りかかってくる悪魔を切り捨てていく。


「はぁああぁぁあああああッッ!」

「とりゃああああああああッ!」


――ズバババババッ!


リシテアとイオは猛攻撃を悪魔たちに仕掛け、バサバサと倒していく。


俺は、後方からレ―ルガンを撃っていく。


――ヒュン


「ケケケ!?」


悪魔たちはちりとなって消える。

残った悪魔は俺達の猛攻もうこうに驚いているようだった。


「《ライトレ―ザ―》!」


コ―デリアは巨大な青白いレ―ザ―ビ―ムを放つ。

放たれたレ―ザ―ビ―ムはすぐに手前に居た悪魔に当たると、

貫通して後ろに並んでいた数多くの悪魔を塵とした。


「《プラズマボ―ル》!」


レアの杖から放たれた巨大な雷の球は、悪魔に向かって飛んでいき、多くの悪魔を消滅させた。


騎士達三百人も剣、弓、槍、斧、魔法杖を使い必死に戦っている。

何匹かの悪魔は騎士達の力で倒れている。

だが、騎士達も悪魔の攻撃によって結構な数が殺られていく……。

くそっ。


「そ、そんな……騎士達が……」

「リシテアどうした?! しっかりしろ!」

「え、ええ。先を急ぎましょう……」


しかし、悪魔の数はなかなか減らない。

それどころか、俺を無視して《ディオ―ネ》に進んでいく悪魔たち。

なぜだ? なぜ俺をスル―する? 目的は俺なんだろ?

もしかして、俺が勇者だと悪魔達は気づいていないのか……?

なら――


「おい! 悪魔ども! 俺が勇者だッ!!」

「ケケケ……」


しかし、悪魔たちは更に《ディオ―ネ》に侵攻していく。

くそッ! 魔王の目的は俺じゃないのかッ?!


◇◆◇◆


私……フェ―ベは玉座ぎょくざに座って悪魔をひたすら召喚していた。

勇者ハヤトを襲撃するための悪魔だ。

……召喚していて気づいた事があった。


どうやら私の力を持ってしても、召喚できる悪魔の数には限度があるようだった。

五百体が限界数のようだった。


だから、私は悪魔が殺される度にここで悪魔を補充し、《ディオ―ネ》に向かわせている。

なぜ目標が勇者ではなく《ディオ―ネ》かというと、

勇者を絶望させるのが目的の一つだからだ。


それにしても……悪魔達の状況が掴めないな。

報告が欲しいところだが、私が召喚した悪魔は知能が低い悪魔ばかりだ。


ならば、もっと知能の高い悪魔を召喚して、勇者ハヤトの偵察役を頼むか。


「《ファントム召喚》」


すると、私の前に闇の門が現れ、そこから幻影げんえいが現れた。

ファントムは背丈が高く青いオ―ラで、纏われた半透明の姿をした人型サイズの上級悪魔だ。

実力は相当な筈だ。


「お呼びですか? 魔王様……」

「ああ、早速だがやってもらいたいことがある。勇者ハヤトとその仲間を監視しろ」

「わかりました。魔王様……私に任せてください……」

「ああ、頼んだぞ……」


――シュン


ファントムは消える。


「さて……後は報告を待つだけか……。

 勇者ハヤトよ。お前を絶望させ――殺してやる――!!」


◇◆◇◆


「発射準備! 撃てぇ―!」


――ド—ン!


「次ッ! バリスタ砲発射準備――!」


後ろで、騎士達が迫ってきている悪魔たちを大砲で狙っているようだ。


「俺達も先に進むぞッ! 総員、突っ込め―!」


「「うぉおおおおおぉおおおおおッ!!」」


俺達は悪魔を斬り倒しながら先に進んでいく。


悪魔の最後尾を抜けた、もう周りには敵はいない。

やはり目的は俺がではなく《ディオ―ネ》だったか。


俺たちは百体ほどの悪魔に遭遇し――全力で走りながらもほぼ倒しきったが、

数体は取り逃がしてしまった。


駆け抜けること三時間……。


《ジュピタ―》はもうすぐ見えてくる筈だッ!


「ケケケェ……!」


悪魔は俺目掛けて襲ってくる。


「邪魔だッ!」


――ザシュ


俺は剣で悪魔を斬り、消滅させる。


「みんな《ジュピタ―》はもう少しだ! 全力で走れ!」

「「了解ッ!」


すると、巨大な影が見えてくる。


「あれだッ! あの見えている影が《ジュピタ―》だ!」


「「はい!」」


騎士たちは、奥にある影を見つめ、


「突っ込めぇえええええぇええええええ!!」


と、言いながら前進する。

俺達は迫りくる悪魔をねじ伏せながら先に進んでいった。そして――。


「ハァ……ハァ……」

「ここが、《ジュピタ―》ですの?」


イオは不穏な雰囲気を持つ空を見つめ、


「空が……紅いです……」


リシテアとレアは不安げに、


「ここが、魔王がいる場所……」

「まおう……」


……そう言った。


空を見上げると、真っ赤に染まっており、雲は真っ黒に染まっていた。

俺が《ジュピタ―》を設定したときはこんな空じゃなかなった筈。

やはり、魔王の影響だろうか?


「この街は敵の陣営にも関わらず、気配がまったくなかった。様子が変だ……」


ゴツイ格好をしたリ―ダ―格とおぼしき騎士は敵地に入ったのにも関わらず、

敵の姿が見えないことに不安を覚えているようだった。


「敵は油断しているのではないでしょうか」


それに対して下っ端の騎士はそう答えた。


「そうかも知れない。だが、油断するなよ」


リ―ダ―格の騎士がそう言うと、シ―ンと場が静かになる。

皆、緊張しているのだろう。


――その緊張を破ったのは俺だった。


「……よし、俺達はあそこに見える塔に侵入して、地下一階に潜る。騎士達は城内部に突入してくれ」

「了解です! 総員、突撃準備――」


――ヒュルルルル


刹那――大量の弓矢が飛んでくる。


矢が飛んで聞いている方向を見ると、城の頂上から弓を握っている兵士が大勢いた……。


「ぐわああああああッ!」


ばたばたと、倒れていく騎士たち。

やはり、隠れていやがったのかッ!


「怯むなッ! 全員突撃せよッ!!」

「了解ッ!」


騎士達は城内部に向かって突っ込んでいく。


「俺達も行こう」


俺達は城外部にある塔に向かい、入り口のドアを開き中に入る。


「なんだこれ……」


塔の中は悲惨なことになっていた。

四人程の人間の血まみれ担っている死体が見えたからだ。

誰がこんな事を? 魔王がやったのか? 一体なんのために?


「ハヤトくん、嫌な予感がするわ。急ぎましょう」

「ああ……」


俺達は地下に向かう扉を開けた。

下に向かう螺旋状の階段を降りていく。


やがて、牢獄にたどり着いた。

俺は記憶を辿りに、フェ―ベがいる筈の牢屋まで歩いていく。


「たしかここだ……」


俺達はフェ―ベが居るであろう牢屋の目の前まで来た。


「なっ――!?」


その牢屋は他の牢屋と違い、壁や床が血痕だらけだった。

中には誰も居ない……。

まさか、フェ―ベは殺されたのか!?


一瞬俺の眼にナニカが映る。

あれ、は……。

サ―ッっと頭の中でノイズが走る。


「花びら?」

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