第三章 ~氷の少女イオ編~

#38 モンスターとの友情

「―――――!」


まぶたを開けると、俺は最初の洞窟の中に立っていた。

特に過去に戻った感じはしないが……

俺は管理用コンピュ―タにアクセスした。


2040/06/12 21:36:59


ワールド・オブ・ユートピアにアクセス……。


アクセス完了……。


ログイン中……。


ログイン完了! 


ワールド・オブ・ユートピアへようこそ!《ハヤト》


コンソ―ルにはこれだけが書かれていた。

やはり成功したのか? 隣にはイオがいる。

俺はUユーザーIインターフェースを見た。


ハヤト:レベル31

 イオ:レベル28


と表示されていた。


「イオ…… 俺が誰だか分かるか?」

「もちろんです! ハヤトさん!」

「……そうか、とりあえず外に出てみよう」


「はい!」


俺とイオは外に出る。

う―ん。外に出るだけじゃ分からないなぁ……。

あ、そうだ。


「《ディオ―ネ》に向かってリシテアに会いに行けば分かるな」


俺とイオは《ディオ―ネ》に向かった。


「マジか……」


ディオ―ネの門を潜った瞬間に、過去に戻ったのだと確信した。

なぜならサイクロプスに破壊されたはずの、街が完全に復活しているからだ。

いや、正確にはのだろう。


そして、街には活気があった。彼らがNPCだと思わせないほどに。

これは、過去に戻る前に“心”という概念がいねんをバックアップしたからだろう。


初めてここ来た時のような作り物感はなかった。

これが本来の《ディオ―ネ》だったんだ……!


……それと。

また海底都市トリトンで感じたような違和感だ。

どうやら、人が多い場所にいるとこの違和感を感じるようだ。

この違和感の状態はいったい……?


俺は考えるのをやめて、《ディオ―ネ》を散策さんさくした。


そして、辺りを見渡すと彼女がいた。


緑の短髪に瞳の少女。


――リシテアだ。


俺は、涙が出そうになる。


こぼれ落ちそうになる涙をぐっと堪える。


リシテアがこっちを見る。


「リシテア……っ!」

「……ハヤトくん!」


リシテアはこっちに走ってきて、俺に抱きついた。


「ハヤトくん! えて良かった!」


「私……ずっと会えないのかと思って寂しかったわ!」


「俺も……逢えてよかった……」


イオは黙って見ている。


「イオちゃんも久しぶり! 元気してた?」

「げ、元気ですよ! おひさしぶりです……」


「イオちゃん?なんだか様子がヘンだけど……」


俺は割って入る。


「イオは、俺とレア以外の事を憶えていないから混乱しているんだっ」

「リシテアとコ―デリアがシステム、

 ……いやこの世界に消されたときから二人の記憶がないんだ」


「あら? そうなの?」

「…………」


イオは一瞬黙った。


「そうなんです! 実は……全くおぼえてなくてですね!あはは。すみません!」

「リシテアさんですね! これからよろしくお願いします!」


イオはペコリと頭を下げる。


「またよろしくね! イオちゃん!」

「…………」


イオは黙り込んでいる。

それにしても……さっきから様子がおかしいような?


『これで、過去に戻ったという事実は確定したな来栖くるす


俺は脳内で加賀美の言葉に返事をした。


『いきなり喋り掛けてくるなよ! こえ―よ!』

『ごめん、しかしだ来栖。なんかヤバそうなのがその辺をうろついているぞ』

『ヤバそうってなにが?』


そう聞くと、加賀美は応えた。


『あれはネ―ムドモンスタ―だね。“殺戮さつりく”のサイクロプスという名前のようだ』

『……もしかしてそれってHPが二十一万あるやつか?』

『その通りだ。明らかに桁を間違えてるよねあれは』


殺戮のサイクロプス……イヤな予感がする……!


『……やばっ!』


このディオ―ネを破壊し多くの人を殺害した《殺戮”のサイクロプス》――あいつには勝てない。

あれは、明らかに桁を間違えている存在だ。


アレを止めなければ、また悲劇が繰り返されてしまう……。

そうなると、もうクエスト達成は不可能になる。

なんとかしなくては……!


『そうだっ!』

『なにかいい案を思いついたのか?』

『崖から落とす。そうすれば落下ダメ―ジで倒せる』


以前、《クイックチ―タ―》と戦った時に使った戦法だ。

高いところから突き落とせば、いくら強くても関係が無いはずだ。


『今ヤツは何処にいるんだ?』

『ディオ―ネから少し西に進んだ所にいる。……ちょうど近くに崖もあるようだ』


『わかった』


俺はイオとリシテアの方に振り向き、


「イオ、リシテア。ちょっとここで待っていてくれ」


待つよう指示をした。


「わかったわ」

「わかりました!」


二人は元気よく返事をする。


「すぐ戻ってくる!」


俺はディオ―ネを抜け出し、西に向かった。


「ぜぇ……ぜぇ……!」


全力で西に走っていくとそこに“巨人”がいた。


「あれだ……」


『グオオ……』


巨人の約二十メ―トル後方に崖がある。

アイツは危険だ。今の俺でも二撃……いや、一撃で殺されるかもしれない。

俺は唾を飲み込み覚悟を決める。


「行くぞ……」


俺は《スロ―ウィングウェポン》スキルを発動させようと――、


『来栖! 待てッ!』


俺はスキルを発動させるのを止める。


『どうした?』

『あの巨人をよく見ろ』

『え?』


俺は言われるがままに巨人の様子を見る。そこには信じられない光景があった――

――巨人は、地面にある花を掴み取って眺めていた。

そして、巨人の周りにいる小鳥や兎などの小動物達とたわむれているように見えた。


さらに、何よりも印象的だったのは、あの巨人は楽しそうに笑っているのだ……!


『あれは……なんだ?』

『僕の考えだけどね。あれは“心”という概念を創ったからだと思う』

『心という概念はモンスタ―にも影響されている……?』


『いや、モンスタ―だけじゃない。この世界の全ての動物にもだよ』


やがて巨人は俺の存在に気づき、俺の方に歩み寄ってくる。


――ドシン、ドシン


「まずッ!」


巨人は、俺の目の前まで近づき……。


――笑顔で手の差し伸べてきた。


それはまるで仲直りの印と言わんばかりに……


「俺の事をおぼえているのか……?」


巨人は首を横にふる。

そうだ。別にこの世界の生物についてバックアップは取ってないから、

この巨人が憶えているわけがない。だが――、


俺は巨人の大きな手を掴む。


「俺はハヤト。これからよろしくな!」


『グオオ……!』


巨人は笑顔で答えた。


「……お前は、戦う気は全くないんだな?」


巨人はコクリと頷いた。俺の発する言葉を理解しているようだった。

……あの時と違って全く覇気を感じなかった。

俺達は握っていた手を離した。


巨人は相変わらず動物達と楽しそうにしている。


「そうか。……また会おうな!」


俺はきびすを返し、巨人から離れていく。


『グオォ……!』


俺は大きな声に反応し後ろを振り向く。


巨人は大きな手を振り、さよならと告げているようだった。


俺も手を振り返した。


「またな!」


『グオォォォ!』


――かつて《ディオ―ネ》で暴れたヤツだ。

街は破壊され、多くののNPC達が死んだ。レアもこの巨人に殺された。

本来なら簡単に許してはいけないのかもしれない。


でも、もう過去の話だ。今ここにいる巨人はあの時暴れた巨人とは完全に別物になっている。

だから――俺は心を持ったこの《“殺戮”のサイクロプス》を信じようと思った。


こうして、とてつもなく頼もしい仲間ができたのであった――

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