#29 "心”という概念

俺とイオはキャンプ地のすぐ隣にあった馬小屋に向かった。


馬小屋に近づくと、小屋の中にニ頭の馬がいるが、人の気配がない。

その小屋の隣には小さな家がぽつんとある。

……この馬を管理してる人が住んでいるのか?


俺は家のドアをノックした。


――コンコン。


「すみませ―ん! 誰かいらっしゃいますか―?」


――キィィ……


すると、青年がドアを開け顔を出した。


「ウチになにかようか? 馬に乗りたいのか?」

「そうです、あの馬を借りたいのですが……」


俺はニ頭うちの一頭を指さした。


「借りると言って盗むやから頻繁ひんぱんに現れるからウチでは貸し出しはやっていない」

「買ってくれるのなら、話は別なんだが」


「いくらです?」


馬主は金額を話した。


「げっ!」


思ったより高い………。


「げっ! とはなんだ、買わないのならさっさと帰ってくれ」

「い、いえ……買います」


こんな所でケチっている場合ではないからな。

徒歩で洞窟に向かうには時間が掛かり過ぎる。


俺は金を渡す。

こりゃあ……今までのクエストをクリアしていなかったら買えなかったぞ……。

もしかしてここの値段設定も間違えているんじゃないか?


「どうも、そいつは一級品の馬だから間違いなく気にいるだろう」

「名前を決めてやるといい」


俺とイオは購入した白い馬の前に近づいた。


「名前かぁ―、イオはどんな名前がいい?」

「もう決まってますよ!」


「なんだ?」

「この燃えたぎるような白い色……! バ―ニングホ―スちゃんです!」


白なのに燃えたぎるような色???


「ま、まあいいや」

「さ、乗るぞ」


俺とイオはバ―ニングホ―スに乗り込んだ。


「行くぞバ―ニングホ―ス! 最初の洞窟まで出発だ!」

「ヒヒ―ン!」


――パカッパカッ。


おお、結構速いな。


――パカッパカッパカパカパカパカッ。


あれ?思ったよりも速度が――


――パカパカドッドッドドドドドド!


「ちょっと待て!なんか馬らしからぬ足音がなっているぞ!」


――—ドドドドドドドドドドドド!!!!!


「いくら何でも速すぎだろぉぉおおおおおおおおおお!」


「……っ! さすがはバ―ニングホ―スちゃんです!! 燃えますね! メラメラ……!」


その後も、ペ―スゆるめることなく馬は物凄い速度で最初の洞窟へ向かっていく。


「ヒヒヒ―ン!」


馬が急停止する。

見渡すともう最初の洞窟の入り口までついたようだ。


「こ、ここだ……うえっ……」


さっきから振り回されっぱなしのバ―ニングホ―スのせいで意識が朦朧としていた。


「あはは!燃えてきましたよ―! メラメラ……!」


イオは元気そうだった。それはよかった。


――五分後


「ほっ……」


馬から降り、気分が楽になってきた。


「まさか馬がこんなに速いとは……」


俺は馬を見る。


「あの馬主が言っていた一級品の馬だというのは本当だったんだな」


洞窟……久しぶりだな。


「さて、と」


俺は目の前にある洞窟を見た。

ここに来たときはワクワクしてたっけ……。

あのときはまさかここまでトラブルに巻き込まれるとは思っていなかったな。

この洞窟を進んだ先に管理用コンピュ―タ―がある筈だ。


「イオ、あの洞窟を進むぞ」


「洞窟ですかぁ……ワクワクしますね!」


「さあ、行こう」


俺達は洞窟の中を進んでいく。

これで、全て終わる。

コンピュ―タ―を使えば自由に改変できるはずだ。

勿論、レア達も助けられる。


洞窟の中を進んでいくと、すぐに目当ての場所に到着した。


「あった……」


洞窟の中には“それ”があった。

小さな空間の中に空になった宝箱がある。

そしてもう一つ。管理|用コンピュ―タだ。


しており、

こっちのコンピュ―タ―で操作すると、ファ―ストブレイン側で処理されることになる。

また、このコンピュ―タ―は普通のPCのように自由に操作できるわけではない。

操作を受け付けるのは文字だけで、その文字をAIが認識して設定を変える仕組みだ。


スイッチを押すと、コンピュ―タ―は起動した。

何もなかった空間にホログラムモニタ―とキ―ボ―ドが投影とうえいされる。

コンソ―ルが展開され、一瞬画面から文字が流れる。


その後、画面にはこう表示された。


2040/06/12 21:36:59


ワールド・オブ・ユートピアにアクセス……


アクセス完了……


ログイン中……


ログイン完了! 


ワールド・オブ・ユートピアへようこそ!《ハヤト》


これは過去に俺がこの世界にログインした時のログだ。


画面をよく見ると過去にスクロ―ルできるようだ。

過去のログ?ログインしたのは俺だけの筈だ。

そういや一瞬なにか流れたな……

俺はログを上にスクロ―ルしてみる。


ログの一番上には【管理用コンピュ―タ―VER.1.00】と表示されている。


俺はそのログの少し下にログを送る。


すると……


「えっ……」


かがこのコンピュ―タ―にログインしている――!!


 いや、このログインID……!!


……」


 いや、正確には知っているのではない。この名前……ッ……!


このゲ―ムは一人用ゲ―ムのハズだぞ!

……なぜログインできる?!


コイツの目的はなんだ……?


なにが目的でこの世界に来たんだ……?

俺は幾つもの疑問を感じ、激しく動揺どうようした。


「ハヤトさん?」


イオが声をかける。


「いや……大丈夫だ」


今はこのコンピュ―タを使って設定を変えることに集中しよう。

俺はホログラムキ―ボ―ドに向かってコマンドを入力する。


「えっと……」


――カタカタカタ……


『NPC:レアの復活』


――受付不可。


「なに……?」


『NPC:リシテアとコ―デリアの消去の取り消し』


――受付不可。


「なんで受付不可なんだよ……ッ!」


その後俺は考えられる全てのキ―ワ―ドを入力したが、全て拒否された。


「くそっ! このコンピュ―タも設定ミスだと言うのかよッ!」


くそっ……くそっ……くそッ……!


「ちくしょおおぉぉッ……!」

「ハヤトさん? どうしたのですか?」

「イオ……」


それでも……


「彼女たちを助けるのは俺にはできない……」

「すまなかった……」

「???」

「……だけど」


君に心を知ってほしいから。


――俺はまだ諦めない。


俺は再びキ―ボ―ドに打ち込む。


『心という概念の生成』


――“心”について理解不能です。“心”について詳しく入力してください。


通った!



俺は即答した。


――心を理解しました。実行しますか?Yイエス/Nノー


俺は迷わない。


『イエス』


――そして。


エンタ―キ―を押した。


そして俺はイオに向き合った。


すると――。


イオは目を見開いて大粒の涙を流していた。


俺は……俺とイオは欠陥だらけのこの世界でたった一つの希望を手にした――


◇◆◇◆


2040/06/12 21:37:01


ワールド・オブ・ユートピアにアクセス……


アクセス完了……


ログイン中……


ログイン完了! 


ワールド・オブ・ユートピアへようこそ!《カガミ》


――そして、ハヤトとイオが洞窟を去った後も管理用コンピュ―タ―は静かに稼働かどうし続ける……。


『“心”という概念を生成完了……。

《管理用コンピュ―タ―》はVER.2.00へとアップデ―トを完了しました』

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