第8話 お披露目会開始
声が響いたかと思うと、照明が一気に落ちる。かと思えばある一転に光が集中し、そこにはベリスが最も信頼を寄せる部下、リーザがいつものメイド服でステージ上に立っていた。何らいつもの変わりないメイド服。ただそれだけなのだが、リーザの姿を見た一定数が見惚れ、ため息をついた。
今回、視界を命じられた彼女は一礼し先程から発動していた、声量を上げる魔法、ボイスアッパーを用い進行を始める。
「それではまず、ベリス様にお越しいただきましょう。ベリス様、お願いします」
そう呼びかけると、リーザは闇に包まれたステージの袖に注目を集めるよう腕を向ける。
リーザの行動にまず反応したのが比較的この館に訪れる回数の少ない者たちだ。目を見張り、指し示された方向を凝視する。あの先に麗しのお方がいる。そう思えただけで心臓が高鳴るのを感じ、鼻息が自然と荒くなる。
そしてそこより――美が現れた。
「おおおお」「はぁん」「ぁっふぅ」「しあわせ……」
思わず声が出てしまったものが数名。これには派遣されていたサキュバスも含まれている。しかし、これを咎めることを誰もしなかった。いや、その言い方は語弊がある。正しくは咎める余裕がなかったものが過半数。咎めても仕方ないと思った物が少数だった。無論、魔王等は後者だ。大抵こうなのだ。美の化身とまで言われるベレスの素顔は本人が抑えていても、どうしても魅了の効果が漏れてしまいその耐性が低い者は、抵抗する間もなくその視線を奪われてしまうのだ。
ほぼ半数の物が目を蕩けさせベレスに注視する中、ただ2人僅かに首を傾げたものがいた。それは、聖女クラリエルと魔王の妻リリアナだった。
(あら?ベレスのあの顔……)
(何かしら、笑顔が柔らかくなってないかしら?)
2人が疑問を覚える中、ベレスはスポットライトを浴びながらステージの中央――を通り過ぎ、リーザの横に並び立った。
これには参加者の全員が驚愕した。彼女はサキュバスクイーンである故か、目立つことを好む。今回のお披露目会をそんな彼女を引き立てる様な宝石だか服だかを手に入れてそれを見せびらかせたいから開催した――全員がそう思っていた。
しかしそんな彼女が自主的に端によった。まるで自分は主役ではないと言いたいかのように。
そんな招待客の考えを知ってか知らずか……いや、知っていた。ベレスはそう思われているだろうなとは察していたが、敢えて無視しリーザ同様ボイスアッパーを発動させ声を発する。
「はーい♡みんなぁ元気ぃ?今日はこんなにも多くの人が駆け付けてくれてぇ、嬉しいわぁ?」
魅惑の声にこれまた蕩ける者数名。勿論無視されベレスの言葉は続く。
「うふふ、私がここにいることでみーんな驚いちゃったみたいだけどぉ?今日の主役は私じゃないのよぉ?って言っちゃうとみんな気になっちゃうわよねえぇ?だからいいわ?見せてあげる。というか是非とも見て!私の可愛い、アリスちゃんを!」
感極まったように大声を上げるベリスの声を合図にベリスとリーザを照らしていたスポットライトが落ち、静寂が訪れる。しかし、招待客の頭の中は大騒ぎだ。声を出さなかった彼彼女らは褒められていいだろう。
(アリスちゃん?)
(ペットの名前か?)
(もしかして伝説のクリスタルドラゴンを手に入れたとか?)
(いやでもそれでもベリス様には劣るのでは?)
あらゆる物の考えが交錯する中、突如として目が眩むほどの光がパーティ会場を包みこんだ。発生源はベリスとリーザがいたステージの中央。その中央にいたのは――1つの小さな美だった。
1人の、見たことの無い美少女がそこに立っていたのだ。赤い瞳で月を連想させるような金髪をし黒のドレスに身を纏った美少女の姿。会場にいた全員がその姿を捉えたその時、会場の全ての照明が付き暗闇が晴らされた。そして当然ベレスの姿も露わになるはずなのだが、全員が美少女からベレスに視線を移せなかったのだ。
(馬鹿なっ!?)
心の中で魔王ギルヴァレンが叫ぶ。そう、今のこの状況は普通ではありえないことなのだ。
サキュバスクイーン、ベレスの魅了の力は前述の通り、あらゆる視線を奪う。もしその視線を掻っ攫えるものがいるとするならば――同等かそれ以上の魅了の持ち主でなければ起こりえないことなのだ。それが今目の前で、実際に魔王の視線が奪われているのだ。
(あの子から目が離せないなんて……待って?あの顔……まさか!)
魔王同様、視線を奪われた聖女クラリエルは持ち前の耐性で、何とかただ見惚れるだけではなく、少女を観察しその答えに至った。
それに気づいたベレスは悪戯っ子のような笑みを浮かべ中央に位置する少女の所に歩み寄り話しかける。
「いいわよぉ、アリスちゃん!掴みはバッチリ!」
「本当?お母さん。じゃ、抑えるね」
視界の暴力!美の化身と謎の美少女、2人を同時に視界に収めてしまった魅了耐性の低い者は気絶――するかに思えたが、急に意識がはっきりし、普通に見ることが出来た。ただ、心臓が痛いくらい鼓動するのは変わりないが。
そんな会場の様子を可笑しそうに目を細めるベリスは少女を抱えあげ声高らかに宣言する。
「みんな是非見惚れてねぇ?この子はアリス!私がお腹を痛めて産んだ、大事な大事な一人娘よぉー!」
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