第2話 こうして俺が生まれたってわけ
ベリスの部屋に駆け込んだリーザの見たものは、腹を大きく膨らませ苦しそうに唸り声を上げるベリスの姿だった。
「ベリス様!?一体どうされたのですか!?」
「リ、リーザぁ……!お腹が……痛いっ!」
額に脂汗を掻き、痛みに耐えながら言葉を発するベリス。まさかと思い駆け寄り、リーザはその膨れ上がった腹に手を当て魔法を行使し、気づいた。主を襲う謎の腹痛、その正体は――
「ベリス様!あの、妊娠……されてます!しかももう産まれそうです!」
「え゛ぇっ!?嘘ぉ!?」
ベリスが疑うのも無理はない。サキュバスとはそもそも子が出来にくい種族なのだ。まぁ、逆に出来やすい種族だったらこの世界はサキュバスにあふれていたことだろうが。――閑話休題。勿論、ベリスも例外ではなくこの世に生を受け500年ほど避妊などせず致していたのだが、今の今まで妊娠したことなどなかった。
このまま子を成すことなんてあり得ないなんて思っていたが、予兆もなくその事態が引き起こされた。
「……リーザぁ、産婆を連れてきてぇ……!」
「ベリス様!?」
「私ぃ……この子を、産みたいか、らぁ!急いで、産婆連れて来てぇ!」
痛みに耐えながら必死に言葉を紡ぐベリス。リーザの行動は早かった。少しでもベリスの痛みが引くように回復魔法を施すと、凄まじいスピードで屋敷を飛び出し、森の出口を彼女の見知った場所に変更し知り合いの産婆を連れてきた。
突然連れてこられた産婆は、茫然としていたが、痛み――陣痛に苦しむベリスの姿を見た途端、表情を引き締め己のすべきことに取り掛かった。
「あ゛あ゛ーーーッ!!」
「ベリス様!!」
「耐えるんだよ、ベリスちゃん!産みたいんだろう!?ならあんたも頑張んな!赤ちゃんも頑張ってるよ!」
今まで味わったことの無い激痛に、ベリスは何度も意識を手放しそうになる。しかし産婆の言葉に涙を流しながらも苦痛に耐え踏ん張った。
リーザはベリスの手を握り、回復魔法を施しながら必死に声掛けをした。
そして凡そ、火が天辺まで登ったころ――洋館に甲高い鳴き声が響き渡った。
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「そうしてあなたが産まれたのよぉ、アリスちゃん?」
「おかあしゃん、その話20回目なんだけど……?」
「あらぁ?そうだったかしらぁ?」
俺を抱えあげてうふふ、と少女のように笑う俺のお母さん。いっつも思うけど、この人本当に経産婦なのか。アリスと呼ばれた俺は幾度となく聞いた母の出産エピソードに苦笑いを浮かべる。いや、それにしても出産前日の男との情事まで話す必要はあるのだろうか。
さて、俺ことアリス――生後一年――は前世の記憶を持ってサキュバスに……いや、サキュバスプリンセスなる存在に転生した。前世?女性経験のない男ですが。今?女ですよ。
車に轢かれたと思ったら、次に気付いたときは美人の乳吸ってるんだよ。夢見てるのかなと思っちゃったよ。そんで現実でしたよ。そんでこんな美人の胸吸ってると思ったら恥ずかしくなっちゃったよ。
「あらぁ?どうしたのアリスちゃん?恥ずかしくなっちゃったのぉ?」
「おかあしゃんあんまりからかわないで……」
お母さんは俺の前世が男だということを知っている。何故って俺が話したからなんだけど。夢中で乳吸っていた俺がいきなり目を見開き、お母さんと胸を交互に見た後噴出したという赤ん坊ではありえない行動にピンと来たらしい。流石に元男とまでは思わなかったみたいだったけど。
それでもお母さんは俺を受け入れとて優しくしてくれている。……少々優しすぎる気もするが。
「ベリス様?そろそろ、私にもアリス様を抱っこさせていただいても?」
「えぇ~?んもぅ、しょうがないわねぇ?ちょっとだけよぉ?」
名残惜し気にお母さんは俺をこの洋館でただ一人のメイドとして働いているのリーザさんに渡した。お母さんといい、リーザさんといい、ホント抱かれると色々柔らくていい匂いするなぁ。
でも俺を抱いた時のリーザさん、何だかちょっと色っぽいというか。頬を紅潮させて興奮するように息を吐く。
「ちょっとぉ、リーザぁ?私のアリスを襲わないでよぉ?」
「へ?あ、申し訳ございません。つい……」
「アリスちゃん、すっっっごく魅力的だからあなたの気持ちも分かるけどぉ、アリスちゃんは初心なのよぉ?過激なことはしないでよぉ?」
「過激の権化と言える方が何を言いますか!?」
ごもっともでございます。今でこそお母さんは露出の少ないドレスを着ているが、俺が俺の意識を取り戻した時はそれはもう破廉恥な格好をしていた。思い出しただけで顔が熱くなるほどだ。いや、お母さんが着る服はどのようなものでも結局刺激的なものになるのだが。
お母さんとリーザさんが言い争う中、俺は2人に知られないようそっとため息をついた。
サキュバスとして生まれ変わった俺、一体この第二の人生どうなるのだろうか……あの、おっぱいサンドは刺激が……
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