第14話「勇者はヒーローと再会に赴く」

「何者だろうね? ありゃ」


 都合の良過ぎるタイミングと言い、言葉の端々に漂う「凄み」と言い、志賀と言う学生が偶然居合わせた親切なお人よしと思うほど、学はおぼっちゃんでは無いつもりだ。

 取り入ったり騙したりするつもりなら、本性が明け透けすぎるが、かと言って交渉を持ちかける為の顔合わせと言うなら、今度はもったいつけ過ぎる。

 お手並み拝見を宣言しに来た? だとしたら何のために? 学の正体は知っているのか?

 そこまで考えて、この件を脳内の「とりあえず保留」フォルダにファイリングした。材料が足りない状態で手持ちの情報だけをこねくり回してもしょうがない。

 後ほどアリサたちにも報告を出しておこう。

 それよりも何よりも、まずは香川倫である。

 学は冷めた紅茶を飲み干し、ゆっくりと立ち上がった。ちょうど閉館10分前を告げる放送が流れ始める。


「じゃあ、行くか」


 出口には向かわず、トイレの個室に入ると、制服の中にホルスター状に吊るした小さな道具入れに手を突っ込む。

 サーシェスから持ち帰ったアイテムや素材は、全てこのマジックポーチに入っている。

 学が自作した中でも、素材に拘って2ヶ月かけて完成させた自信作で、大型倉庫1棟分の物品を収納可能だが、すでに1/3は向こうで収集した珍しいアレコレで塞がれている。

 その中で学が選んだのは「転移の宝珠」言う上級アイテムで、転移魔法がエンチャントされている。魔力を注入する事で、一度行った場所やあった人間の元へ瞬時に移動できる優れ物だ。

 一見やりたい放題のアイテムだが、魔力注入中の1分半は完全な無防備となるので、戦闘中はまず使えない。飛んだ先に自分を拒絶する人間がいると、魔力だけ持っていかれて使用出来ないと言う枷が存在する。お陰で「魔王の玉座に転移で殴り込み」と言う荒業は封じられたし、魔王軍にも同じ手を使われずに済んだ。

 この魔法を開発した賢者が、悪用を防ぐ為敢えて術式に組み込んだ様だが、それから400年かけても、未だにリミッターは外せていない。

 理屈で言えば、倫は会いに来た学を拒んでいるので転移は成立しないが、不思議と行ける気がしたし、拒まれたとしても窓から突入する覚悟だった。


(ヘタレてるヒーローをぶっ飛ばして正道に戻すのもダークヒーローのお仕事だしな。待ってろよ、倫)


 ヒーローになるのはとうに諦めたけど、ヒーローの露払いくらいにはなれる。

 そのためのダークヒーローなのだ。

 宝珠が淡い光を放ち、学の身体は、懐かしい顔の元へ誘われた。

 ただ、ひとつだけ忘れていたとすれば、「昔は許された強行突入を、高校生の男子が女子に敢行すればどうなるか」であった。

 生憎と、昔のイメージが鮮烈過ぎて、そんな当たり前のことがすっぽりと抜け落ちていた訳だが。

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