第31話 純情
空高く飛び上がるドラゴン。
空中戦で有利に戦いたいなら敵の上を取れ。
それを本能でわかっているのか、ドラゴンは空中砲撃組よりも高い位置を取る。
上を取られたので、逆に高度を落として距離を取る空中砲台組。
それを追いかけるドラゴン。
ある程度高度が下がり、ドラゴンの勢いがついたところで空中砲台組は上昇へと進む方向を切り替える。
ドラゴンはスピードを出しているために、急には対応できず、ドラゴンの方が高度が低くなる。
上昇を続ける中、ドラゴンは火炎弾を吐こうと口を開ける。
すかさず投げられる水属性砲弾。
口には入らなかったが、鼻に当たってひるんで上昇を止めるドラゴンに、追い撃ちでさらに水属性砲弾が投げられる。
地面からはすかさず火炎弾は投げられ、それをドラゴンがかわし、その火炎弾に向かって投げられた水属性砲弾が衝突してドンとお腹に響くような大きな音を立てて爆発。
音の中心にいたドラゴンは急にフラフラと飛べなくなって、地面に落ちる。
黄色の耳当てはかのためにつけていたのか。
「こ、これは、火炎弾と水属性砲弾による音攻撃です。闘技場と観客席との間には念のため透明なバリアのような仕切りが設けられていますが、そのバリアを超えて、なお全身に響くこの大音量。ドラゴンの耳はおそらく鼓膜が破れ、三半規管などバランスを司る内耳に大きなダメージをくらい、バランスが取れなくて飛べなくなったのでしょう。」
飛べないドラゴンなんて、はっきり言ってただの大きな的だ。
飛べなくて男たちに吠えて威嚇するが、歩けばこける、飛べば落ちるドラゴンはなすすべなく、チクチクと少しずつだが体力が削られていく。
最終的には人間側、ドラゴンスレイヤーになりたいパーティの勝利だろう。
誰もがそれを確信していた。
大きな口を開けるドラゴン、その口に水属性砲弾を放り込む。ドラゴンはその大砲に火炎弾をぶつけたのだ。
ドラゴンは再び大音量の中心、だが今回はドラゴンスレイヤーになりたいパーティも音の中心にいたのだ。
先ほどは音の中心から離れいたからこそだったのに、今度は4人の男たち全員音の中心。みんなその場で立てなくなる。そして砲弾を投げていた男が急に気持ち悪そうな顔になり吐いた。
同じ距離で同じ音攻撃、耐性が高いのは当然ドラゴン。
4人は再び火炎弾で焼かれた。
「試合終了ーーーー!!
ドラゴンが負けると思いきや、まさかのドラゴンが頭脳プレイ。それが読めなかった人間側、ドラゴンスレイヤーになりたいパーティの負けになります。今回もまたドラゴンスレイヤーになり損ねました!!
払い戻し期限は明日までとなっていますので、当選した方は時早めに換金をお願いします。
ただいまより、闘技場を清掃修復しますので10分間の休憩となります。
第三闘技場、次の試合は人間VS人間で、カマイタチ太郎VSザックマンをお送りします!!」
ぞろぞろと一斉に会場を出る客。
俺とアンジェリーナは入り口近くにいたので強制的に流されるように外に出た。
「あー、意外と面白かったわ。もっと簡単にドラゴンに倒させると思っていたのだけど....
水属性砲弾と火炎弾をぶつけるとああいう反応が起きるなんて初めて知ったわ。新しい戦い方ね、実戦では使えないけど。」
興奮状態が半分続いているアンジェリーナ。
俺は生き返るとわかっているが、なんとなく残酷な気がしてあまり面白いとは思わなかった。
この感性は人によって違うと思う。
アンジェリーナは俺たちに会う前に何度かダンジョンでの死を体験している。
たいして俺はダンジョン内での死を体験したことがない。きっと、それが大きな違いなのだろう。
ダンジョン内の死ではなくちょっとした病気程度の認識なのだろう。別に闘技場を悲観するわけではないし、俺もダンジョン経営しているのだから人の事を言えない。ただ少し複雑な気分だ。
「チャン、あまり顔色が良くないわね。」
「ちょっと俺には刺激が強すぎるみたい。」
俺は正直にはなす。
アンジェリーナは慌てる。
「え、チャン大丈夫?外にいきましょう。」
俺を引っ張って闘技場を出る俺とアンジェリーナ。
小さな声で「普段ダンジョンに潜っているなら闘技場はいいデートスポットって書いてあったけど、あれはガセね。」とアンジェリーナは呟いた。
ああー、やっぱりね。
ちらりと森と神山が喧嘩しながら闘技場に向かっているのが見えた。
何してるだあの2人
俺はそう思いながらもアンジェリーナに引っ張られてダンジョンを出た。
「アンジェリーナ、ちょっとカフェに行こう。疲れた。」
映画を見た後にカフェに行くのがデートの定番のように、きっと闘技場に行ってカフェに行くのがいいのだろう。
俺はアンジェリーナをカフェに誘った。
「そ、そうね。チャンが言うならカフェにいきましょう。」
どうやら予定は違ったらしい。
秋葉原周りにあるカフェはメイドカフェ。流石に俺はあのお店に入る勇気はない。
良さそうな老舗のカフェがあるわけではなかったので大手のコメルカフェに入った。
少しファミレスに似たような雰囲気があるが、カフェには違いないだろう。
「2名さまですね、ご案内します。」
店員は気を使ってくれたのか、少し奥の目線が通りにくい場所に案内してくれた。
対面で座る俺とアンジェリーナ。
改めてデートだと意識すると緊張して声が出ない。
「ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくるわ。」
「あ、うん」
アンジェリーナは携帯を持って行く。
あー電話ね。
東京観光は長いし、まだまだ時間はある。
無料のお水を一口飲み、どんな話題を話そうかと考える。
そう思いながらぼっーとしているとアンジェリーナの声が聞こえてきた。
「だから、闘技場デートうまくいかなったのよー。他にもデートに使える場所を教えなさい。言わないと盗聴器の件公表するわよ。しっかり証拠はあるのよ。」
「お待たせしました。アイスコーヒーとケーキのセット2つです。ごゆっくり。」
店員がアンジェリーナと俺の注文をテーブルに置いた。
俺は気になってアンジェリーナの電話に耳をまた傾ける。
「....東京観光が対価?そんな安いわけないじゃない、公安の不祥事よ。メディアに持っていけば一体いくらで売れるかしら、それにもみ消しの費用も高くはないと思うわよ?
.....いまカフェよ。
.....え、そうなの?カフェってデートするところなの?ならチャンが誘ってくれたってことはそう言うことよね、切るわ私忙しくなったから。」
相手の返事も聞かずに切るアンジェリーナ。
なんとなく電話の相手は想像がつく。
如月さん、お詫びに東京観光案内ではなく、弱み握られて東京観光案内だったのですね。
あと、アンジェリーナからデートと言っておいて、2人でカフェがデートだと気付かなかったのか。
恋愛初心者よりもアンジェリーナは初心者で、俺は気が楽になった。
アンジェリーナが戻ってくる。
さっきの話は聞かなかったことにしよう。
「ごめんチャン、着信が来ていたのよ。」
そう言ってスマホを鞄にしまう。
トイレじゃなかったのかな?あと、着信ではなく発信したんだろ?
急に緊張して嘘も言えなくなるアンジェリーナ。
何も聞かなかったことにしようと思ったが、電話の話題が出たらならいいか。
「それで誰からの電話だったの?」
「....如月さんよ。ちょっとデートの場.....アドバイスをもらっていたのよ。」
誤魔化すも、更なる墓穴を掘るアンジェリーナ。
「デートのアドバイス?」
顔を真っ赤にし身を縮ませる。
なにこれ、アンジェリーナこんなに可愛かったか?
「ただのアドバイスよ!」
アンジェリーナの電話中にやってきたアイスコーヒーをチューとストローで飲んだ。緊張でさぞかし喉が渇いているのか、それとも恥ずかしさを誤魔化しているのか。
なんか楽しい。アンジェリーナを弄りたくなる。好きな子にいたずらする気持ちが今ならわかる。
「電話の話はいいのよ。」
半分くらい飲んだ後にシロップとミルクをグラスに入れるアンジェリーナ。
そうかい。
「それよりも、前から気になっていたけど、女の子に興味ないの?」
ちょっとまて、どっからその話がでてきた。
「私がいくら誘っても、何もしてこないじゃない。」
いきなりのビックリ発言に、俺は思わず
「いや、何かする方がまずいだろ!」
と言った。
ちょっと、ここ一応公共の場だよ、わかってるかアンジェリーナ。
「毎朝、私を起こすのに、興奮とかしないの?私いつも裸で寝ているのに。」
「おい、ちょっとやめろ。アンジェリーナ言っとくけど、ここはパブリックスペース、誰か聞いているかもしれないだろう?」
アンジェリーナが首をかしげる。
いや、その仕草いいけど、でも今じゃない。
「大声で話しているわけではないし、気にすること?それに男は下ネタの話したら喜ぶってネットに書いてたわよ?」
そこのネット記事のURLもらえるかな?
「それに、そんなに刺激が強い話していないじゃない、男の子ってベットの下に秘密の本があるって聞いたことがあるわよ。如月さんとさくらと一緒にケーキ食べ放題のお店に行った時に、如月さんが言ってたわ。」
ちょっとその偏見のソースは如月さんか。
「笠岡さんと任務に行った時にロッククライムのように岩を上るときにみた筋肉の動きがいいとか。あと同期の男の子と笠岡さんのとか、途中から何がいいのかわからなかったけど。
如月さんが男のベットの下は夢がいっぱいって言われたから、家に帰ってチャンのベットの下を探したけど段ボールしかなかったわ。」
ちょっと、まて。漁ったのか、おれのベットの下を。
「なにか、落書きのような紙がいっぱい出てきたわよ。なんか手書きの漫画みたいなやつ。」
ああああああ、ちょっと。それはだめ。
「さくらが言うには、むかしチャンが中学生に書いた絵とか言っていたけど。」
俺が厨二病の時のやつだよ、ガチのマンガでなくて、かっこいいと思ったものを書いただけの恥ずかしいやつよ。
「なんか黒マントが・・・とか」
「アンジェリーナ、もうやめてくれ。」
俺が恥ずか死ぬ。
「え、自分の作品の話いや?私は私が書いた論文とか、実験の話するの好きだけど・・・?」
アンジェリーナは、博士で優秀な研究者で、恥ずかしくないけど、俺はそうじゃ無いんだ。
「あー、えーっとまず、俺のベットの下にはエロ本無いから。あと、如月さんの話はあまり信用するな。きっといろいろ発酵している。」
如月さん、きっと彼氏いないだろうな。
「エロ本ってなに?写真集とか?」
いや、アンジェリーナさんちょっと純粋すぎじゃない?
「私、実験ばかりであまり恋愛とかチャン以外で経験したことがないからわからないのよ。」
固有名詞直後に経験って言うな、いろいろ誤解するだろ?
「ベットの下漁ったとき、さくらがお兄ちゃんは本、使ってないよって言っていたけど。」
妹、なぜ知っている。
あと、“使う”も禁止。
「アンジェリーナ、純粋なのはわかったから、そういう話はせめて公共の場以外でしてほしい。お願いだから、ほんとに。」
「わかったわ。私は如月さんが言っていた性癖を知るための本の在処を聞きたかったのにチャンが嫌がるならやめるわ。」
是非そうしてほしい。
「大切な話があるの。」
急に真剣になるアンジェリーナ。
「チャン、私あなたのこと好きよ。だから一緒にいてほしい。でも私と付き合う気があるのか、ないのか私にはわからないのよ。いつも科学だけしか勉強してこなかったから。
だからお願いがあるの。今回の旅行で私と付き合うかどうか決めてほしい。付き合わないなら私はさっぱりとあきらめるから。」
突然思いついたように言われた言葉に俺は...
俺は何も言えなかった。
-----ー
闘技場の予選会場。ここは予選のためだけでなく、私闘にもお金を払えば使うことができる。
試合に負けた森が全ての怪我が治った状態で復活した。
「なぜ手加減したのよ。」
神山は怒っていた。
森と喧嘩になった。理由も忘れた。ただ些細なことだった。だけど日頃のちょっとした鬱憤の蓄積か、それか勢いか、闘技場で勝負に負けた方が謝るというなんとも小学生がしそうな約束で試合をすることになった。
結果は私の勝ちだった。森は私に謝った。
だけど納得がいかない。
何度も勝てるシーンがあったのに、その時に限ってミスを連発したのだ。
借り物の武器だからかもしれないが、私へのトドメだけを全部外した。
私は手加減されたのだ。
「手加減したわね。」
もう一度聞く。
「力が抜けたんだよ。」
森が私にそういうが、それは絶対にない。そもそもそういうことを認める性格ではない。
「私が女だから手加減したの?」
私は聞いた。
「....そうだよ、神山静が女だから手加減してしまったんだ。」
やけくそな森。
「は?試合申し込んで置いて決着つけれるときに決着つけず、ただ負けたかったの?
私結構本気でやってたわよ。
あれだけ怒ってたのに、いざとなったらトドメもさせないの?ここは死なないってわかってるでしょ?だからここを選んで、決着の方法に私もあなたも同意した。
それで手加減って、ふざけてる?」
女の子として扱われるのは嫌いではない。むしろ好きだ。でも、勝負事に手加減させるのは一番嫌だ。
「森、あなたって本当に最悪ね。それとも手加減したことに私が納得できる理由でもあるの?」
森はものすごく深いため息を吐いたあと、大きく3回深呼吸する。
「俺が、神山静のことが好きで、どうしても神山静のことを、死なないってわかってても殺せませんでした!!」
「え?」
私は耳を疑った。
「俺は神山静のことが好きで、試合とは言えトドメをさせませんでした。」
私は困惑した。
森が私のことが好き、冗談?
いやでも、冗談ならニヤけるからすぐにわかる。
え?
本当に?
私に?
「あのー、ちょっと待て。本気?」
私は念のために聞いた。
「ここで告白する気はなかったけど、本気。だいぶん昔から神山静のことが好きだった。あと、鈴が言っていた初恋の相手も神山静だ。」
私の脳はフリーズした。
「昔、神山静に告った時は、勘違いされて告白がなかったことになったけど、今回はちゃんと告白って認識されてる?」
ちょっとやめて、いま私色いろいろ頭の中を整理中で外部情報を受け付けられない。
「もう一回言うよ。俺は神谷静のことが好きだから、付き合ってください!!」
「わかった、まって。返事は後でもいい?いまちょっと気持ちを整理したいから。」
私は思考停止した。
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