第5話 お願い その2

 無口魔王は二人が頭を下げるのを見て考える。

 いや、返事は決まっていた。もちろん『了解した』である。

 拒否などはなから考えていなかった。そもそも、気分が上がっていた無口魔王であるからして、どんな無理難題をふっかけられようと『やってやる』という心持ちだった。

 では何を考えているかというと……自分は本当にこの世界で戦えるほどの実力を持っているのだろうか? ということであった。

 彼女たちの口ぶりから判断するに、今いる世界は元の世界とは違う世界。つまりは異世界であると判断した無口魔王。

 で、二人共彼の事を『強い男』と言ってはいたが……本人は本当にそうだろうか? と疑問に思っていたのだ。

 確かに、元いた世界では謙遜をしないのであれば最強と言える力を持っていた。

 しかし、この世界ではどうか分からない。奴隷の首輪から察するに、こちらの世界でも魔術が使用されていることは無口魔王は分かっていた。

 であるならば、こちらの世界の魔術が、自分の元いた世界の魔術よりも優れているという可能性にも当然気づくわけである。

 だから、無口魔王は『二人のお願いを聞くとしても、自分の実力がこの世界においてどれくらいのものなのだろうか? 戦えるレベルなのか?』と考えているわけである。


 しかし、二人はテレパシーを使えるわけではない。リンも感情の機微を読み取れるだけであって、心までは読めない。

 で、今の無口魔王は……リンからしたら難色を示しているように感じてしまった。

 となると、流れは自ずと決まってしまうわけで。

 リンとミミは頭を下げるのを一旦止めて、二人でコソコソと話し合った後、今度は芸術的なまでの土下座をしてきた。


「ヘル。いえ、ヘル様! どうか、どうか私達の国を守って下さい! お願いします!」


 ミミが口調を変えてお願いしてくる。


「ヘル様! 無理は承知です! しかし、何卒私達を救って下さい!  こちらのお願いを聞いてくださるなら、私達二人がヘル様のものになります! ヘル様がお望みのことであれば何でもします! ですのでどうか!」


 リンも必死に土下座をしてお願いをしてくる。

 これには流石の無口魔王も慌てる。

 彼はそんなことをしてくれなくても、というか無償でこの国を守るつもりだったのだ。しかし、変に無口なせいで二人が勝手に解釈してトンデモナイことを言い出しているのだ。

 今すぐ何かアクションを取らなければならない、と無口魔王は判断する。声を掛けるのは無理である。言葉を慎重に選んでしまって返事に時間がかかりすぎてしまう。

 ならばと、無口魔王は『やる気いっぱい! お金も二人の身も命もいらない。無償でこの国を守ってあげるぞ!』という雰囲気を出来るだけ醸し出す。さあ、リンよ。俺の気持ちに気づいてくれと。そう思いながら。


 一方のリン。頭を地面に擦り付けて土下座を必死にしていた。もしこれでも駄目なら今すぐ服を脱いで全裸になり、彼に色仕掛けを仕掛けるつもりだった。

 しかし、そんなとき……ヘルの方からとてつもない雰囲気を感じ取った。

 顔を上げてみると……先程とは打って変わってとてつもなくやる気に満ち満ちたヘルがそこにいた。尋常じゃないレベルである。

 リンは理解した。自分たちのお願いが受け入れられたことに。そして、同時に……彼に一生を捧げることを誓った。これは約束であるからだ。彼がやる気になってくれた条件だと思っただ。

 リンは、隣で未だに土下座をしていたミミに小声で情報を入れる。


(ミミ。ヘルがやる気になってくれたみたいです)

(――本当!?)


 ミミはバッと顔を上げてリンを見る。

 彼女は内心歓喜した。これで、この国は守られると思ったからだ。


(ただ……約束は約束です。守ってもらう代わりに……)

(今この時点から、私達は彼のもの、でしょ? もちろんそうするわよ。私とリンはザルス王国の君主なんだから。約束はちゃんと守らないと)

(ええ、そうですね。ただ、安心していいと思います。顔は強面ですが、性格はおとなしそうな感じですし。ひどいことはしないと思いますよ)

(それなら安心ね。まあ、何をされても文句を言えない立場になったのだけど)


 ミミはヘルを見る。

 彼女からしたら相変わらず何を考えているか分からないし、顔も人殺ししそうな感じに思えた。ただ……それが今は頼りがいのある感じにも見えた。彼ならきっと守ってくれると、そう思わせるオーラがあった。


 無口魔王はミミから目線を向けられていることに気がつく。

 なにやら嬉しそうな目をしていた。それを見て、彼は理解した。自分の思いが通じたのだと。『金も、リンとミミの体も命も俺に差し出さなくていいから、国を無償で守ってやる』という自分の考えがミミに、リンに通じたのだと。

 彼はこれに答えなければならないと思い……出来る限りの笑顔で答えた。

 まあ、結果は想像通り。ミミは再度腰を抜かしておしっこを漏らしそうになり、無口魔王の方はそれを見て、いつものごとく『またやってしまったらしい……』と自己嫌悪に陥った。

 

 こうして、めちゃくちゃな展開速度ではあったが、無口魔王は知らないうちにミミとリンを自分のものにすることとなった。ザルス王国を守る、という約束を交わして。

 

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無口な魔王が異世界に召喚されました あきつしま @zuito

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