第4話 お願い その1

 あだ名が決まったところで、ミミとリンはお互いの目を見て頷き、自分たちがヘルを召喚した理由を説明することにした。

 二人はお遊びで大量の貴重な材料と金額を投入して無口魔王を召喚したわけではない。ちゃんと理由があるのだ。


 まず最初に、ミミが無口魔王に事情を説明することにした。


「ヘル。あなたを異世界から召喚したのには理由があるの。聞いてもらえるかしら?」

「…………」

「……リン。ヘルはなんて言っているの?」

「そうね……やる気に満ちた感情を感じるわ」


 無口魔王は心の中でガッツポーズを取る。それと同時に、リンのことを『なんて素敵な女性なんだ』とも思う。

 今まで自分の感情を読み取ってくれる人など一人もいなかったのだ。リンに対してはもうそれはそれは感謝しまくりである。

 

 ミミは『そうなのね』とリンに言葉を返してから……無口魔王に対して真剣な顔をしながら話をし始めた。


「私達が収めているこのザルス王国は、周りを四つの大国で囲まれている国なの。私達の国は貴重な資源が埋まっている小国で、今までは政治的努力のおかげでどこからも攻め込まれずに耐えてきた。でも、つい最近、周りの国で私達の国に埋蔵されている資源を奪うために戦争をしかけよう、という機運が高まってきて……このままだと遅かれ早かれ私達の国は攻め滅ぼされると思うわ」

「今、なんとか不可侵条約を結ぶために努力していますが……おそらくは無理だと思っています。軍備も急いで拡大していますが……国の規模、人口の規模などから戦力差は歴然。はっきり言って話にならないレベルだと思います」


 二人は顔を暗くしながら今のこの国の状況を話す。

 この国では軍事力にお金を割いたり人を割いても周りの国とは張り合えないから、政治的努力で平和的に色々と今まではしてきたのだ。

 ただ……それではもうどうしようもない状況に陥ってしまった。小国でありながら資源大国であるここザルス王国は、周りの国からしたらぜひとも自分たちのものにしたい国だったのだ。


 二人は話を続ける。


「危機的状況になってしまった私達は、どうしたらこの国の民を守れるか考えたの。何日も何日もかけて考えて、色々と調べたりもしたわ。そんなある日……書物庫の奥深くに大切に保管されていた古い本を見つけたの」

「そこには、『この国が危機に瀕した時。百年に一度に咲くと言われている貴重な花を百束用意し、千年に一度採れると言われている貴重な宝石を千個用意して、本に載っている召喚陣を書けば……異世界からこの国を救ってくださる方がお見えになるだろう(著者の予想である)』と書かれていました」

「正直怪しいし胡散臭いと思ったわ。ただ……もし本当にそうならこの状況を打開することが出来る。だから、私達は賭けに出たの。運のいいことに、貴重な花も宝石も、お金を叩けば手に入ったから。で、早速本に書いているとおりにしたら……ヘルが現れたというわけね」


 リンとミミはここからが重要だ、と思って気合いを入れる。

 先程の説明は、あくまでヘルに今この状況を理解してもらうためのもの。

 しかし、今から言うことは『自分たちのお願い』である。万が一ヘルに断られたりでもしたら……一巻の終わりである。リンとミミは如何にして犠牲を少なく敗戦するか、ということを考え始めなければならない。

 二人は再度目配せをしてから……同時に頭を下げる。


「そこでお願いがあるの。どうか私達の国を周りの四国から守ってほしいの。異世界から急に飛ばされてここに来て、意味がわからないかもしれないし怒っているのかもしれない。けれど、私達が頼れる人はもう貴方しかいないの。貴方だけが私達の、この国の民の希望なの。どうか、どうかこの国を守るために私達に協力して欲しい。お願いします」

「対価ならいくらでも払います。ただ、お金のお支払いは周りとの戦争が終わってからになると思いますが。もちろん、金銭以外もお支払いします。衣食住はもちろんのこと、ヘルが私達に協力してくれると仰ってくれるなら……私達を好きにして頂いて構いません。ヘルが私達の国を守ってくれると約束していただけるなら……私とミミの身と心、そして命を貴方に捧げるつもりです。なので、どうかお願いします」


 二人は必死に頭を下げる。

 自分たちの体や心、命を捧げることなど、この国を、民を守ることに比べれば安いものだと思っていた。

 それに、ヘルが自分たちのお願いを聞いてくれないのなら、どのみち攻め込んできた国の兵士に斬り殺されるか、捕虜となって慰み者にされるのがオチだと二人共考えていた。この世界は平和ではない。度々戦争が起こっては敗戦国の男は殺され、女は慰み者にされて使い捨てられていたのだ。

 であれば、目の前にいる男に体と心、そして命を捧げても変わりはしない、ということである。むしろ、自分たちの犠牲だけで国を守れるなら万々歳であった。

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