無口な魔王が異世界に召喚されました

あきつしま

第1話 無口で強面な魔王

 星が空を覆い、人々が夢の中へと意識を落としていく頃。

 場所は魔王城の中にある魔王の間。

 

 一人の男が部屋のど真ん中に鎮座する王座に腰を掛けながら、小さなカップ片手にティータイムを楽しんでいた。

 人が寄り付かなさそうなほど恐ろしい顔、それでいて漂うオーラがただものでない彼の名はヘルアニデス。人間を恐怖に落とし入れている魔王軍のトップ。つまり魔王である。

 そんな高い位についているのであれば、さぞかし両手に華状態だと思うだろう。

 しかし、彼の周りには女性が一人もいなかった。いや、訂正しよう。人っ子一人いなかった。

 今も見て欲しい。彼は馬鹿みたいに広い部屋でぽつんと一人きりでティターイムを洒落込んでいる。

 夜遅いから、人がいないだけじゃないか? いいや、朝でも昼でも変わらない。彼の周りには誰もいない。ついでに言えば、魔王がいる魔王城には彼一人しか住んでいない。

 なんとも寂しい魔王である。


 しかし、見る人が見れば『なんてかっこいい魔王なんだ』となるかもしれない。魔王は孤高の存在で、一人でありとあらゆることして無双するものだと。

 意図的にそういうことで一人きりになっているのだとすれば、まあ頷ける。しかし、この魔王の場合は意図せずに一人きりになっているのだ。

 誰も周りに近寄らない理由。それは……


 ズズズズズ………


「…………」


 ズズズズズ………


「…………」


 お茶を飲む音だけが魔王の間に響く。彼は一言も喋らない。何かを考えているのか、元々恐ろしかった顔が人を殺しそうな顔つきみたいになってしまっている。


 おわかりいただけただろうか? いや、これだけでは分からないかもしれないので早々に結論を言ってしまおう。

 彼の周りに誰もいない理由。それはずばり、無口で顔が怖いからである。

 強面でも話してみると意外と気さくな人で印象が変わった、などという話はよく聞くことであるが、彼はそもそも何も話さない。無口、超絶無口なのである。

 魔王軍の作戦会議で部下にこれからどうしましょうか、と聞かれても何も答えない。ご命令を、と言われてもその人の顔を見るだけで何も発しない。

 何も言わないから、この魔王が何を考えているのか周りは理解できない。

 面が良かったり優しそうな表情をしていれば、まだ人は寄り付いてくるだろう。しかし、彼は何度も言っている通り、とても怖い顔をしている。彼の顔を見た人間は必ず失禁からの失神をし、魔王の部下である人たちも腰が抜けるレベルで怖い顔をしている。

 彼は努めて優しい顔をしているつもりだが、むしろそれが恐ろしさを加速させていっているので手に負えない。


 別に彼は物理的に話せない、とかそういうわけではない。出そうと思えば声は出せる。しかし、彼は非常に言葉を考えて話そうとする。

 挨拶一つにしても、気さくな感じが良いのか、魔王としてふさわしいオーラをだしたほうがいいのか、下手に出てヘコヘコしたほうがいいのか、ゴミを見るような目でしたほうがいいのか、などなど、めちゃくちゃ色々と考えているのだ。

 そんなことを考えているものだから何時まで経っても話せない。彼の声を聞きたいと思うなら、挨拶であれば『おはようございます』と言ってから少なくとも十時間は待たないといけないだろう。

 ここまで異常なほど考えて口に出そうとするのには訳があるのだが……今は割愛しよう。


 話が長くなってしまったが、そんな魔王だから誰も近寄らなくなってしまった。魔王軍の幹部は、彼の耳に情報を入れるためにたまーに魔王城に足を運ぶが、それ以外全く訪れてくれない。

 ちなみにこの無口魔王。人間との戦い自体乗り気でない。そもそも人間との戦いだって魔王の幹部が勝手に推し進めたことで、魔王は一度たりとも許可を出していない。しかし、ご覧の通り何も言わない魔王なので、部下がある意味やりたい放題しているということだ。


 無口魔王は正直言って辟易としていた。魔王を辞めたいと思っていた。

 彼はこの世界で初めて誕生した魔王、つまり始祖の魔王である。

 そうなった経緯は無口魔王自体知らない。周りが勝手に彼を祭り上げて今の地位に就かせただけだ。

 おそらくは、無口魔王の魔術の才能が凄まじく、世界最強とも言える実力があるからだろうが……そんなすごい彼は人間との戦争が始まって十年、一度たりとも戦争に行ったことはない。


 無口魔王は空になったティーカップを手にしながらため息をつく。魔王軍の長を辞めたいと思いながら。そして、それが自分には出来ないと分かっているから、こう思った。いや、こう思ってしまった。

 『誰か、俺をどこかの世界へと連れて行ってはくれないかと』

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る