最高の褒め言葉
魔王と言われた人物は違うと言っていた。
じゃ、何故、キール兄様の名を名乗ったのだろう?
私がそんな事を考えながらボーっとしていると、ミナスティリアが声をかけてきた。
「あなた、キリク……いえ、キールという人の妹なの?」
「……ええ、私の名前はアリシア・オルフェリア・H・セイラムよ。あの、魔王はキール兄様の名を語ったのは本当?」
私がそう聞くと、ミナスティリアは頷き、南側であったことを簡単に説明してくれた。
やはりライラ姉様の言っていた通りね。
もし、キリクという人がキール兄様なら、アレスと二人で逃げ延びたってことなの?
そうしたら、私はアレスに対して酷い事をしてしまったわ……。
私はあの時のアレスの言葉を思い出す。
必ず守る、約束をする。
アレスはそう言った。
けれど、オルフェリア王国が滅ぶと共にキール兄様は亡くなったと思っていた。
だから、アレスを恨んだ。
約束を破ったと……。
でも、もしかしたら……。
「……あの、あなたは勇者とさっき言ってたわよね。それで、聞きたいのだけどキール兄様の友人でアレスというハーフエルフがいたの。もしかして勇者アレスは、その……私の知ってるアレスなの?」
「それは……」
ミナスティリアは私の質問に困ったような顔をする。
すると、それを見ていた仮面をした騎士が私に言ってきた。
「すまないが勇者アレスの正体は誰も知らないんだ。亡くなった時も跡形もなくなっていたからな」
「……そうなのね。それじゃあ、本人かわからないわね……」
私は話しを聞いて首を垂れていると、ミナスティリアが私に言ってきた。
「あなたのお兄様かもしれない、キリクなら知ってるかもしれないわ。だから、待っていて欲しいの」
「魂を取り戻すまでですか?……あの、それは私にも手伝えるの?」
「ごめんなさい。私達は主で動いてるわけではないから、わからないのよ……」
ミナスティリアはそう言ってとても切なそうな表情をする。
だから、私は気づいてしまう。
キール兄様の事が好きなんだって。
他にも同じような表情をしてる人達がいて私はほっとしてしまう。
「……良かった。キール兄様はきっと幸せな生活を送れてたのね」
私がキール兄様が辛い人生を送ってないのがわかり、嬉しくてそう言うと、ミナスティリアや周りにいた子達が悲しそうな表情をした。
私はそんな彼女達を見て嫌な予感がしていると、仮面の騎士が無念そうに言ってきた言葉に私は愕然としてしまう。
「あいつはずっと一人みたいなものだった。そして傷つき苦しみ続けていた。だが、あいつがオルフェリア王国の王族ならなんであんな考え方や行動をしたのか腑に落ちてしまう。そうなると頑なに姿を出さなかったのもわかるな。きっと自分という存在を消してしまいたかったのかもしれないな……」
「……そんな、どうして?」
「私も王族の端くれだからわかる。オルフェリア王国は大勢の民と共に滅びたのだろう。なのに自分だけ生き残ったのだ。誰よりも優しく真面目で責任感のある男だ。辛かっただろうな」
仮面の騎士はそう言うと俯いて黙ってしまう。
するとサジが悲しそうな顔で言ってきた。
「いつも、自分の命を削るような戦いをしていたのはそういう事だったのですね……。だから、きっと疲れてしまったんでしょう」
「そこを闇の力に取り込まれたのね……」
ミナスティリアも悟った様な表情を浮かべる。
そんな皆んなの言葉を聞き私は何も言えなかった。
ずっと傷つき苦しんでいたの?
キール兄様が……。
私は苦しんでいるキール兄様を想像してしまい、頭が真っ白になってふらついてしまった。
そんな、私の背中をミナスティリアが手を添えて支え声をかけてくる。
「……大丈夫?」
「ええ、ありがとう……」
私は何とか自分で立ち礼を言うとミナスティリアは第二障壁の方を見ながら私に言ってきた。
「私達はこれからトーラスに第三障壁の先に案内してもらうけど、あなたは何処か休める所に避難したら?」
ミナスティリアは心配そうな顔でそう言ってくる為、私は首を振る。
「キール兄様が今も苦しんでるかもしれないのに休んでる暇なんてないわ」
それに助けれるかもしれないのに、その時に側にいなかったなんて絶対に嫌だ。
だから、私はどんな事があっても先に進む。
そんな私の思いに気づいたのか、ミナスティリアは目を見開いて私を見た後に頷く。
「あなたが彼の妹だからって先に進む事を決めた以上は優しく扱わないわよ」
「望むところよ。私はこう見えてローグ王国でも五本の指に入る魔導師なの。遠慮しなくて良いわよ。なんなら私が先頭を行きましょうか?」
私はそう言って不敵に笑みを浮かべると仮面の騎士が顎に手を当てて呟く。
「やはり、あいつの妹だな……」
私はその呟きを聞き嬉しくなる。
だって、自分がキール兄様に似てるっていわれたのだから。
それって最高の褒め言葉じゃない。
私は心の中でそう思いながら思わずにやけてしまうのだった。
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