破られる結界

 俺の目の前には怒った顔をしたミナスティリアが、剣の先を俺に向けていた。

 まあ、攻撃したから怒るのは当たり前だろうが、おそらく怒っているのはそれが理由ではないだろう。


 全く、記憶があるのはやりにくいな。


 俺はそう思いながらも再び、黒魔法を使う。

 魔王の力なのか無詠唱で撃てるから便利である。

 すると、俺の魔法に魔法を当てて相殺してきた人物がいた。


 マルーか……。

 何故、ここに?

 いや、どうでもいいか。


 俺はラグナルクをゆっくりマルーに向ける。

 この大剣は宝具並みの強さはあるが、宝具解放みたいなものは使えない。

 しかも、斬った錯覚みたいなものは出せるが、結界は斬れないのだ。

 要はただ神を殺せる剣なだけで、実は中々使い勝手が悪かったのだ。


 全く、これならカーミラに魔導具の剣でも作ってもらえば良かった。

 俺はそう思いながらもマルーに向かっていくと、白銀に騎士の姿をしたブレドが俺の邪魔をしてきた。


「お前の相手は私がしよう」


「ふん、相変わらずおかしな格好をしているな」


「むっ、記憶まであるのか……。お前はキリクではないのだな?」


「ああ、俺は魔王だよ。白銀の騎士殿」


 俺はそう言いながら大剣を振るうと、ブレドは宝具クラレンツで弾き、魔法を唱えてきた。


「第六神層領域より我に聖なる力を与えたまえ……ホーリー・ウィンド!」


 間近で聖なる力を帯びた風を出され、闇の力で作られた鎧が揺らぎ一部が削れてしまう。

 するとそれを見たブレドは更に魔法を唱えてきた。


「第六神層領域より我に聖なる力を与えたまえ……ホーリー・アロー!」


 ブレドがそう言うと同時に俺はすぐにその場から離れる。

 おかげで光りの矢は何とか回避する事ができたが、今度はミナスティリアが俺に向かってきた。


「魔王、さっさとその身体から出ていきなさいよ」


 ミナスティリアはそう言ってレバンティンで斬りかかって来たので、俺はラグナルクで受け止めると、そのまま力押しする。

 

「ふん、無理なことぐらいわかるだろう」


「全く、声や雰囲気まで似せて……。でも、気配は全然違うのよね。それがまた苛々するのよ」


「それは悪かったな」


「……あなた本当に魔王なの?」


 ミナスティリアは俺に斬りかかりながら質問してくる為、俺はその攻撃を受け止めながら答えた。


「あくまで魔王という言葉が今の俺の行動にしっくりしてるから名乗っているだけだ。それともアレスとでも名乗って欲しいか?」


「ふざけないで。ただ、どういう存在かは良くわかったわ」


 ミナスティリアはそう言うと俺から離れたのだが、その瞬間、俺を囲うように結界が張られた。


「ちっ、面倒な事を……」


 俺は結界を攻撃するが、ヒビ一つ入らなかった。

 するとミナスティリアが不敵な笑みを浮かべながら言ってきた。


「どうかしら、自分が結界に入れられる気分は?」


「ずっと閉じ込めらてたから慣れたもんだよ。それより、良いのか?俺は仕事を終わらせたぞ」


 俺は手をすくめてそう答えると、ミナスティリアは目を細めて睨んでくる。


「……何をしたの?」


「ここにいるのは俺とヨトスだけだぞ」


「まさか、カーミラが何かしてるの?」


「結界には結界をだ」


 俺がそう言って後ろの二つ目の壁の方を見ると、丁度結界が消えていくところだった。

 どうやら、カーミラが上手く結界を中和したらしい。

 仕事が終わったので俺はヨトスに声をかける。


『ヨトス、やってくれ』


『ギギギ、ワカッタ』


 ヨトスが頷いた瞬間、地面から手のひら程の大きさのアカラベという昆虫の魔物が大量に飛び出し、俺を囲う結界に飛びつくとあっという間に結界を喰い尽くした。


『ギギギ、デハモウイクゾ』


『ああ、助かった』


 ヨトスは俺の言葉をきくなり地面に開いた穴に飛び込む。

 俺はそれを確認した後、ラグナルクに力を入れ地面に突き立てた。

 すると周りにいた連中は皆んな膝をついて、慌てて自分の身体を触りだす。

 おそらく自分の身体を斬られたと思い込んだのだろう。


 さて、今のうちに行くか。


 俺はそう思い踵を返すと、一人の女エルフが俺に向かって叫んてきた。


「キール兄様!」


「……お前は誰だ?」


「アリシアです。私のことはお忘れですか?」


「……残念だが、俺はお前の兄じゃない」


 俺はそう言うとアリシアというエルフは絶望的な表情を浮かべる。

 しかし、俺は何も感じることはなく、カーミラ達の元へと飛び立つのだった。



 


 俺は二つ目の壁を飛び越え、カーミラと巨人の右腕、それに地面から飛び出してきたヨトスの側に降り立つ。

 するとカーミラが手を振ってきた。


「囮ご苦労様ぁ」


「上手くやれたみたいだな。後は三つ目か」


「三つ目は鉄鋼騎士団ってのだけよぉ」


「だが、後ろに勇者パーティーが来てるぞ」


「じゃあ、早く行かなきゃあ。ふう、しかし長かったわあ。やっとよぉ」


「アステリアの魂の欠片か……」


「そう、だからこそアステリアは私の言うことを聞く。だって私自身なんだものぉ」


 カーミラはそう言うとデモン・セルを取り出しながら三つ目の壁を見る。


「私の騎士達、後、一つよ。しっかりと仕事をしなさい」


「……了解」


 俺は軽く騎士の礼をとると巨人の右腕はそれぞれポケットから大事そうに物を出し始める。

 俺の隣りに立っていたベネットは写真を取り出し見つめながら呟く。


「父ちゃんがこれから全部終わらせてやるからな」


 そう言って狂化薬が入った小瓶を取り出して一気に中身を飲んだ。

 すると、次々と巨人の右腕のメンバーも小瓶を取り出し飲んでいき、しばらくすると俺に血走った目を向けてきた。

 それを見た俺は頷くと、全てを終わらせる為に三つ目の壁へと進みだすのだった。


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