過去編31 聖オルレリウス歴354X年五ノ月
ミラは気がついたら豪華な部屋に立っていた。
辺りを見回し、誰かの衣装部屋である事に気づく。
「ま、まずいわ……。早く出なきゃ!」
ミラは慌てて部屋から出ようとしたが、鏡台の上に置いてある化粧品に目がいき立ち止まってしまう。
そして、ゆっくりと近づき口紅に手を伸ばそうとしてはっとする。
私、何やってるんだろう……。
でも、綺麗……。
ミラは口紅の赤い色をうっとりと見つめた後、鏡に映る自分を見て落ち込む。
こんな見窄らしい姿の私には似合わないよね……。
ミラは俯きながら部屋を出ようとした時、また頭の中で声が聞こえてきた。
『何言ってるの?あなたなら似合うわよ』
「……そんな事ないよ」
『いいえ、きっと似合うわ。付けてみて』
「だ、駄目だよ。人のものを取っちゃ……」
『何言ってるのよ。これはあなたのものでもあるのよ』
「えっ?」
『当たり前じゃない。あなたが結界を張ってるから皆んな平和で贅沢な生活ができるのよ。なのにあなたは何ももらえてないじゃない。それに皆んなはあなたに沢山のお礼を言わなきゃいけないのよ。ありがとうミラって』
頭の中の声を聞いたミラは驚いて鏡を見る。
するとミラの顔は満面の笑みを浮かべていたのだ。
それは一番聞きたかった言葉だったからだ。
だから、ミラは頭の中の声に心を開いてしまう。
この人はわかってくれると。
すると、頭の中でまた声が聞こえてきた。
『さあ、その口紅を塗ってみて』
「うん!」
ミラはもう、気にする事なく口紅を持つと嬉しそうに唇に塗っていく。
その瞬間、ミラの表情は薄気味悪い笑みになった。
「馬鹿ね。聖女が禁忌を犯しちゃだめよお」
ミラはそう呟くと無詠唱でクリーンを唱えた。
するとミラの身体中に水の膜が張り、汚れを落としていく。
それと同時に白髪は黒く染まっていき、青い目は赤くなった。
「ふふふ、さあ、後は綺麗な服を着ないとねえ」
ミラは鼻歌を歌いながら服を脱ぐと衣装を手に取る。
「何これえ……。色々付き過ぎよお」
ミラは衣装を取っては次々と投げ捨てる。
そしてシンプルな黒いドレスを見つけるとニヤッと笑った。
「良いじゃない」
そして黒いドレスを着て鏡の前に立ちポーズを決める。
「ずっとやってみたかったのよねえ。こういうの。でも、この貧相な身体じゃ駄目ね。もっと食べなきゃいけないわよお、ミラちゃん」
ミラは鏡に映る自分に向かってウィンクすると指を鳴らす。
「さて、次はあなた達が苦しむ番よお。ふふふっ」
ミラはそう言うとぞっとする様な笑みを浮かべるのだった。
◇◇◇◇
フラジアス王国の王都は大混乱に落ちいっていた。
少し前に王都に大量の魔物が侵入してきたからだった。
そんな中、謁見の間では避難していた王族の面々が集まり、焦った表情で様子を見に行かせた者の報告を待っていたが、レジアスは我慢出来なくなったのか膝を叩いた後、勢いよく立ち上がるとジェイクを見た。
「ジェイク、あの平民を連れて来い!」
「父上、何故ですか?神聖な謁見の間に平民如きを連れて来る必要はないでしょう?」
「馬鹿者!あやつがこの王都に結界を張っているのだぞ!」
「えっ、まさか本当にあれが結界を張っていると信じているのですか?」
ジェイクは疑う様な目でそう言うと、レジアスは驚いた顔でジェイクに詰め寄る。
「ま、まさか、信じていなかったのか?」
「当たり前でしょう。誰もそんな事は信じておりませんよ」
ジェイクは側にいるアーノルドを見ると自信満々に頷き、周りにいた者達も同じ様に頷いた。
「……馬鹿な。ルグラト、どういう事だ?」
レジアスが驚愕した表情でルグラトを見ると、溢れ出て来る冷や汗をハンカチで拭きながら俯いてしまう。
それを見たレジアスは気づいた。
「まさか、わし以外は信じていなかったのか……。はっ、教会の連中はどうした?あやつらは何も言わなかったのか?」
レジアスが誰となく聞くとジェイクがその質問に自慢げな口調で答える。
「あいつらなら、全員辞めさせましたよ。毎日祈りしか捧げずに国庫から金を貪り食ってましたからね。しかもあの平民を崇めろなんて言って不敬罪で斬ってやろうかと思いましたよ。なあっ?」
ジェイクはそう言って周りを見ると皆んな怒り顔になり頷く。
「……何という事だ」
レジアスはヨロヨロと玉座に戻ると座り込み顔を覆ったが、すぐに顔を上げる。
「聖女ミラを急いで呼んで来い!これは王命だ!」
レジアスはそう叫んだが、すぐにジェイクが笑いだす。
「何を言ってるのですか?あんなの読んでもせいぜい治療しかできないでしょう。なら、前線に出せば良いのですよ。ふむ、我ながら良い案じゃないか。そうしよう」
ジェイクがそう言って周りを見ると皆んなも、賛成とばかりに拍手をしだした。
そんな光景にレジアスは怒り顔で怒鳴る。
「何を言ってるのだ!今、王都中に魔物が溢れているのだぞ!聖女ミラをここに連れてきて結界を張らないと魔王軍がいつかここにも来るかもしれないのだぞ!」
「魔王軍ですか……。本当にいるんですかね?今回はたまたま王都に上手く入ってしまっただけでしょう。すぐに我がフラジアス王国騎士団が倒してくれますよ」
「馬鹿者!今の魔物を舐めるな!あの強い騎士団がいたオルフェリア王国だって滅んだのだぞ!」
「ああ、あの長耳族の混じり者が沢山いるとこですか。厄介だったから滅んで正解だったじゃないですか」
「そういう事を今言ってるんじゃない!」
レジアスは叫ぶが、もう周りにいる連中に自分の言葉は響かない事に気づき、ミラを自分で探しに行こうと玉座を立つ。
その時、謁見の間の扉が開き化粧にドレスを決めて痩せてはいるが美しい姿になった黒髪赤目のミラが入って来た。
そして、周りを一瞥すると不敵な笑みを浮かべる。
「皆んな待たせたわねえ。さあ、苦しむ時間よお」
そう言うとミラは舌舐めずりするのだった。
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