お抱えか自由か
「キリクさん……」
あれから、疲れている皆んなには悪いと思い、俺とサリエラは屋敷を出たのだが、屋敷を出るとサリエラが寂しそうな顔で俺の服を掴んできた。
「どうした?」
「私達ダンジョンに入るわけですがまた離れ離れになってしまいますね……」
「ああ、案外途中で合流するかもしれないぞ。なんせ目指してる場所は同じなんだしな」
「あっ、確かにそうですね!」
「ただ、進軍の日取りは決まってるが俺達がダンジョンに入るタイミングは連中次第だからな」
「確かにそうですね……。はあ、本当はキリクさん達と一緒に行きたかったですよ」
「まあ、アダマンタイト級以上は、基本的に王国お抱えになってしまうからな。まあ、手厚い対応はなくなるがオルトス達みたいに自由を取るのもありだぞ」
「そうなると仕送りができなくなりそうで……」
「なんだサリエラは仕送りをしてるのか?」
「はい、実をいうと子供の頃に大きな病にかかってしまって……その時に莫大な費用を長老である祖父に借りたんです」
「なるほど、だから冒険者をして返済をしてるわけか」
「はい。まあ、祖父は別に返す必要はないって言ってくれたんですけど、私がやっぱりそういうのは嫌で……」
「じゃあ、その返済が終わるまでは王国お抱えをし続ける感じか」
「はい。でも、ほとんど返済も済んだんですよ。後は今後の為というか何というか……」
サリエラはそう言って何故か俺をチラチラと見てくる。
もしかして、俺が冒険者のイロハを教えてるから請求をすると思っているのだろうか?
別に俺は請求などしないんだがな。
「サリエラ、俺は別にイロハを教えたからって請求はしないから安心しろよ」
「えっ?あっ、そういえば私、キリクさんに色々と教わったり迷惑をかけてるのに何もお礼をしていません‼︎」
「いや、それを言ったら俺もサリエラに迷惑かけてるからな……」
看病とかしてもらったり、サリエラの将来を危ぶませる事もしたしな……。
「……だから必要はないぞ」
俺がそう言うとサリエラは顔を近づけてきて、全く怖くない怒った顔をしてくる。
「ダメです!ちゃんとそういうのはしないと‼︎キリクさんは何か欲しいものはありますか?それとも私にして欲しい事とか?」
「別にないな」
「えー!本当にないんですか⁉︎」
「本当にないな」
「うう……キリクさん、私にはキリクさんに何かしてあげれる事はないんでしょうか?」
「そんな事を言われてもな……」
装備も道具も揃ったし、所持金も別に困ってはいない。
そんな事を思っていると、サリエラは寂しそうに俺を見つめてくる為、何かないだろうかと周りを見ると魔導具を売ってる店を発見した。
よし、あそこで手頃な値段のものを買ってもらおう。
「そう言えば魔導具で欲しいのがあったな。丁度あそこに店があるから行ってみるか……」
俺がそう言って店の方に歩き出すと、サリエラは俺の腕にしがみついて微笑んでくる。
俺はそんなサリエラの顔を見てドキッとしたのだが、すぐに胸が苦しくなった。
いつかは離れなきゃいけないんだよ……。
幼い頃の自分が側で囁いてくる。
だから、俺は頷く。
心の底では手放したくないと叫んでいても。
側にいたいと思っても。
ダメだよ。
忘れたの?
幼い頃の自分が俺の腕を掴み前を指差す。
すると目の前にはあの日に亡くなった人々が責める様に俺を見つめていた。
そして幼い頃の自分が俺に言ってくる。
忘れちゃだめだよ。
「……そうだな。忘れちゃいけないな」
「キリクさん?」
「……いや、何でもない。それより、魔導具を見よう」
俺は店に置いてある魔導具を適当に取って見ていく。
正直、欲しいものがないのでどうしようかと思っていると、店主が俺達に声を掛けてきた。
「いらっしゃい、何をお探しで?」
「……ああ、ダンジョンで使えそうなものはあるか?」
「戦闘、探索、調理、それに属性の力が入った宝石のアクセサリーなど色々取り揃えていますよ」
「アクセサリーか……。そういえば力のアミュレットしか持ってないな。アクセサリーを見せてくれ」
「ではこちらへ」
店主は俺達をアクセサリーを扱ってる棚まで案内してくれる。
「軽い状態異常を三回防ぐ腕輪とかお勧めですよ」
「わかった、少し見てみる」
「ごゆっくり」
店主は頭を下げるとカウンターに戻っていった。
「いっぱいありますね」
「サリエラはそういえば、こういうのは持ってないのか?」
「私は持ってませんね。属性付与は自分でできますし、状態異常は精霊が防いだり治療してくれますからね」
「なるほど、相変わらずのハイスペックだな。ふむ、ならこれはどうだ?魔力切れになりそうな時にこれがあると便利だぞ」
俺はそう言って魔力を少量だけ蓄えておける指輪をサリエラに渡す。
すると、サリエラは渡された指輪をじっと見つめた後、何故か同じ種類の指輪を探し出し俺に見せてきた。
「サリエラ、二つ買うのか?」
「キリクさん、私からのプレゼントです」
サリエラはそう言うとカウンターに行き支払いを済ませてしまう。
そして戻ってくると俺の指にはめてきて微笑むのだった。
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