賢聖と語る


 翌日、俺達は迷宮都市ラビュントス内にある冒険者ギルドに来ていた。


「まずはネイアとブルドー男爵の行方を聞こう。場合によっては穢れた血縁者の討伐依頼より優先するからな」


 俺はサリエラにそう伝えた後、受付にネイアとブルドー男爵の行方を聞いてみることにした。


「南側に入ってからの情報はございませんね。現在、かなりの人数を使って探させてますが、所在不明です……」


「念の為に聞くが迷宮都市ラビュントスにはバレずに入れるか?」


「残念ですがあります。ただ、そちらの方にも手を伸ばしましたが、痕跡はなかったそうです」


「じゃあ、他の場所に行ったのか……。すまないが、ここ以外に南側に入って一番近い村や町はあるか?」


「ありませんし人が隠れるような場所もないです。実際に地図を見てみますか?」


「ああ、頼む」


 俺がそう答えると受付は南側全体のみが描かれた地図を持ってきてくれ、確認すると受付が言ったように南側に入って一番近いのは迷宮都市ラビュントスだけであった。

 

 奴らは何処へ行ったんだ?

 短距離転移魔法を連続で使って何処かに移動したのか……。

 それとも遠距離転移魔法……。

 いや、そんな魔法を使えるのはカーミラだけで、そもそもそんな魔法や魔導具はないはずだ。

 だが、カーミラが関係しているとしたら?


 俺はロトワール王国で会ったカーミラを思い出す。

 カーミラが化けていたカリナはあの後、ロトワール王国を病気を理由に去ったらしい。

 

 とりあえず、これ以上はネイアとブルドー男爵の行方を探るのは難しいだろう。

 なら、穢れた血縁者の討伐が始まるまでにグラドラスの所に行った方が良さそうだな。


 俺は受付に礼を言ってその場を離れると、サリエラといったん別れてグラドラスが泊まっている宿に向かった。


「やあ、キリク」


 グラドラスは広い部屋に俺を招き入れると沢山の資料や本が積んであるテーブルに案内する。

 おかげで座った瞬間、対面に座ったグラドラスの顔が見えなくなってしまったが、そんな事を気にする様子もなくグラドラスは喋り出した。


「早速だが、その剣の調子はどうかな?」


「斬った箇所が黒くなって萎れたぞ……」


「刻んだ文字通り吸い取ったんだよ。上手くいって良かったねえ」


 グラドラスの顔は見えないが、自分の思った通りになり満足してニヤニヤしているのだろう。

 俺は目の前の本を叩いてグラドラスの顔にぶつけてやりたい気持ちになったが、我慢して話しを進めることにする。


「何故、ロゼリア文明文字を?」


「僕はこの数年間、ある事を追っていたんだ。それが旧ロゼリア文明でね。それを調べているうちに文字に力がある事に気づいたんだよ」


 グラドラスはそう言うと手の平サイズの小さい金属の箱を俺に渡してきたので見ると箱の表面にはロゼリア文明文字が刻まれていた。


「小さいやつでいいから魔石を当ててみなよ」


「……危険じゃないよな?」


「誓って大丈夫だよ」


「ちっ……」


 こいつに何を言われても信用できないんだが、やるしかないか……。


 俺はグラドラスの言葉は信用してなかったが、好奇心に負け魔石を取り出し魔石を近づけてみた。

 すると魔石から魔力が吸われ箱に刻まれた文字が淡く光ると、ニヤニヤ笑っている髭もじゃのドワーフの顔が浮かび上がったのだ。

 その瞬間、俺は箱をグラドラスがいる方に投げつけるとすぐにグラドラスは爆笑しだした。


「はっはっは‼︎びっくりしたろ⁉︎」


「……正直、俺が生きていた中でも五本の指に入るほど殺意が沸いたぞ」


「わはははっ‼︎そりゃ、大成功だな‼︎ こいつを脳筋王にも送りつけてやろうと思っているんだが絶対面白くならないかい?」


「ふん、良い案だが俺で試すな……」


「いやあ、感情が乏しい君がその反応するなら誰にでも聞くだろ。まあ、とにかくそんな感じに文字を刻んで魔力を注ぐだけでこれだからな」


「何言ってるんだ……。これを作るのは相当大変だっただろう」


 俺は自分で作った小型の筒状の物をグラドラスに投げるように渡すと、興味深そうに見出した。


「キリク、お前もロゼリア文明文字を使って作ったのか……。これは罠が発動するやつか。ずいぶんと手が混んでいるな」


「東側の魔王のダンジョンで見たやつを何とか再現できないか試して作ったら、おもちゃ程度の作用しかないがそれができた」


「なるほど。魔王のダンジョンにも使われていたのか。ふむふむ……実に興味深いな。ますます旧ロゼリア文明を見たくなったな」


 グラドラスは悪そうな笑みを浮かべ、俺が見せたトラップアイテムを見つめる。

 この手の顔をしている時は悪巧みを考えている事が多く、俺は嫌な予感しかしなかった。


 このまま考えさせていると、碌でもないことを考えそうだからやめさせないといけないが……。

 そういえば丁度こいつには聞きたいことがあったな。


「……グラドラス、魔核がある連中に盗まれたんだが知ってるか?」


「ああ、魔王信者のブルドー男爵にだろう。今はこの迷宮都市ラビュントスのダンジョンに入ろうと頑張ってるところだね」


「……お前知ってるのか?」


「ああ、キリクを呼んだのもそれに関係あるからね」


 グラドラスはそう言い、指を鳴らすと扉が開いて中から一人のメイドが入ってきた。

 そして俺を見るとニタァッと笑ったのだが、その顔を見て俺はこのメイドが誰か理解した。


「お前、魔王のダンジョンであった道化師の女か……」


「はあああああいいいいぃーーー!覚えてて頂いてありがあああああとうごさいますう‼︎アリスでございます」


 道化師の姿からメイド姿になった闇人、ハートのアリスは嬉しそうに言うと最後は丁寧にお辞儀するのだった。

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