四章

レオスハルト国王からの依頼

67


 スノール王国から移動し、無事にレオスハルト王国に到着した俺はすぐにバラハルトに会いに行った。


「久しぶりだな、キリクよ」


 玉座に座る穏やかそうだが食えない老人、国王バラハルトはそう言ってきた。俺は軽く頭を下げる。


「お久しぶりです……。それで何の用でしょう?」

「うむ。魔王のダンジョンで動きがあったと報告を受け、それで近いうち冒険者ギルドとクランで進軍をすることに決めた。だが、少々問題が起きてな」


 すると側にいた白狼騎士団の団長リミアは俺に調査報告書を渡してくる。俺は報告書を読み顔を顰めた。

 内容は立ち入り禁止にしていたレクタルから死霊術師が突然現れ、東側の前線の方に逃げていったと書かれていたからだ。

 更にはネクロスの書が魔王の手に渡った可能性があるとも。俺は顔を上げるとバラハルトは頷く。


「キリク、お主を呼んだのはそれが理由だ」

「不死の領域の言葉がわかる俺に前線に行けと」

「そうだ。お主は向こう側に関して誰よりも知識がある。最悪、お主がいれば不死の住人を帰らす事ができるかもしれないからな。なに、命を捨てれる護衛は用意しておく」


 バラハルトはそう言うと俺を真っ直ぐ見つめる。その表情には色々な思いが混じっていたが、一番強かったのは謝罪だった。俺は内心苦笑する。


 別に気にする必要はないんだがな。


 むしろ、立派な場所を提供してくれた事に感謝しないといけないぐらいだと思っていると、リミアが突然、俺の横に立ちバラハルトに進言したのだ。


「国王様、私は反対です! いくら、護衛を付けても彼の力量では生き残れません。そんなにあそこは甘くはないのですよ!」


 するとバラハルトは目を閉じ呟く。


「そんなことはわしもキリクもわかっておるよ」

「え……」


 リミアは俺を見るため頷く。するとバラハルトが再び口を開いた。


「キリクはレオスハルト王国のため……いや、ネイダール大陸のために死んでくれると言っているのだ」

「そんな……」


 リミアは驚いた表情で再び俺を見た。おそらく低ランク冒険者がそんな覚悟を持ってるとは思わなかったのかもしれない。

 だが、俺の表情を見て気づく。


「本気なのねキリク……」

「ああ。不死の住人は絶対にネイダール大陸にいてはいけない。それを防げる可能性があるならどんな事をしても止めなきゃいけない。命にかえてもな」

「でも、あの場所はそんなに優しくないのよ。きっと無駄死にしてしまうわ……」


 リミアは悲しげな表情を浮かべる。俺はそんなリミアに心の中で答える。わかっているさと。何せ、前線はそんな甘い場所じゃないのはずっと戦っていた俺自身が一番理解しているからだ。

 だが、だからこそ、この依頼をやれるのは俺しかできないのだとも。


 だから、悪いな。


 俺はバラハルトを見る。話しは終わりだと。するとバラハルトは理解したとばかりに頷いた。

 

「……話しは以上だ。後はお主が前線に行くための馬車を用意してある。それに乗って前線近くにあるランバール要塞へ向かってくれ」

「わかりました」


 俺は頷くと謁見の間を足早に出る。しかし、すぐにリミアに呼び止められてしまった。


「キリク」

「なんだ?」

「……死なないでね。知った顔が死ぬこと程、辛いものはないから」


 だが、俺は無言でリミアを見つめるだけだった。約束はできないからだ。

 するとリミアは諦めた表情を浮かべながら去っていった。俺はリミアの去っていった方を見つめる。

 

「すまない……」


 そして軽く頭を下げるとその場を後にするのだった。



 あれから、馬車が待機してる場所に向かうと、なぜがフォンズ副団長がいたのだ。しかも俺に気づくと駆け寄ってきたのである。


「キリク殿」

「なぜ、こんなところにフォンズ副団長がいるんだ?」


 俺は思ったことを口にするとフォンズが周りを気にした後、小声で答えてくる。


「貴公の耳に入れておきたい情報があるからだ」

「情報?」

「うむ。この馬車はランバール要塞に向かうわけだが、もしかしたら各国から送られてくる補給物資を運ぶ馬車と一緒になってしまう可能性がある。そうなると厄介なことが起こるかもしれないと伝えに来たのだ」

「厄介なこと?」

「その馬車が最近よく狙われるのだ」

「補給物資を強奪するためか……」

「そうだ。だから、もし連中と遭遇したら貴公にはすぐ逃げてもらいたい。大事な任務があるのだからな」

「わかった。しかし、そんなに賊は強いのか? 補給物資を運ぶ部隊はかなり腕が立つはずなんだが」


 するとフォンズは難しい顔をしながら答えてくる。


「それが護衛を倒せる実力以外はわからないのだ」

「どういうことだ?」

「奴らは襲った者達を全員口封じもかねて殺してしまい、魔導具か何かで痕跡も消してしまっているらしくてな……」

「なるほど。それは厄介だな」

「ああ、だから今回は高ランク冒険者のパーティーに内密で討伐依頼を出したのだよ」

「だから直接、俺に言いにきたのか」

「人伝だとまずいからな。まあ、そういう事なので賊が出たらすぐに逃げてもらいたい」

「わかった」


 俺は頷くと馬車の荷台に乗り込む。すると、それを合図に馬車はゆっくりと動き出した。


「キリク殿、貴公の事は忘れない」


 フォンズはそう言うと勢いよく敬礼をしてくる。まるで、最後の挨拶みたいだと思っていると、離れた場所でリミアも涙目になりながらこちらに向かって敬礼してるのが見えた。

 俺は思わず苦笑する。二人にとって俺は間違いなく死ぬことが決定らしかったから。


「まあ、間違いではないけどな」


 そう呟くとゆっくり荷台に横になった。少しでも体力を温存しようと思ったからだ。

 だが、レオスハルト王国を出てしばらく走り続けている馬車の上で俺は上半身を起こした。そろそろ遠くに見えるだろうオルリアの町を見ようと思ったからだ。

 何せ俺が教え子に冒険者の基礎を教えるために滞在した場所だから。

 しかし、すぐに俺は見るのをやめて再び横になった。もうそこには俺が教えていた者達はいないから。そして教え子達はきっと俺のことを恨んでいるだろうと思ったからだ。


 俺はあいつらを見捨てたようなものだからな。


 俺はあの日のことを思い出し口元を歪めていると後ろで大きな物音がした。


「なんだ?」


 俺は起き上がり振り返る。そしてすぐに武器に手を伸ばした。猛スピードでこちらに向かってくる馬車と、それを馬に乗って追いかけながら魔法を撃ち込んでいる賊らしき連中が見えたからだ。

 だが、俺は武器に伸ばしていた手を下ろす。フォンズ副団長の言葉を思いだしたから。だから、やり過ごせないだろうか御者の方を向いたのだがすぐに諦め再び武器に手を伸ばす。

 既に正面にも複数の賊が道を塞いでこちらにも魔法を撃ってきたからだ。俺は御者に声をかける。


「道を外れろ」


 しかし、遅かった。魔法が馬車の車輪に当たってしまったからだ。馬車は勢いよく横転する。そして俺達は外に投げ出された。


「ちっ!」

「うわああ‼︎」


 俺はなんとか地面に怪我することなく着地できたが御者は駄目だった。頭から血を流してぐったりと地面に倒れていたから。俺はすぐに収納鞄から回復薬を出し御者の頭にかけた後、半分飲ませる。

 それからこちらに向かってくる賊に矢尻の部分に筒状のものを取り付け、賊に向かって放った。しかし、賊の一人が簡単に盾でそれを防いでしまう。


「きかねえよ」


 そして笑みを浮かべたのだ。だが、その後すぐにハッとして落ちた矢を見た。矢尻につけた筒状の部分が壊れ周りに霧状のものが噴き出していたから。


「しまった。皆、逃げ……グガッ!」


 矢を叩き落とした賊は苦しみ出す。すると周りにいた賊も一斉に苦しみ出した。


「ううう……」


 賊は喉を押さえて苦しみもがいたがついには動かなくなる。その光景を確認した俺は今度は後方を確認する。そして弓をしまった。乱戦状態で同じ戦法は使えないと判断したからだ。

 だから俺は剣を抜き毒薬を塗る。それから護衛の一人にとどめを刺そうとしている賊に駆け寄り背中を斬りつけた。


「ぐあっ!」


 俺は賊を見ずに次の賊に向かって斬りつけていく。しかし、ある護衛の前で立ち止まった。知った顔だったから。


 ラドフとダナか……


 二人は危なげなく賊を倒していくと、俺に気まずそうに声をかけてきた。

 

「……よお、キリク」

「……キリクさん」

「二人共、久しぶりだな。まさか補給部隊の護衛をやっていたとはな」

「ああ、今回、初めてやったんだ。……ところでキリクは何でここにいるんだ?」


 ラドフは俺の態度にほっとした表情をしたが、すぐに警戒した様子で質問してくる。俺は思わず頬を緩ませながら答える。


「俺は依頼をこなしてるだけだ。ちなみに賊じゃないと言っても信じるのか?」


 するととダナがすぐに頷いた。


「キリクさんが言うなら信じます」


 するとラドフは呆れた表情を浮かべる。


「……それじゃあ、駄目だろう」

「えっ、でも……」


 ラナは俺を見るため首を横に振った。


「証拠を出せぐらい言ってこい」

「……ごめんなさい。証拠はありますか?」

「ある」


 俺は内心苦笑しながらレオスハルト国王の印が押されたランバール要塞に入れる通行証を二人に見せる。ラナはじっくり見た後に頷いた。


「確認しました。キリクさんもランバール要塞に行くんですね」

「ああ。要件までは言えないがな」

「構いませんよ。それで、どうしましょうか?」

「馬車を修理するしかないな。まあ、その前にやらなければならないことがまた増えたが」


 俺は近くの茂みを見るとラドフやダナも気づいたらしく武器を構える。


「いったい何人いるんだよ……」


 ラドフが悪態を吐くと同時に、茂みの中からフードで顔を隠した四人組が現れる。そして、そのうちの一人が俺に気づくと舌打ちをしてきた。

 

「ちっ、まさか加護無しの役立たずが邪魔してくるとはな。本当にむかつくぜ……」

「……その声はロンか?」

「ああ、そうだ、加護無し野郎」


 そう言ってフードを下ろしたロンは俺を怒りを含んだ目で睨んできた。すると様子を見ていたラドフが、ロンを警戒しながら聞いてくる。


「キリク、誰だこいつは?」

「昔、俺がいた飛竜の爪というパーティーのリーダーだ」

「強さは?」

「プラチナ……いや、ゴールド級辺りだな」


 するとラドフはダナを守るような位置に移動した。警戒しただけでなくロンの後ろにいた連中が一斉にフードを取ったからだ。

 まあ、俺は溜め息を吐いただけだったが。何せ後ろにいた連中はゴング、ラン、ミミだったからだ。一応予想はしていたのだ。いるだろうと。


 だが、本当にパーティー全員で賊になるとはな。


 そう思っていると三人はロンの横に並び笑みを浮かべた。


「残りはこいつらだけか」

「もう勝ったも同然ね」

「うん! それに雑魚が死んだから分け前も増えたし最高じゃん! ミミまた何買おうかなあ」

「何でも買えば良いさ。金なんかすぐに入るんだからな」


 そう言ってロンが補給物資が積んである馬車に視線を向ける。三人はニヤけた笑みを浮かべた。

 俺はその様子を見て顔を顰める。もうこいつらはダメだと思ったからだ。だが、同時に疑問も浮かんだのだ。なぜここまで落ちぶれてしまったのかと。だが、すぐに思いだす。

 ロン達が急に金使いが荒くなったのを。ある日を境に無駄に装備に金をかけたり、遊びに金をかける金額が多くなったのだ。もちろん俺は注意をした。あいつらが金を使うたびに。

 だが、それで俺は彼らのひんしゅくを買いパーティーを抜けざるおえなくなったのだ。


 まあ、それで止める存在がいなくなり最終的には金がなくなって賊に堕ちたというところか。


 俺はそう判断しながらロン達を見る。すると、視線に気づいたロンが地面を蹴り睨んできた。


「あ? 加護無し風情が俺達を見てんじゃねえよ!」

「そうよ、あんたみたいな役立たずの顔なんか見たくないのよ! ずっと地面を見てなさい!」


 ロンの後に続きランが言ってくるとミミまで調子に乗り始める。


「ミミ知ってるよ。あんた加護無しってだけじゃなく、嘘つき野郎でもあるんでしょ。本当最低だよねーー」

「いい加減、てめえの顔は見たくないんだよ。さっさと引導を渡してるやる!」


 最後はゴングが吐き捨てるように言い俺に向かってこようとした。だが、そんなゴングの肩をロンが掴む。

 

「まあ、まてよゴング。今回、仲間がずいぶんとやられちまったから足がつく可能性があるんだ。なら、全部この加護無しと何人かの護衛に色々と押し付けないとな」

「……なるほど。こいつらに被ってもらうわけか。なら誰を連れてく?」

「加護無しとそこの赤毛の女にしよう。二人は金の為に補給物資の馬車が通る時間帯を賊に教えたクズやろうって事だ。ちなみにこいつらがやった証拠は俺達、飛竜の爪が見つけて冒険者ギルドに届ける」

「流石、飛竜の爪! 嘘つき野郎は人のものは奪っちゃ駄目だよお。きゃはは!」


 ミミがバカ笑いを始めるとゴングが武器を構えた。


「ということは加護無しと女以外は殺して良いってことだな」

「そういうことだ。まあ、二人も離れた場所で殺して埋めるから腕の一本ぐらいは斬り落としても大丈夫だぞ」


 ロンの言葉にゴングは笑みを浮かべる。だが、俺が肩をすくめるとすぐロンが怒鳴ってきた。


「おい、なんだその態度は⁉︎」

「稚拙な考えだと思ったんだ。そもそも前線の補給物資を運んでる護衛は身元確認や身辺調査をしてから雇ってるんだぞ。護衛達を賊にするのは無理やりすぎるだろう」

「な、なら護衛達と別に来たお前が賊になれば良いんだ! 仲間には逃げられたと言っといてやるよ。ははは、良い案だろう!」

「それこそ無理だ。俺はレオスハルト国王勅命で依頼をこなしているんでな」


 そう答えた俺はロン達の後ろにある森を睨む。すぐに森にいた複数の気配が消えた。それで俺は理解する。かなりの手練がロン達の後ろにいると。


「やれやれ。いったい誰に雇われているんだ?」

「何言ってんだ……。これは俺が考えた案だ」

「違うだろう」


 俺はロンの後ろを指差す。


「後ろで隠れてる連中ならいなくなったぞ。どうやら、賊の首謀者はお前達に決定だそうだな」


 するとロンは驚いて後ろの森を見た後、俺を睨んできた。

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