11
「おい、加護無しの嘘つき野郎。お前がいなくても俺達で倒せたんだぞ!」
「そうよ! 余計な事してくれちゃって!」
二人は先ほどのことをもう忘れたらしく俺に食って掛かってくる。呆れているとマリィとルナが止めに入ってきた。
「ちょっと二人共、何言ってんのよ! キリクがいなかったら私達やばかったのよ!」
「マリィの言うとおりです! 助けてもらってその態度は何ですか!」
「うるせーんだよ! マリィにルナは俺の言う事だけ聞いてれば良いんだ!」
「ワーロイ! あなた、私達を何だと思ってんの!」
「そんなの決まってんだろ。俺のパーティーにいんだから俺のもんだよ」
ワーロイは舐め回す様に二人を見る。その視線にマリィとルナは気持ち悪がりながら距離をとる。
「やっぱりそういう目で見てたのね。本当に気持ち悪い!」
「私達を彼女のケイと一緒にしないでくれませんか!」
「なっ⁉︎」
「ワーロイ、まさか二人をそう見てたの⁉︎」
ケイにも睨まれたワーロイは慌てて俺を指差してくる。
「こいつが全部悪いんだ! パーティーに入ってきたそうそう、ああだこうだ言いやがって! おかげで俺のパーティーは滅茶苦茶だ!」
完全に擦りつけであったので無視していると、ワーロイが怒りの形相で掴みかかってきた。しかし、すぐに舌打ちしながら離れる。
レクタルのギルド長、サリエラ、オルトスがこちらに駆け寄ってくるのが見えたからだ。立場が偉い者に弱い。相変わらずだなと再び呆れているとサリエラが声をかけきた。
「キリクさん、急にいなくなったので心配しましたよ! 大丈夫でしたか⁉︎」
「ああ、問題ない。それより冒険者ギルドは?」
「なんとか落ち着きました。中にも住人が沢山避難してましたよ」
「そうか」
「おいキリク。あれ向こうの生き物になった奴じゃねえか?」
側に来ていたオルトスが倒れてるラーニャの胴体を指差す。するとワーロイがギルド長に駆け寄り俺を指差してきた。
「ギルド長、俺達が倒せそうな時に嘘つ……キリクが横取りをしたんだ! だからあれは俺達が倒した様なものだよな?」
「そうよ。キリクがいなくても倒せたのよ。だから討伐報酬は私達のものね」
ギルド長は困り顔を向けてくる。だから肩を竦めてみせるとギルド長は溜め息を吐いた。
「では、今回の件が片付いたら真実の玉ではっきりさせましょう。ああ、これは決定事項なのでお願いしますね」
「えっ、ちょ、ちょっとそれは……」
ワーロイとケイは真っ青になる。その様子にギルド長は軽蔑の眼差しを向けるが、すぐに我に返ると顔を向けてくる。
「ああ、そうだ。レクタルの中心にいる不死の領域から出てきた領主ですが、キリクさんに聞けば対応できるとオルトスさんから聞きました。任せて大丈夫ですか?」
俺はすぐさまオルトスを睨む。しかし笑みを返されるだけだった。まあ、勝手に話すなと口止めしなかったこちらも悪いのだろう。仕方なく頷く。
「ああ……」
「では、兵士と冒険者を待機させてますので使って下さい」
「いや、行くのは俺だけで良い。領主は独自の解釈をする。間違った会話をしてああはなりたくないだろう?」
俺はラーニャの胴体に視線を向けるとギルド長は慌てて頷いた。
「わ、わかりました。全員に伝えておきます。しかし一人でいったいどうするつもりですか?」
「俺は向こうの知識が少しだけあるから領主と会話して帰ってもらうつもりだ」
「できるのですか?」
「半分半分というところだ。だから失敗した場合のことを考えて常に逃げる準備をしてくれ」
俺はそう言うと領主がいるであろう方向に向かって歩き出す。すると後ろからオルトスとサリエラがついてきた。
「道は切り開いてやるよ」
「助かる」
「キリクさん大丈夫なのですか?」
「わからない。相手次第だからな」
「ち、ちょっと! それなら勇者様を待った方が!」
「これから会うやつがわからなかったら待ってたな」
「えっ⁉︎」
「誰だ?」
「クトゥンだ。あの首から蛸の足が生えたラーニャという冒険者が言ったんだ。まあ、だいたいこの町の変化と蛸の足でだいたい見当はついたがな」
「俺はてっきりアンクルかと思ったぜ」
「彼女はこっち側に興味がないからな……」
「ふん、どうだか……」
オルトスは不満そうな顔を向けてくるが無視して話を続ける。
「……まあ、とにかくクトゥンなら話せば帰ってもらえるはずだ。……本に書いてある通りならな」
嘘を混ぜながら話すとサリエラが挙手してくる。
「あ、あの、私、不死の領域に対しては疎いので全然話についていけません」
「エルフの嬢ちゃん、要はキリクをクトゥンまで送り届けりゃいいんだよ」
「……わかりました」
あまり納得していない様子だがサリエラは頷く。きっとこの状況化でこれ以上聞いても無理だろうと判断したのだろう。
その後は無言でオルトスと共に魔物を倒すことに集中してくれた。おかげで無事街の中心に移動することができたのだが、到着するなりその異様な光景に顔を顰めてしまう。自分が海の中にいるようにしか見えなかったからだ。
「本当にここはあのレクタルなんですか?」
驚いた様子でサリエラが聞いてくるため頷く。
「間違いなくな。そして街を変えた存在はこの先にいる」
「この先に……」
「ださらさっさとやっちまおうぜ。このわけのわかんねえ空間に長くいたら酔っちまう」
「ああ」
俺は頷くと慎重に進んで行く。すぐに丸くぽっかりと穴の開いた真っ黒い空間が現れた。そして、その近くに鼻歌らしきものを歌いながら建物を変化させている者も。
間違いなくクトゥンだろう。見た目は魚と蛸が混ざった様な姿で、背は大人の背丈の三倍ぐらい。海を連想させる刺繍がされた青いローブを着ていた。
サリエラとオルトスに目配せして下がらせると俺は慎重に近づく。しかし、すぐに気づかれる。クトゥンは振り向くなり両手を広げてきたのだ。
『おお、客人よ見てくれ。この素晴らしい風景を』
クトゥンは魚の口をパクパクさせながら蛸の目を細めて周りを見渡す。おそらく満足そうな表情をしているのだろう。
念のために俺は話を合わせることにした。
『まあ、否定はしないが……』
『おお、我らの言葉を喋れるのか。まさか門の外でこちらの隣人と会えるとはな』
『隣人ではないが、昔アンクルに世話になったんだ』
『なんと……あの方に会ったのか。それでは立派な隣人じゃないか。では挨拶がてらヌシにこれをやろうではないか』
クトゥンはローブを少し持ち上げる。そこから人を合わせて魚の形にし、胴から蛸の足を生やしたものが出てきた。
ダントにドク……
出てきたものに付いていた顔の二つはダントとドクだった。二人は恍惚とした表情を浮かべ遠くを見ている。俺は思わず首を横に振った。
『いや、結構だ……』
『そうか? 自信作なのだがな……』
『クトゥン、何故彼らをこんな姿にしたんだ?』
『こやつらはワシを見た瞬間、言葉はわからんが二人して楽になりたいという雰囲気になったので叶えてやったんだ。まあ、代わりにワシの領域のペットになってしまったが、こやつら幸せそうな顔をしているだろう?』
『……ああ、そうだな』
『後、もう一人いたんだが、綺麗になりたいというから我が国の住民達の間で流行ってる姿にしたら喜んでいたよ』
クトゥンは、蛸の目を細めこちらを見てくるのですぐさま首を横に振る。
『……俺には何もしてくれなくて良い』
『む、それは、残念だ……。それなら他のペット達をやるぞ。それとも住人の方が良いか?』
クトゥンは次々と異形のものを出してくる。そこには冒険者ギルドで受付をしていたナルも混じっていた。
正直、見ていられなくなったので視線を外しながら答える。
『いや、気持ちはありがたいが遠慮しておく。それより自分の家にそろそろ戻った方がいい』
『むむ、何故だ? せっかくこちらのセンスのない建物や生き物を素晴らしいものにしてるのだがな。あの空だって何故青いんだ? 気持ち悪くないか?』
『言いたいことはわかるが、ここは隣人の庭と同じ様な所なんだ』
するとクトゥンは目を見開き慌てた様子になった。何故なら不死の領域では隣人の国に許可なく侵入や、弄るなどしてはいけない協定がされているからだ。
『本当なのか? むむ、それは悪い事をしてしまったな。こちらの隣人は相当怒るであろうな……。参った……』
クトゥンは相当まずい事をしたと自覚したのか目を閉じ座り込んでしまう。それを見た俺は内心ホッとする。
何故なら俺もダント達みたいな姿にいつされるかヒヤヒヤしていたからだ。だが会話さえ通じればまともである。
アンクルの言っていた通りだったな。
俺は安堵しながらクトゥンの側に近づく。
『それに関しては気にする必要はない。こっち側のものが勝手にそちらの庭に門を開いたのが悪いんだからな。こちらのものがクトゥンを咎めることはないから安心して欲しい』
『おお、それは良かった……。それじゃあ、ワシはそろそろおいとましようかな』
『ああ、その方がいい。家のもの達も心配してるだろう』
『ああ、そうであった! 大事な彼らを忘れるところだったよ。本当にありがとう』
『気にするな。ところでそっち側にこちらの生き物が入らなかったか?』
『来たよ。手伝おうかって声をかけたけど無視されてしまった。あれは悲しかったなあ』
『それは酷いな。そいつには今度会ったら怒っておこう』
『いや、いいさ。その気持ちだけで満足だ。さて、ワシは帰るとするが、ちょっと問題があってね……』
クトゥンは周りにいる自分が作り出したペットや住人達を見る。こいつらはクトゥンの力でも不死の領域に行けないため、殺して送ってやらないけないのだ。
『安心してくれ、彼らは俺が送ろう。そのかわり戻ったら門を閉じてくれるか?』
『おお、悪いな。わかった、門を閉じるんだな。わかったよ』
クトゥンは頷くと鼻歌を歌いながら真っ黒い空間に向かって歩いていく。しばらくすると真っ黒い空間は跡形もなく消えてしまった。
それを確認した俺は大きく息を吐く。
……とりあえず、一番の脅威は去ったな。後は、こいつらだがどうするかな。
目の前にいる人だったもの達を見ていると、後ろからサリエラとオルトスが駆け寄ってきた。
「キリクさん、あなたはいったい何者ですか⁉︎」
サリエラは凄い勢いで詰めよってくるため両肩を掴み距離を離す。
「最近、スチール級にランクアップしたソロ冒険者キリクだ」
「おお、めでたいじゃねえか! こりゃ、良い酒で乾杯だな」
「オルトスさん! 乾杯だなじゃありませんよ! 何でキリクさんが向こうの言葉らしきものを喋ってるのを気にしないんですか⁉︎」
「そりゃあ勉強してるって言ってたろ」
「べ、勉強で向こうの言葉ですか? 不死の国に関して疎い私でもわかります。不死の国の言葉を喋れる人は大昔にいた大賢者様しかいないはずです!」
「……それはお前が知らないだけだろう。俺は前に奴らから本を盗み出して学んだんだ。まあ、その後、魔物と戦った際にうっかり失くしてしまったが……」
「そ、そうなんですか?」
「……ああ、そうだ」
「わ、わかりました。疑ってすみませんでした」
サリエラは勢いよく頭を下げてくる。その姿に若干罪悪感を感じてしまう。言った事は全てでまかせだからだ。
今向こうの言葉を知る手立てはタナクスと契約する以外ない。しかも契約しても多少の言葉を理解できる程度なのだ。
申し訳なさそうにするサリエラに俺は顔を背ける。
「……気にするな。それよりこいつらをどうにかしないとな」
そう言ってクトゥンの領域の住人になってしまった者達を見る。今は動く事なくボーッとした表情をしているが攻撃を始めたら確実に本能で反撃をしてくるだろう。
おそらくサリエラとオルトスなら倒せるだろうが数が多すぎる。
冒険者ギルドにいる高ランク冒険者を呼んだ方が良いか……
そう思って二人に声をかけようとしたが俺は慌てて上を向いた。遠くの空からとても強い気配を感じたから。しかも知った気配を。
「誰か来ますね」
隣りにいたサリエラも気づき空を見上げる。すると、その気配は真っ直ぐにこちらに飛んできて俺達の目の前に降り立った。
すぐに顔を背ける。目の前に立つ輝く鎧を身に纏い、美しい銀髪と金色の瞳をしたハイエルフを知っているからだ。
だが、どうやら助かったらしい。俺を気にすることなく彼女は辺りを見回し始めたから。
そんな中、隣りにいたサリエラは驚いた表情で呟く。勇者様と。
そう、この場所に降りたったのは俺の後輩にあたる勇者の加護を受けたミナスティリア・H・ナイトレイドだったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます