歪んだ雷
「どういう名前にされたのかまでは知らないけど」
副操縦席のナルエルは、窓の外を見る。
「わたしの魔道具が元なんだとしたら、さほどの脅威ではない」
「いや、待てナルエル。いま威力は見ただろ? ビカーッて」
「光るもの全てが危険なわけじゃない」
それはそうだけど。なんでそんなに平然としているのか。
一発で電撃魔法の威力を把握したのか、操縦席のヘイゼルが落ち着いた声で肯定する。
「ナルエルちゃんの言う通りですね。あの発光は意図的な……
「そう。発生するのは、威嚇用の雷魔法。派手に光って、痛みを与える。使用者の安全確保と、連続使用を優先して電荷を下げた。相手が驚いて逃げれば、それでいい」
どれだけ喰らっても死にはしないというから、発想はまさにスタンガンだ。この世界では先進的なのだろうが……非致死性武器の有用性など、まず理解されんだろうな。
ナルエルは説明しながら、指で空中に魔法陣らしきものを表示させている。器用で綺麗なものだが、俺に内容は微塵もわからん。俺と一緒に後部座席から見ていたハネルさんは、理解できたらしく感嘆の唸り声を上げた。
「なるほど。素晴らしいな」
「ハネルさんは、その電撃武器を評価している?」
「もちろん。“実行”と“雷撃”の間に、“威力制御”と“最低距離”の条件が刺さっているだけ。簡素にして簡潔の極地だ。ナルエルの設計は、いつも目的と結果が単純明快だ」
「……ああ、
「余りに簡潔すぎて、愚かな者ほど誤解する」
ハネルさんの声がトーンダウンした。
「“これなら自分にでも書き換えられるのではないか”と」
城壁上にある雷撃兵器について、ハネルさんが解説してくれた。半分は俺への説明ではあるが、半分は独り言な感じ。ドワーフの爺ちゃんたちがよくやる脳みそへのメモ帳的な整理整頓だ。
「
ハネルさんも目の前に魔法陣を表示させながら、書いて消してを繰り返す。トライ&エラーの行程を再確認しているようだ。なんか技術的思考過程に入り込んでしまったようで、独り言の比率が高まってゆく。
「だが効果は、そこまで単純じゃない。正確に言うと、単純な処理で達成されるのは、単純な結果だけだ。大型化は効率を低下させ、多数連結は減衰と喪失を生む。補うために出力設定を上げたようだが、そのせいで連続使用ができなくなっている。設計的完全性は、ほんの一片でも失われると連鎖的に崩れてゆく。独自の改造や追加設定を考えず最低限の結果のみ得ようとしたのはむしろ賢明と言える」
書いて消してを繰り返したハネルさんの魔法陣は指で弾かれて消失した。職人気質のせいか、このひと判官贔屓なところがあるっぽい。天才ナルエルの後を追って失敗を繰り返した顔の見えない設計者を相手にどこか同情的だ。
「重ね掛けで威嚇を拡大しても、“すごい威嚇”にしかならない。子犬をどれだけ大きくしても、狼にはならない。そこに気付けなかったか、気付いても命令に従うしかなかったか。あるいは……いや、なんであれ同じか。生き物も技術も生き延び世に残るのは数千にひとつでしかない」
「ハネル」
ナルエルが声を掛ける。ヘイゼルとの打ち合わせは済んでいたらしく、ヘリは旋回しながら速度を上げ高度を落としてゆく。
「あんなゴミの
「え?」
「わたしを魅了した破壊の美。これが、真の“雷霆”」
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