スピリッツ・ハイ&ロー
奸叢
※(すみません、ここ一話抜けてました……)
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「……魔薬?」
店を訪ねてきたティカ隊長の報告に、俺は一瞬よくわからず固まる。
彼女が伝えてきたのは、サーエルバンに入り込んだ違法薬物についてだ。俺はこの世界に、そんなものがあることすら知らなかった。
「ああ、“フェンティル”と呼ばれるものだ。言葉の意味は“
そのフェンティル、元は五年ほど前にコムラン聖国で開発された“奇跡の回復薬”だそうな。効能は治癒・鎮痛・解毒・魔力回復と幅広く人気を博したが、流通後しばらくして副作用が判明した。
統一された医学会も薬剤の管理法もない世界ならば、ありえない話でもない。
「強い精神高揚と習慣性、結果として魔物のように狂暴化する。重度の中毒者は回復せず廃人になる」
「なるほどね。俺やヘイゼルのいたところにも、似たような薬物はあったよ」
俺はあまり詳しくないが……と思って隣のヘイゼルを見る。黙って聞いていた彼女は、何か考え込んでいる。過去に接触した相手から得た情報を検索しているのだろうが、表情からして有用なものはなかったようだ。
「ティカさん。その
「素材の二割は
一瞬、マカも関与しているのかと驚いたが、隊長の表情を見てわかった。
「原料を止めて解決する話じゃないのか」
「ああ。広く使われている試薬と、古くから流通されている栽培種の
「残る七割弱は?」
「
そのフェンティル自体、最初の開発目的は合法な薬剤なのだ。副作用が判明した後はアイルヘルンでの輸出入と所持及び精製が禁止されたらしいが。
なぜいまになって再び市場に出回り出したのかは不明だが、理由の詮索は後でもいい。
「それじゃ、製造元を押さえるしかないのか。さすがに、簡単に作れるもんじゃないんだよな?」
「精製は錬金術だ。大規模な精製装置と高度な術式の魔法陣、それに大量の魔力が必要になる。最初にフェンティルを作り出したのは
「それじゃ、可能性があるとしたら……」
俺が呆れ顔で見ると、隊長は溜め息を吐く。
「
「まさか都市ぐるみで?」
「明言はできんが、それはないと思っている。売り捌けば大きなカネが動くとはいえ、しょせんは個人のカネだ。他領から恨みを買えばアイルヘルンで生きる術を喪う。それでは割に合わんだろう」
アイルヘルンで完全に自給自足が達成可能なのは、ヘイゼルのチート込みという条件付きとはいえゲミュートリッヒくらいだ。他はどこも、対外的な輸出入を止められると生活を維持できない。場合によっては生存もだ。
塩以外に目立った産物のないタキステナが、都市ぐるみで違法薬物を生産するのは自殺行為だ。
「サーエルバンで、中毒者はどのくらい広がってるんですか?」
「いまのところ、発見・拘束された中毒者は七名。数倍はいると思われるが、それでも三十やそこらだろう」
錯乱した中毒者が通りで大暴れして、フェンティルの流通が露見した。
薬物汚染は水際で食い止められたか、少なくとも食い止められようとはしている。ゲミュートリッヒの衛兵隊にまで連絡が来たのは、その病根が思ったよりも深そうだと思われているからだ。
「病根というのは」
「流通の元締めとして、サーエルバンの商業ギルド職員が関与していた。自分でも
「最悪だな」
拡散ルートを辿るための証人は消えた。中毒者を確保したところで、証言できるのかは不明だが。
「幸い、
隊長が呑み込んだのは、“いまのところは”という言葉だろう。薬物依存に、良い奴か悪い奴かは関係ない。どんなに良いコミュニティでも、薬物が蔓延した時点で終わりだ。
「流通させた目的が、カネじゃないという可能性は」
ヘイゼルの冷静で淡々とした表情から何かを察したのだろう。隊長は、溜め息まじりに頷く。
「ある。むしろ、カネのためだとしたら非効率だ。ヘイゼルは、この手の事情に詳しいのか?」
「ええ。違法薬物に関しては、ミーチャさんのいた国よりも、わたしのいた国の方が
「そうなのか」
「ええ。加害も、ですが」
だから、そのツッコみにくいコメントをやめろ。
「というわけで、焼き払いましょう」
「「え?」」
俺と隊長の声が重なる。それはもちろん、元から断たなきゃダメだってことはわかる。製造拠点が特定できているなら、根絶に動くのは吝かではない……が。気になるのは、その手段だ。また何トンもの爆弾で巨大な
「問題ありません。焼き払うべき病源は、わたしたちが必ず突き止めますから」
……たち。って、もしかしてそれは俺も含まれているんですか。そうですか。はい。
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