内なる暗部
「く、苦しい……ッ」
「そりゃそうだろうよ」
ひとつひとつがパーティセットみたいな量のスコーンとビスケットとサンドウィッチとチョコレートとフルーツケーキを残らず平らげた我らがガールズと新入りのガールは、揃って草原に転がったまま動けなくなっていた。
甘いものばかりでは身体に悪いです、なんつってムッチャ身体に悪そうな
ひとり当たり最低でも三千キロカロリーは超えてる。お前らはアメリカのデブか。なんぼなんでも食い過ぎや。
「そんでレイラ、これからどうする?」
「どうしましょうかね……」
腹を抱えて転がりながら、エプロンドレスのお姉さんは途方に暮れた顔をする。
「エルヴァラに帰らないんですか?」
「オルークファの監視任務は終了しましたからね。お役御免でしょう」
「父親が心配するんじゃないのか」
レイラは俺を見て、苦笑した表情のままひどく暗い目をした。
「心配するとしたら、監視の任務がタキステナ側に露見したときくらいです。自分たちとは無関係と断言されましたが」
「え、それは……あれか、エルヴァラの……政治的判断?」
「わかりません。オルークファが暴走したときには命懸けでも止めろと命じられて潜入して、結果がそれです。学費と生活費の支援はありましたが、それも終わりでしょう」
それは支援ではなく潜入工作の必要経費なのでは、と思ったが到底ツッコミを入れられる空気ではない。
「レイラ、もしかしテ、お前は妾腹ナのか?」
「いいえ、たぶん実子です。タリオにとっては、息子や娘より畑の方が大事なんですよ」
重い。重いぞ農の国。
農業に偏重した領の領主がそういう性格って、遠くから見るとユニークで面白いけど。当事者からすりゃ堪らんわな。
「ああ……ほんじゃ、ゲミュートリッヒに来るか?」
言った瞬間、やっちまったなあとは思った。こんなんばっかで助けたり拾ったりで住民が増えてゆく。良いことなのか悪いことなのか、自分でもわからん。またティカ隊長には負担を掛けることになるけど。
放っておけないだろ。
「……わたしでも、受け入れてもらえるんでしょうか」
「もちろん大丈夫ニャ♪」
「まったく問題なイ」
「当然」
それぞれ時間差はあるけど同じように受け入れられて来た三人のガールズが言って、そのまま全員で俺とヘイゼルを見た。銀髪メイドは、といえば静かな笑みを浮かべるだけだ。
自分で言っといてなんだけど、俺が決定権持ってるみたいな流れにされるのも困るんだが。
「とりあえず、行くとこないなら一緒に帰ろうぜ。もし仮にダメだとしても、他の方法を考えるし協力もするからさ」
「……どうして、そこまでしてくれるんです」
知らんがな。肩を竦める俺にゲミュートリッヒの暴食ガールズはいくぶん呆れ顔で笑う。
「ミーチャは、優しいからニャ」
「ナんにも考エてなイのかもしれんがナ」
「そう。店長、お人好し」
うん。それは褒めてないな。優柔不断で考えなしなのを的確に突いてる。
それを聞いて、ヘイゼルが笑う。
「わたしも、そう思います。たぶんミーチャさんは、ひどい扱いを受けているひとを見てられないんです」
お、さすがヘイゼル。ここで良い感じにアゲて来てくれた。少しだけ気が楽になった俺は、レイラを安心させようと微笑む。
「“
「おい」
このメイドがいちばんヒデぇ。それ、あれだろ。自分がやったら恥ずかしくて死にそうな行為を、他人がやってるのを見せられるのが耐えられないという。そのままじゃねえか。
「……そっか」
でも、なんか……ヘイゼルに言われて急に目の前がクリアになった。ずっと自分のなかにあった違和感がハッキリした。いままで俺がやってきたのも、やろうとしてきたのも、そういうことだったんだ。
俺は周りにいる奴らに、少なくともシンパシーを感じる相手には、幸せでいて欲しかったんだ。善意からでも正義感からでも下心からでもなく、ただ自分の心の安寧のために。
それを恥じる気はない。止めようとも思わない。自分の力が及ぶ限り、意地を貫き通して見せる。
「ミーチャ、どうしたのニャ? 急にヘンな顔て。悲しいことでもあったのニャ? ヘイゼルちゃんに虐められたのニャ?」
「なんでそうなる。ヘイゼルのお陰で肚が据わったんだよ。そして、お前たちのお陰でな」
笑い出した俺を見て、いまや五人になったゲミュートリッヒ・ガールズは不思議そうな顔をしている。ヤベぇ、いまの俺、ガチでおかしくなってるヤツだ。
必死に衝動を抑えて、ランドローバーに向かう。そうだ。俺たちの戦いはこれからだ。
「さあ、帰ろうか。俺たちの、町に」
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