蠢く闇
登り勾配を進むモーリスは、唸り声を上げつつもモリモリのトルクで順調に距離を稼ぐ。高度が上がると岩が主体の路面になって、道のぬかるみも気にならなくなる。
その代わり、濡れた岩が滑るのに少しだけ気を使う。
「……お、っとォ!」
「その先は、左に寄った方が良いニャ」
「ミーチャさん、落石です。一時停止してください」
ヘイゼルに言われて停車はしたものの、フロントウィンドウから見える限り転がってくるような石や岩はない。
「……落石?」
怪訝に思っていると、屋根の銃座に上がったツインテメイドは
「集弾性が高すぎる欠点も、こういうときは役に立ちますね」
「へえ……って、なんでそれが欠点?」
「軽機関銃というのは、制圧射撃でタマを広範囲にバラ撒くのが本来の役割ですから」
なるほど。そこで集弾性が高いと、連続発射された弾頭が一箇所に集まって意味がないわけだ。
「必要なことは足りず、不要なことは過剰。
ちょいちょいイギリスをディスってんのも気にならなくなってきた。
これもヘイゼルなりの――というか、ひねくれた英国人的――愛国心なのではないかと思えてくる。
「それは良いんだけど、何を撃ったんだ?」
「
こちらを害そうとした敵。たぶん教会強硬派か……そいつらが依頼した相手だ。
「なんだそれ。馬鹿なのか? わざわざ召喚した相手を殺してどうすんだよ」
「何を考えているかまでは分かりませんが、味方に……というか
さいですか。俺は、ただの量産型中年なんだけどな。
どうでもいいけど、ヘイゼルとエルミは早くもマチルダと仲良くなって、“マチルダちゃん”と呼ぶようになっていた。魔族娘は“エルミ殿”“ヘイゼル殿”と呼ぶあたり、ちょとばかり温度差はあるようだが。
俺に対しては、“ミーチャ”と呼び捨てなんだけどね!
まあいい。サクサクと距離を稼いで、一時間ちょっとで全行程の半分弱。
昼までには折り返し地点の峠を抜けたいところだ。
◇ ◇
その後は特に問題もなく、前より早い三時間ほどで平地まで降りてきた。視界が開けた場所では少し速度を上げて、残り三十キロほどを走り抜ける。
森と丘が連なった、見覚えのある風景。その奥にサーエルバンの城壁が見えてきた。
「マチルダちゃん、あれがサーエルバンなのニャ」
「……ゲミュートリッヒよりモ、“
初見の町を前にした感想がそれですか。魔力も魔力感知能力もない俺には、リアクションに困るコメントだ。
「ミーチャ、“もーりす”のまま町に入るのニャ?」
「そうだな。衛兵に話してみよう。前にいっぺん来てるから、覚えているひともいるはずだし。止められるようなら、サーベイさんか家令のメナフさんを呼んでもらえれば良い」
向かってくるモーリスC8を見て、身構えた若い衛兵を年配の方が止める。正門前で停車すると、その衛兵が運転席の横まで向かってきた。
「おお、たしかサーベイさんのお客人でしたか。魔道具使いの」
「ええ。本職は、商人なんですけどね。サーベイさんを訪ねてきたんですが、入れますか」
「どうぞ。商館まで護衛か案内が要りますか?」
「いえ、結構です。前にも来てますので」
魔族の特徴が強いらしいマチルダの姿をあまり見せたくないので、モーリスに乗ったまま町に入れた方がありがたい。通りにひとが増えてきたので、事故など起こさないように慎重に商館に向かう。
「こちラでは、魔族は珍シいのカ?」
「そうみたいだな。言い伝えにあるくらいで、実際には見たことも聞いたこともないそうだ」
俺が答えると、魔族娘は対応に困ったような顔で首を傾げる。
「いるゾ」
「なに?」
「この町に、もうヒトり魔族がイル」
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