領主館
「死体はどうする?」
入り口から入ってすぐのところで、窓辺に血塗れの衛兵が転がっていた。
「そのままで。おそらく夜には魔物が戻ってくるので問題ないでしょう」
「いや、問題は……って、戻ってくるの⁉︎」
「少なくとも町の住人たちは、そのつもりで備えているようです。ダンジョンが溢れた理由は“魔力渦”……召喚魔法による“
「それは続いているのか? いつ止まる?」
「ダンジョン外のマナが内部のそれを下回れば、魔物が出てくることはなくなります。もうしばらく掛かるようですね。大物は殺してしまったので、残ったのはゴブリンなどの小物だけ。やつらにとって町は依然として、魔素のたっぷり詰まった御馳走です」
エーデルバーデンに、いまも魔素がたっぷり? なんで?
俺の怪訝そうな顔を見て、ヘイゼルは首を振って苦笑する。
「ミーチャさんたちの尽力の結果ですね。地面にフォレストウルフの体液がたっぷり染みているでしょう?」
俺たちが射殺したカマドウマ狼か。ほっといたら森になるとか言ってた、あれか。
あれは喰われた生き物の魔素を凝縮した汁みたいなものなのだとか。避難民のみんな、ヤバいじゃん。
「できれば夜までには領主館への移動を済ませるつもりだったんです。現状を見ると、この町に残る利点が見出せません。移動を強く推奨します」
「……ヘイゼル。黒甲冑から、どんな情報を吸ったんだよ」
ツインテの銀髪メイドは振り返って、俺に手を差し出してきた。受け取ると、明滅する紅い石が嵌め込まれたチョーカーのようなものだった。
「龍種の魔珠ですね。かつて、この町を作り上げた中心人物たちの結束を示す記念品で、“永遠の力を得る”術式が掛かっていました」
「過去形ね。ちなみにヘイゼルのは?」
「当時はクライアントの事情に関与しない主義だったので」
「その後どっかで宗旨替えしたわけだ。これは、黒甲冑が着けてたのか?」
「はい。こちらも、これも、そしてこれも」
同じような魔珠を嵌め込んだブレスレットやらリングやらネックレスやら。全部で七つ。それぞれが呼吸するように光を発している。たぶん、魔力光だ。
「あいつが急に倒れたのって……」
「昔の仲間を殺して奪った魔珠で、若い身体と高負荷の魔道具を維持していたようです。あの
「え」
どこをツッコめばいいのかと迷うが、深入りしないでおこうと思い直す。闇落ちガールならチョイ興味もあるけれども、悪落ちババアはどうでもよろしい。
「あの女……“
俺たちは領主の執務室らしい部屋に入る。
俺は手早く室内を探って、金貨の入った革袋をいくつか探し出した。領主メルケルデは逃げる際に財産をほとんど持ち出したようなので、取りこぼした物だろう。
「ここの住民たちが、お前の知ってるエーデルバーデンの子孫じゃないっていうのも、そいつから?」
「そうです。現王の代になってから、亜人差別を強要されるようになって、融和的もしくは中立的な住民は迫害を受け始めたようです。彼らは、王国を捨てて東へ」
ヘイゼルは壁に貼られた王国地図らしきものの前に立ち、北東部を指す。
「ここがエーデルバーデン。ここから東に
読めん。現地語なのか、見たことあるようなないような文字で、意味どころか発音もわからん。
「ゲミュートリッヒ。ドイツ語で、“落ち着ける場所”というような意味です」
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