15 死と破壊、最終決戦4


 伯爵の神器──魔狼の姿をした『ジャハル・バージェス01』は強敵だ。


 今まで戦った中で、間違いなく最強の──。


 霧状に体を変化させ、俺の攻撃をすり抜ける。

 さらに、その霧の効果範囲内の物質は消滅する。


 攻防ともに圧倒的な性能──。


「だけど、攻略法がないわけじゃない」


 俺はつぶやいた。


 いや、攻略法なんて立派なものじゃない。


「霧になって逃げる前に、反応すらできない速度で叩き伏せる!」


 告げて、床を蹴る俺。


 自分でも呆れるほどの力押しだ。


 けれど、強引にねじ伏せることこそが、どんな策よりも正当な策になることだってある。


 そう、今のように。


「おおおおおおおおおおおおっ」


 四肢に力を込めて。


「おおおおおおおおおおおっ……」


 ただ、速く。


 どこまでも、速く。


 奴が霧になるまでに一瞬のタイムラグがあったのを、俺は見逃さなかった。


 ならば、そのタイムラグより早く致命の一撃を叩きこむまで。


 攻略法は、おそらくそれしかない。


「ふむ、そうきたか」


 リオネルがうなった。


「お前に勝つには、シンプルに──ただ攻める! それだけだ!」


 俺はさらに加速する。


 さらに、さらに。


 振り下ろした攻撃は、霧状になった魔狼にあっさりと避けられる。


 反撃の『消滅』攻撃を、俺は紙一重で避けた。

 今度は制服の一部が引き裂かれて、消え去る。


「まだまだ──」


 構わず、俺は突進した。


 まだ速さが足りない。


 奴に勝つには、まだ。


 奴を殺すには、もっと──。


 自分の中で闘志がどんどんと高まる感覚があった。


 強烈な高揚感に酔いしれる。


 煌っ……!


 ふいに、手にした槌がまばゆい虹色の輝きを放った。


「この輝きは──!?」


 俺と伯爵は異口同音に叫ぶ。


 ヴェルザーレが、まばゆい虹色の光を発していた。

 老執事ガストンと戦ったときと同じ現象だ。


「そうだ、あのときも」


 俺は神器の力を今まで以上に引き出し、戦うことができた。


 まるでガストンやリオネルのような『次なる段階』に突入したかのように。


「なら、戦える──」


 今の俺なら『次なる段階』に進んだ伯爵の神器が相手でも。


 本能で、そう悟った。

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