14 死と破壊、最終決戦3

「神器を与えた人間の力が急激に上がっている」


 破壊の神ジャハトマの言葉に、死の女神ヴェルナはわずかに眉根を寄せた。


「『次なる段階』に入った、ってことかな?」

「あるいは」



 ふう、とジャハトマが息をつく。

 その瞳に爛々とした輝きが宿った。


「『その先』まで行こうとしているのかもしれんな」

「確かフリージアという名の王国でしたね」


 会話に加わったのは、正義の神アル・レーア。


「私が神器を与えた女騎士も、そこにいるのです。正義感が強く、清らかで──ですが、内面にはいい感じで闇を抱えていそうな女でしたよ……ふふ。私のお気に入りです」



 正義の神の割に、妙に腹黒さを感じてしまう台詞だ。

 ヴェルナは内心で苦笑した。


「あ、ボクも好みの男の子に神器を上げたよ~」


 にっこりと笑って告げるヴェルナ。


「ふん、貴様らは単なる好みで無意味に神器をばらまいているのか」


 ジャハトマが鼻を鳴らした。


「俺は素質がありそうな者を見極めた上で、神器を授けているというのに」


 と、


「あまり人間に力を与えすぎない方がいい」


 さらに他の神々が会話に加わってきた。


「我らは手勢を欲している。失われた古き神の代わりになるような──だが、人間が力をつけすぎれば、我らの地位が危うくなるかもしれぬ」

「少なくとも数でいえば、人間は我らを圧しているのだからな」

「たかが人間とはいえ、その成長力は侮れぬ」

「せいぜい寝首をかかれないようにするさ」


 ジャハトマが鼻を鳴らした。


「俺が以前に神器を渡した奴も、そんな目をしていた。表面上は従順だが、いずれ俺たち神に取って代わろうとしているような──強烈な野心を感じたものだ」

「ボクが感じたのは、もっと別の気持ちだったな」


 ヴェルナは一人ごちた。


 ミゼル・バレッタ。

 彼に神器を与えたのは、容姿が好みだったからだ。


 まるで神らしからぬ浮ついた感情だったかもしれない。


 いや、この気まぐれ度合いはかえって『神らしい』のだろうか?


 ヴェルナには分からない。


 ただ、彼を一目見ただけで、心が強烈に疼いた。

 胸が、激しくときめいた。


 もしかしたら、恋に落ちてしまったのかもしれない。


 彼が抱く強烈な憎悪と強靭な殺意、その裏腹の繊細な心──。

 そんなアンバランスさに、ヴェルナは惹かれた。


 生まれて初めての口づけを彼に与えたのも、その想いゆえ。

 神や女神のファーストキスをもらった者は、人知を超えた加護を授かる。


 ミゼルにも、いずれ役に立つときがくるだろう。

 彼を待ち受けるのは、おそらく神器使いならば避けて通れない、過酷な戦い。


 神器使い同士の、あるいは神器使いに敵対する組織との、そしてあるいは──。


(死なないでね、ミゼルくん。いつかまた、会いに行くから)


 ヴェルナは甘い慕情を胸に抱き、内心でつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る