11 行動原理


「私の行動原理は『力』だ。権力、財力、武力──この世のあらゆる力を極め、人よりもさらに高い段階へ──そう、神の段階へと登りたい」

「神になりたい、ということか」

「いや、神をも凌ぐ存在になるつもりだ。最終的には、ね」


 リオネルの口の端が大きく吊り上がった。


 宮廷内での権力争いとか、そんなものは伯爵にとって単なる戯れでしかないのか。


 本来の目的は、もっと大きな力。

 人類史上、誰も手にしたことのない力──。


 そんな『力』を得ることに取りつかれた妄執の権化。

 それがリオネル伯爵、という男なんだろう。


「ともに神になり、やがては神を超える存在を目指さないか? 神は強大だ。これを超えるには、いくら『次なる段階』へ行こうとも、あるいはさらに先の段階に至ったとしても──簡単にはいかん。しょせん、個の力では限界があるのだ」


 謳うように告げるリオネル。


「ゆえに、私は同志を求める。ともに神を打倒し、神を超える存在として成り上がらんとする同志を。君なら、それになれるかもしれない」

「興味がない」


 俺は伯爵の誘いを、一言で切り捨てた。


 とりあえず最低限の情報は得ることができた。

 これ以上、リオネルを──『悪』を生かしておく理由がない。


「興味深い話をきかせてくれたことには礼を言う。後は──」


 俺は右手を掲げた。


 その手の中に巨大な槌が──『死を振り撒く神の槌ヴェルザーレ』が出現する。


「正義の名の下に、お前を始末する」

「なるほど、それが君の答えか」


 リオネルはため息をついた。


 深い、深いため息を。


「残念だ」


 それは、俺と虐殺伯の戦いを告げる合図となった。


「目覚めよ、我が神器──『すべてを破ジャハル・バ壊せし魔獣ージェス01』」


 伯爵が静かに唱えた。


 その全身から黒いモヤが立ち上る。

 モヤはリオネルの前方で一か所に集まり、狼のような姿を形作った。


 全長五メートルほどの、漆黒の狼。

 その体は金属質で、まるで黒曜石を集めてできたようなフォルムをしていた。


 まさに、魔狼だ。


「それがお前のクラスS神器か」


 俺はヴェルザーレを構え直した。

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