2 黒の超戦士2

「ミゼル……ミゼルぅぅぅぅぅぅぅっ……!」


 俺の名を叫びながら、アーベルのまとう黒い甲冑が発光した。


 次の瞬間、折れたはずの四肢で立ち上がる。


 さっきの一撃で骨を砕いてやったはずだが……。

 見たところ、四肢はまともに動くようだ。


 さしたるダメージを受けた様子がない。


 まとっている黒い甲冑には、無数の亀裂が入っていた。

 が、内部から赤い光があふれたかと思うと、あっという間にその傷がすべて修復されてしまう。


「装着者や甲冑自身を自己再生する特性か……?」


 眉を寄せる俺。


「ミゼル……てめえに借りを返すときがきたぜぇぇぇ……!」


 背後からナーグが近づいてきた。


「今度はお前が、俺と同じ屈辱を味わうんだ!」

「ぶっ殺してやる!」


 前後からアーベルとナーグが同時に迫る。

 ともに、常人の十倍近いスピードだった。


「だが、俺には遠く届かない」


『死神の黒衣』はまとった者の身体能力を最大で33.3倍にアップさせる。

 俺はその特性を全開にし、大きくサイドステップした。


「は、速い──!?」


 驚く二人のうち、俺はまずナーグの背後に回りこんだ。

 ヴェルザーレを一振りして、頭部を叩き潰す。


「ぎゃ……ば……ぅ……」


 肉片と脳漿のうしょうをまき散らしながら、ナーグは倒れた。

 さすがに立ち上がってこない。


 ……ということは、不死身の類ではなさそうだな。


「き、貴様ぁ……!」


 アーベルは顔を青ざめさせながら、なおも向かってきた。


「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる……!」


 俺に対する恨みは、相当根深いらしい。


 だが、その恨みを晴らさせてやる義理はない。


 アーベルの超速の突進を、俺はさらなる超速の動きで避けた。

 すれ違いざま、ヴェルザーレを叩きつける。


 いや、叩きつけようとした。


「……ぐっ!?」


 その寸前、脇腹の辺りに鋭い痛みが走る。

 俺は慌ててその場を飛び退いた。


 振り返ると、頭部を失ったナーグが剣を構えている。


「こいつ、頭部を潰しても活動できるのか……!?」


 甲冑の首付近のパーツがぐにゃりと変形し、伸び上がって異形の兜を形成した。

 狼の顔を象ったような兜だ。


「ぎ……が……ぐ、ぎぃ……」


 鉄が軋むような声が響く。

 まるで、その兜がナーグの新たな頭部であるかのように。


「驚いたか? 恐怖したか? 俺もそいつも不死身の力を得たんだ」


 得意げに告げるアーベル。


「貴様を殺すまで、何度でも立ち上がる!」

「なら、立ち上がれなくなるまで砕き続けるだけだ」


 俺はヴェルザーレを振り上げ、構え直した。



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