11 女教師アリシア

 放課後になった。


 最近はレナやジークリンデと剣の訓練をすることが多い時間帯だが、今日は彼女たち二人とも用事があるということで、俺はまっすぐ寮まで帰宅だ。

 校舎から出ようとしたところで、一人の女教師と出会った。


 童顔で背が低く、中等部か、下手をすると初等部の女子生徒のような外見だ。

 俺が所属する『炎精霊イフリート』クラスの担任教師、アリシア先生だった。


「ミゼルくん、これから帰宅~?」


 妙に間延びしたような独特の語調で、アリシア先生が声をかけてきた。


「はい、今日はまっすぐ帰ろうかと」


 俺は一礼して答える。


「そっかぁ。先生はこれからミカエラちゃんのお見舞いに行くの~」

「ミカエラ……さんの?」


 俺は思わず聞き返した。


「彼女とは同期だったんだよ~。当時から成績トップですごかったなー。男子にもモテまくりだったし」


 と、アリシア先生。

 まあ、あれだけの美人だしな。


「あ、ちなみにあたしもモテモテだったよ」

「そうですか」


 軽く流しておいた。


「あ、ちなみにあたしもモテモテだったよ」

「なぜ二度言うんですか」

「大事なことだからね。あ、ちなみにあたしもモテモテ──」

「さぞかし可愛かったんでしょうね」


 放っておくと、際限なく同じ台詞を聞かされそうだったので、適当に合わせておいた。


「あ、今のは心がこもってない! やり直し!」

「……けっこう面倒くさいタイプなんですね、アリシア先生」

「はい、心を込めて!」

「しかも、俺の話は聞いてないし」


 ここは素直に従わないと話が終わらなさそうだ。


「さぞかし……可愛かったんでしょうね」

「や、やだな~。年下の美少年から言われると照れちゃうなぁ……あたしたちは教師と生徒……いけないのよ、アリシア……禁断の恋は」

「……本当、面倒くさいタイプですね」


 俺はため息をついた。


「でも好みに合う男がいなくてねー」


 いきなり妄想から戻ってくるアリシア先生。


「ミゼルくんは、ちょっといいかな、って思ってるけど……ふふふ」

「えっ」

「教師と生徒……禁断の関係って燃えない? ねえ、燃えない?」


 またその妄想に戻るのか。


 しかし、返答に困る問いかけだった。

 アリシア先生は爛々とした目で俺を見つめ続けている。


「えっと……そうだ、ミカエラさんって学生時代はどんな感じだったんですか?」


 先生の気を逸らすために、話題を変えてみた。


「えーっ!? ミゼルくんって、あたしよりミカエラちゃん派なの!? うわー、しょっくー」

「いえ、そういうわけではなく」

「じゃあ、あたし派? あたし派だよね? 禁断のすくーるらぶにごーごーだよね?」

「いえ、そういうわけでもなく」

「むむむ……」


 駄目だ、話を逸らせない……。



***

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