11 反撃の決意

 全身に甘い愉悦が広がっていく。

 触手に体を汚されながら快感を得ている自分がたまらなく嫌だった。


(私の本性が淫らだから……こんな怪物相手でも快楽を得てしまう……)


 そんな汚らわしい自分に正義の騎士たる資格があるのだろうか。


 自問する。


(──あるわ。たとえ体を汚されても、浅ましい快楽を得てしまっても。私は正義を貫く。貫きたい。だから──)


「が、はぁぁぁっ……!?」


 とたんに触手から与えられる快楽が、苦痛へと変わった。


 今度は性悦ではなく痛みによってミカエラの意志を削ごうというのか。


「さあ、降参なさってください。ミカエラ様」


 老執事が余裕たっぷりに告げる。


「だ、誰……が……っ!」


 ミカエラは苦痛にうめきながらも、彼らをキッと見据えた。


 とたんに、圧迫感がさらに強くなる。

 腕が、足が、腰が、首が、太ももが、乳房が、性器が──今にも潰され、ねじ切られそうだ。


「強情ですね。ダメージを倍加させていただきました」


 老執事が微笑む。


「本当に精神崩壊しますよ? 早く降参なさってください」

「お断りですわ! このミカエラ・ハーディン、たとえ殺されても悪に屈する膝はありません!」


 心が、燃え上がる。


 正義の心が。


 全身を襲う灼熱感は、ミカエラの心の奥からマグマのごとき吹き上がった正義の心によって余さず吹き飛んだ。


「むっ!?」


 同時に、溶け落ちたはずの甲冑が元に戻る。

 どうやら、すべては幻覚だったようだ。


「私は──正義は、負けない!」


 吠えて、ミカエラは床を蹴った。


 細剣を手に、伯爵と老執事へと肉薄する。


「私の『盾』が──!?」


 ガストンが驚愕する。


「あり得ません! 精神増幅系の高ランク神器か、あるいは『次なる段階』に踏みこんだ者でなければ、絶対に跳ね除けられないはず……!」

「正義の心を強く持てば、いかなる邪悪も打ち破ることができるのです!」


 ミカエラは凛と叫んだ。

 床を踏み抜くほどの勢いで蹴り、さらに加速する。


「わ、私たちを守れぇぇぇっ……!」


 さすがに焦ったのか、ガストンは慌てたように両手を振った。

 進行方向上に五角形の盾が出現する。


「無駄ですわ!」


 ミカエラは躊躇なく盾に斬りつけた。


 刃が盾の表面に触れたとたん、ミカエラの体を激痛が襲う。

 さっきの『盾』と同様、攻撃した者にダメージを返すタイプらしい。


「くっ……あああああああああああああああああっ!」


 ダメージを意に介さず、ミカエラは細剣を突きこんだ。


 ほとばしる閃光が盾を貫き、砕く──。




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