第403話 徴収

「…………さてと……」

「「じ~~~~~」」

「……ちゃ、ちゃんと後で説明するよ……」


 パリピとの会話が終わり、俺が一息ついた瞬間、ふくれっ面のエスピとスレイヤが俺を睨んできた。

 どうやら、パリピのことを二人に話していなかったことを相当ムスッとしたようだ。


「コジローも……その……」

「はは……いやはや……世界の裏でお兄さんが、パリピやノジャやゴウダを倒してたとかどういう状況じゃない……本当なら一升瓶の酒でも置いてもう一度最初から聞きたいくらいじゃない……」


 いつも余裕で飄々としているコジローも頭を抱えてしまっている。


「……シノブは知っとったんか?」

「え、ええ……お母さん。そもそも、闇の賢人の件に関しては、私もその場にいて……この目でちゃんと見ているから……ハニーの雄姿を♡」


 そんな皆にゆっくりと話している状況でもないので心苦しいが、とりあえず……


「ぬっ!? 大気に流れる魔力が……ッ!」

「ラル?」


 そのときだった。ラルウァイフが表情を強張らせて立ち上がり、勢いよく外へ飛び出した。

 何があったか分からなかったが、俺たちもとりあえず外へと飛び出した。

 すると……


「あっ……」

「……空が……」


 家の外で空を見上げると、そこにはいつもと違う何かが浮かんでいる。

 紋様のようなものが空を駆け抜けて、何かを張り巡らせている。



「あれは結界……しかも……なんと大規模な……少なくともこの国を覆うほどに……」


『ふむ……規模的には、大陸……最低でもジャポーネ王国の領土を覆うほど……カクレテールでヤミディレが行っていた結界の更に大規模バージョンだな。まぁ、規模がでかいだけあって薄いので、一点集中して破壊するぐらいなら、このメンバーであれば……』



 空を流れる魔力の壁。

 それは、この結界内に居る者を誰も外へ出さないという意思の表れ。



「あららら……これがシテナイが言ってたやつだよね。でも、大陸を覆うなんて……一人じゃ無理だよね。きっと、何十人、何百人ぐらいの魔導士が……」


「そう思うじゃない。だけど……その大人数の魔力を『増幅』させて束ねているのは……」



 そして、空を見上げてエスピとコジローは色々と察したのか目を細めている。

 当然俺も。



「どのみち、兄者があんな宣言までしている以上、もはや拙者も国外逃亡する気はなかったでござるが……これで引けなくなったでござるな」


「せやなぁ~。ほんで、問題は……どこまでするかや……そしてそのカギは……」



 カゲロウさんはみなまで言わないものの、その言葉の意味が伝わってくる。

 どこまでするのか?

 結界を壊すまで?

 ベンおじさんたちを助けるまで?

 それともこの国の王を……



「急報ッ!! 急報です!! 王都で……王都に異変がッ!!」


「「「「ッッ!!??」」」」


 

 そのとき、オウテイさんの配下で王都の様子を伺っていた忍者戦士たちが慌てて駆け込んできた。



「王都全域で……『税務部隊』なる集団が……王都全土で強制徴収を行っております! 財を容赦なく徴収されるだけでなく……そ、その……」


「……どうしたでござる?」


「そ、その、税を払えぬ家には罰則を課したり……家財道具一式を差し押さえたり……その……わ、若い娘が居る家は……娘を……税の代わりにと……」


「ッ!!??」



 その報を受けて、オウテイさんは勢いよく地面を殴りつけた。その表情は憤怒に染まり。

 俺らだって聞いているだけで胸糞悪くなるような話だ。

 さらに……


「し、しかも、は、話はそれだけではなく……その……」

「なに? まだ、なにかあるでござるか!?」


 まだ話は終わっていなかった。

 それは……



「その税務部隊……戦士を自主退職した忍者戦士たちも多数所属し……た、ただ、その指揮を執っているのは……そして、その部隊の中にもチラホラと……」


「なんでござる? 何が、誰がいるでござる?」


「……オーガが……」


「ッ!?」


「なぜか、オーガ族がその部隊に混じり……裏切った忍者戦士たちを指示して、その……」


「な、なぜ……」


「国王曰く……人と魔の共同作業……グローバル化だとかなんだとか……」



 オーガ。

 その言葉に、俺もエスピもスレイヤもラルウァイフもハッとした。

 いや、確かにこの件にハクキが絡んでいるのならば無いこともないが……でも……



「ほんっと、鬼の評判を落とすようなことやめてほしいよね、お兄ちゃん」


「まったくだ。でも……鬼と忍者が一緒になってジャポーネの国民苦しめるとか……なんつう……」


「でもさ~。ジャポーネを飛び出した忍者戦士たちって、たしかシテナイの会社に入ったんじゃなかったっけ? 今更ハクキがシテナイと繋がってるのは驚かないけど、シテナイはこのジャポーネの件にはもう関わらないとか言ってなかった? やっぱ、ウソだったのかな?」


「そ、そういえば……」



 話の流れからして、その税務部隊とやらはハクキ関連の鬼たちと、シテナイの会社に入った忍者戦士たちなんだろうと思ったが、エスピの言う通りシテナイはもうこの件には関わらないと言っていた。

 あいつが嘘言っていたと言えばそれまでだが……

 


『ひははははは、困ったときのパリピ君です。いや~、なかなかセコイことしてるね~、シテナイとかってやつは』


「うおっ!?」 


 

 神出鬼没なパリピが魔水晶から突然笑った。

 これは心臓に悪い……さっさと、この魔水晶を手放したい。



「どういうことじゃない? パリピ」


『ほら、コジロウたちも知っての通り、これまであのバカ王の所為で何人もの忍者が一斉に退職してるわけじゃん。そういう連中は厚遇でシテナイの会社で雇用されてたわけだけど……シテナイはその雇用したばかりのジャポーネの戦士たちを昨日までの間に別の組織に売ったわけだ……権利譲渡も含めて……そう、ハクキの旦那たちにね』


「……なに?」


『そうなると、その税務部隊とやらは、ハクキの旦那の組織オンリー……たしかに見かけ上は、シテナイの会社は関わってないねぇ~……だって、もはや自分の会社とは関係なくなった忍者たちが、別の組織で勝手にやってるだけの話だからねぇ』



 それは、あまりにも屁理屈のような理論だった。

 自分の会社にいた人間とはいえ、もうすでにその人間は他の組織の人間になったので、もう自分たちには関係ないとか……


「でも、待つじゃない。そうなると……解せないじゃない。仮にそういう紆余曲折あっても……いくら金に困ったといえど……あのハクキや魔王軍残党の鬼たちの組織に、大人しくジャポーネの戦士たちが……移るなんて……解せないじゃない。ハクキ達だって、そんな形で移ってきた忍者戦士たちを信頼して受け入れるとは思えないじゃない」


 そう、シテナイとハクキの間でどういう取引があったかは知らないが、コジローの言う通りジャポーネを抜けた戦士たちがそんな簡単に魔王軍残党の組織に移るものなのかと。

 しかし、その疑問に対してパリピは……



『ひはははは、信頼なんて必要ねーのさ……ほれ……そこの可愛いノジャちゃんのように……頭の中にちょっと異物を埋め込んじまえばいいだけなんだからさ♪』


「「「「「ッッッ!!!???」」」」」



 そのとき、俺たちはゾッとした。



「こんこん、ぺろぺろちゅっちゅっ♡ あむあむぺろぺろ♡」



 ノジャが俺にスリスリしてきても気にならないぐらい、この事態に頭が痛くなった。

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