第390話 これからのことについて

「あ……お父さん! エスピ姉さん! アース様! 帰ってきた!」


 集落の入り口で俺らに気づいたアミクスが嬉しそうに飛び跳ねて手を振っているブルンブルン揺れている。

 そして、その隣でまるで門番のように待ち構えているスレイヤとラルウァイフ、他にももしものためにと弓や槍などを持って待機していた男のエルフたちも、安堵したように俺らに手を振ってきた。


「お兄さん、無事だったよう……ん?」

「待て……なんだ、他の連中は?」


 しかし、皆が笑顔から急に表情が変わった。

 無理もない。本当は俺とエスピと族長の三人だけのはずが、数十人もの人間を引き連れて帰ってきたんだから。


「これがエルフの集落……でも、族長さん。本当に良かったじゃない? オイラたちを連れてきて」

「某たちからすれば感謝しかないが……やはり、エルフの方々は人間に対してそれほど良い感情を持っていないのではござらんか?」


 そう、集落にコジローたちを連れて帰ってきた。

 これまでの経緯や、これからの話も含めて、一度集落に帰ってゆっくり話そうということになった。

 提案したのは族長だった。


「まぁ、あんたたちの仲間も相当くたびれてるし、見捨てるのもね……それに、多分だけどこの集落の存続にはコジローさんが絡んでるっぽいし、その恩返し……あと、全ての人間に対して俺たちは悪い感情を持っているわけじゃない……エスピやスレイヤやお兄さんのような人間がいるんだしね……それに……」


 正直、この集落に他人を入れたくないし、あまり知られてほしくないと思っている。

 だから、族長から提案したのは本当に驚いた。

 だけど、族長曰く……


「それに、もう問題はジャポーネ王国国内の内紛ってだけじゃ済まなそうだしね。そして、やがてその争いは大きくなって、私有地には立ち入るなとかどうとかそんなこと言ってられなくなりそう……そう思ったんで」


 族長もただの善意で集落を巻き込むようなことはしない。

 つまり、そうしないと今後集落やエルフ族もまずいことになると思ってこうしたんだ。


「アミクス! お母さんたちに言って、彼らに手当を。あと水と食事を持ってきて」

「え、お、お父さん……でも……いいの?」

「大丈夫。ま、何かあったら俺が責任……というか、お兄さんとエスピとスレイヤに何とかしてもらうから」


 俺もエスピも正直気は進まなかったが、その予感は何となく理解できた。


「かたじけない。このオウテイ、この恩を一生忘れぬでござる」

「本当に……心からの感謝しかないじゃない」


 申し訳なさそうにしながら手を合わせて頭を下げる、オウテイとコジロー。

 それに合わせてカゲロウも、そして他の忍者戦士や侍戦士も頭を下げる。


「お兄さん……エスピ……随分と大物を連れて来たみたいだね。まさか、七勇者のコジロウを連れてくるとは……え?」

「まぁ……七勇者のコジロウは話が分かる者と聞いて……ん?」


 族長が受け入れる以上仕方ないとはいえ、それでも今の時点ではスレイヤとラルウァイフも複雑そうな顔を浮かべた。

 だが、二人はすぐにオウテイとコジローがどうとかが頭からすっ飛んでしまうことになる。

 何故なら……



「コンコン♡ すりすり~、ぺろぺろ♡」


「「え…………?」」



 それは、俺の背中におんぶされてるみたいにしがみ付いていたコイツの所為だ。


「え、あ、あの、お、お兄さん? その、えっと……なななな、ナニソレ?」

「ば、あ、ばかな……な、なぜ……だ……だ……大将軍ッッ!!??」


 牙の抜け落ちた甘え状態のノジャ。

 スレイヤは口開けて固まり、ラルウァイフは卒倒して腰抜かしてしまった。

 昨日はうさ耳つけて「行くピョン」なんてやってたけど、流石にかつての上官がいきなり現れ、しかもこんな状態になってるとビビるよな。



「お、おお、お兄さん! それに、エスピ! こ、これはどういうことだ! 何故、ノジャが!」


「なななな、なぜ、な、なぜ、だ、だいしょうぐんがぁ!」


「ごめん、スレイヤ君、ラルさん……もうね、ほんとスグには説明できないようなことが色々とあってね……うん、ほんとゴメン。ちゃんと説明するから」


「スレイヤ? ほう……噂のエスピ嬢の彼氏……なるほど、挨拶しないとダメじゃない」


「ぬっ? 噂のハンターでござるか……それに他にも……ダークエルフまでこの集落にいるでござるか……」


「は~……この土地にこないな集落があったとは……しかし、そんなエルフと、他にも七勇者のエスピや超一流ハンターと呼ばれたスレイヤまで……そないな連中に慕われとるアース・ラガン……一体何者なんやろ?」


「え? な、なに、あの小さな子……アース様にあんなにベタベタ……いくつなんだろ? なんか、子供なのに子供に見えないし、ちょっとエッチっぽいし……アース様、小さい女の子がいいのかな? ……私みたいなおデブさんじゃ……で、でも、私、安産型だし……あ、わ、私は何を言ってるんだろ!? お、恐れ多くもアース様で妄想なんて!」


「もう、知らないから! ほら、女は急いで食事の準備よ! ほら、働くわよ! 男連中は水を運んで来なさい!」


「ああ、ごめんね、イーテェ。でも……これはたぶん、大切なことになると思うから……ほんとごめん」


「ちゅぱちゅぱ、コンコン~♪」



 そして、本来ならギスギスするはずが、何だか色々と騒がしくなりそうな集落。

 しかし、このメンツでこれからはこの集落の命運を左右……いや、もっといえば今後のジャポーネ……そしてある意味で地上世界の今後が左右されることになる。



「ほんと、迷惑かけてごめんじゃない。アースくん……いや、お兄さん」


「……コジロー」


「一応、本当に君はヒイロとマアムの息子で……だけど、十数年前に会ったお兄さんであることは間違いないじゃない?」



 そんな騒がしい中、コジローがいつの間にか俺の傍に来て、少し複雑そうな表情で苦笑しながら尋ねてきた。


「ああ」

「……そうか~……まぁ、確かに昔お兄さんと会ったとき、お兄さんがヒイロとマアムと何かありそうとは思ってたが……まさか息子のアースくんだったとは……まぁ、分かるわけないじゃないと言えばそれまで……未来から来た息子だったなんて分かるはずないじゃない」

「まー、そうだよな……」


 俺も苦笑して頷いた。

 そういや、過去の時代で会ったとき、そんなカマかけられたっけな。

 あの時から、こいつは飄々としているくせに凄い鋭い奴だと思ったし、何よりもトレイナも一目置いてた。

 でも、今となっては……

 

「それで……その……」


 と、そこでコジローが何かを言いにくそうに頬をかいて言葉に詰まっている。

 何かと思って首をかしげていると……


「その……一応、御前試合でのことは聞いたじゃない。君はヒイロとマアムと……」

「…………」


 ああ、『そのこと』か。

 そりゃ、かつて親父と母さんの仲間だったこいつからすれば気になるのは当然のことか。

 仲直りしろとか、説教でもして諭すのかな? と一瞬思ったが、コジローは……


「いや、君はもう子供じゃない……道を自分で決めてる男だと思うじゃない。なら、オイラみたいな自分の国のこともどうこうできない男に言う資格はないじゃない」


 コジローは俺と親父と母さんの間のことを追及も諭すこともしなかった。

 てっきり、お節介されると思ったが、そういう男でもなかった。

 正直、それはありがたかった。

 たぶん、こういうところで、エスピも少しこいつに心を開いているんだろうなと感じた。


「とりあえず、今後のことについて話をしようじゃない」

「ああ、そうだな」






――あとがき――

お世話になります。昨日、公式でコミカライズが更新され、あの人が……うぅ……皆さん、マジで見てください。

あと、飯テロになる、えとうヨナ先生の描いたアカさんの手料理もマジで見て!!


https://www.comic-earthstar.jp/detail/break/


また、ニコニコでも引き続き他の読者様とコメント交わして遊んでみてくださいな。結構私も読んでます……マアムと帝国へのコメントぉぉぉ……


https://seiga.nicovideo.jp/comic/47196

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