第367話 胸張って
「ら、ラルウァイフ!? あんた、な、何やってんの!?」
「ぬっ……何って、ちょっと子供たちと遊んでいただけだ。十数年ぶりだというのに相変わらず……いや、それも当然か。貴様はゴウダ大将軍との一戦からすぐに……なのだろう?」
「……あ、ああ……まぁ……」
子供たちとニコニコと歌って踊っていた態度から一変して真面目な顔つきになるのは、元魔王軍だったダークエルフのラルウァイフ。
しかし、ウサ耳と着ぐるみは着たままでそんな真剣な顔をされても……
「あははは、驚くよね、お兄ちゃん。ラルさんはね、あれからこの集落にずっと暮らしていて、子供たちの先生になってるの。勉強とか、魔法とか、外の知識とか教えたり、そして大人たちが野良仕事とかしている間に一緒に遊んであげたりとか……アミクスもお世話になってるし、今ではこの集落では一番慕われているんだよ♪」
俺がラルウァイフのあまりの変貌ぶりに驚いていると、エスピが耳元でそう教えてきた。
なんつうか、過去の経緯とか、種族がどうとか関係なく、ここの住民としてガッツリと生きてきたんだな。
――その辺でみじめに野垂れ死ぬのもまた、小生にお似合いの末路だ……
そのとき、俺はかつてのラルウァイフが口にした言葉を思い出した。
色々なことに絶望して、その瞳に生きる気力を無くして、そんな言葉を口にしたりもした。
でも、ゴウダとの戦いの後、俺が未来へ帰ることになったとき、泣きじゃくるエスピとスレイヤを抱きしめながら、こいつは言った。
――小生は生きる。血にまみれて醜くなった小生でも、いつの日か胸を張って堂々とアカと再会できるぐらい……誇らしい人生を送り、いつの日か必ずアカに会いに行く。そう誓う。アオニーの分まで……
あの時の誓い。それを思い出して俺は……
「なぁ、ラルウァイフ……」
「ん? なんだ?」
「胸を張れる……誇らしい人生を過ごせているか?」
「……ッ!? ああ! 小生は生きている。アオニーのことも……一日たりとも忘れたことはない」
俺の問いに一瞬目を丸くするも、すぐに理解したラルウァイフは、過去の世界では見たこともないぐらい優しく、そして眩しい笑みを浮かべて俺に頷いた。
「そっか! 本当によかった……本当に……」
「ふふっ。まぁ、貴様のおかげでもあるのだがな」
「そんなことねーさ。この十数年、あんた自身が頑張ったんだろうしな」
「頑張ったという意識はそこまで……小生自身も楽しかったというのもある……」
「そうか? じゃあ、アカさんには―――」
「そそ、それは……その……もうちょっと……自分に自信を持ってから探しにいくというか……」
「……は?」
って、アカさんの名前を出したら急に顔を真っ赤にして狼狽えるどころかモジモジと……こいつ、今さら何を……
「え? ねぇ、先生もアースくんと知り合いなの!? それに十数年ぶりってどういうこと!? っていうか、お母さんも知ってるみたいだし……」
そんな俺たちのやり取りに事情を知らないアミクスは更に混乱。
それに……
「そうよ! ねぇ、どういうことなの? なんであんた……それに、ラルも全然驚いてないし、エスピも、それにあなたもよ!」
「やっぱり! それじゃぁ、彼はかつて私たちを救ってくれた……」
「えええ!? あ、あの時のお兄さんッ!? なんで!?」
「エスピちゃん、どういうことなの? お客さんって彼のこと?」
「ちょっと、ちゃんと説明してくれよ!」
俺のことをようやく気付いた集落の大人たちも混乱で頭を抱えている。
「ねぇ、アースくん! アースくんは本当に何者なの? それにさっき、先生はアースくんのこと……ラガーンマンって……」
「え? あ~、それは……」
「あっ!? し、しまっ、小生は……」
「あ~……ラルさん……もう、どっちにしろ遅いから……」
俺を一度ラガーンマンと呼んでしまったことにも引っかかっている様子のアミクス。
そのことでラルウァイフはハッとしたように焦った表情になるが、苦笑したエスピが首を横に振った。
そして……
「ん? どっちにしろ……遅いだって?」
っと、実はさっきからずっとこの場に居た族長。
「あ……族長……あ、ごめん、挨拶遅れた。族長も久しぶり」
「ねえ、お父さんもアース君を知ってるんだよね? 教えてよぉ。アースくんがラガーンマンって呼ばれてるし……何よりもアースくん、『大魔螺旋』も使うんだよ!? どういうことなの!?」
「……ッ!?」
難しい顔をして俺とアミクスを交互に見てブツブツと何かを……
「な……なんか、アミクスが必死にお兄さんの腕に抱き着いて……パーソナルスペースなんて気にせず……濃厚接触しているように見える……ふむ……」
その様子……何だか、娘に近づく悪い虫を見ているかのような……いや、絶対そうだ。
そして、族長はチラッとエスピを見て……
「ねぇ、エスピ……」
「う、うん……あのね……私とスレイヤくんがね、ちょっと目を離した隙にお兄ちゃん……アミクスと先に会ってて……」
「ほうほう……」
「そこに、この山に不法侵入していた不良ハンターたちと遭遇して……」
「はい、ちょっとそこでストップッ!!」
エスピが苦笑しながら族長にそう答えると、族長は一旦中断させた。
そして……
「ちょっと落ち着かせてね。ふぅ……まぁ、これが俺の遺伝子の故郷の三流小説家あたりが考えるベタなテンプレイベントとかだと、そこで悪いハンターたちと遭遇して襲われたところ、お兄さんがアミクスをカッコよく助けて、そして大魔螺旋を開放してハンターたちを一気に蹴散らす。助けられたアミクスにフラグがバシッと上がる……とかになるんだろうけど、それはあくまでベタな妄想であって、現実は違うはず。……よし、落ち着いた。じゃぁ、エスピ……何があったか教えて?」
「ごめん……族長……訂正箇所がないくらい当たってる……」
「って、ヲイッ!? お兄さんッ!?」
ブツブツと、まるでその場面を目撃していたかのようなことを口にする族長。
すげぇ……。
そして族長はもう呆れたように俺に掴みかかってきた。
「お兄さん……あのね、俺たちはお兄さんに恩があるよ? そして物語のテンプレとしてこういうとき、種族を越えた友好の証でエルフの従者を一人お兄さんにとか、そういうのあるよ? この娘を嫁にとかもあるよ? でもね、現実はそんなことないんだし、よりにもよってウチの娘に~~ッ!? そりゃ、ラガーンマンのことを本にしたのは俺の責任だし、娘に読ませたのも俺だけども……だからって……早すぎるよぉおお! なんで、十数年ぶりに再会するはずのお兄さんが、俺と再会前に、数時間ちょっと俺が娘から目を離した隙に落としてるの!?」
「いや、待って、族長! 色々と話を……それに、そもそもラガーンマンの本とか俺は知らなくて……」
「ちょ、お父さん! アースくんに何してるの!? 離してよ、アースくんは私の恩人なんだから!」
俺の両肩を掴んで勢いよく前後に揺さぶってくる。
なんかもう、事情を知っている人も知らない人も含めて話す人が多すぎて……こりゃ時間がかかるな……
「なんと……アミクスのラガーンマンへの憧れは懸念事項だったが……もう、既に……色々と悩ましいな……。コレに関してはノジャ様の件もあることだしな……」
「あははは、そうなんだよね、ラルさん。まぁ、お兄ちゃんだし……。でも、まいったよ。実はその辺はお兄ちゃんにまだ教えてなくて……お兄ちゃんの女の子関連の近況含めて、族長さんとラルさんも交えて相談したくて……。あと、真面目に……あの御前試合以降、お兄ちゃんが魔界の『ライファント』、そしてあの『ハクキ』にも目をつけられていることを……」
そんなこんなでとりあえず、まずは族長の家に行って、俺、エスピ、族長、ラルウァイフの四人で話をすることになった。
――あとがき――
やべえ、すべき話とかやりたいことが多すぎて何から整理していいか……ま、ちょっとずつやります。話の進みが少し遅くても怒らんでね?
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