第293話 全員ぶっとばす
――だっこして
あんな可愛いことを言っていた我が妹分。
しかし、一度戦闘モードに入ればやはり歴史に名を残す存在。
「が、う、こ、このがき……」
「つ、つよい……」
甲板で横たわるハーピーたち。
最初は残虐でいやらしい笑みを浮かべていたハーピーたちが、今では恐怖に怯えている。
すると……
「テメエら! あたいの可愛い部下たちに何をしてんだゴラァ!」
また、新たな殺意が空から降りてきた。
「た、隊長!」
「ショジョヴィーチ隊長!」
他のハーピーよりも明らかに強者の風格漂わせる存在が現れた。
「随分と派手にやってくれてんじゃないかい。どんな豪傑もあたいらの前では裸足で逃げ出すってのに……覚悟はできてるんだろうなぁ?」
荒い口調と共に舞い降りる、長い緑色の髪を靡かせた美女。
黒い鋼のパンツと胸当てだけを装着し、他の肌は露出している。
しかしそれは色っぽさよりも、全身の締まった筋肉、割れた腹筋、そしてその野性味あふれる鋭い眼光が、このハーピーを歴戦の猛者であると雄弁に語ってやがる。
『おお、確かこやつはハーピーたちの隊長にして、ノジャ軍の幹部……何度か顔を見たな……』
トレイナも反応。ってことは、こいつは別格に強いってことか?
「隊長、き、気を付けて、そ、そこのガキ……」
「はぁ? って、あんたらこんなガキに? ったく、情けね~な~」
「そ、そのガキは……ひょ、っとしたら……」
「けっけっけ、あたいがこーんなガキにやられるかってんだい! こんなガキはさっさとお仕置きしてやって……それより……うひょ~、なかなかイイ面構えの雄たちがいるじゃねぇか。いいね~、攫って調教してお婿さんに……じゃなかった、とにかくその体を、その、あれだ、ち、チッスとか――――」
部下のハーピーたちの忠告も、その自信から一蹴して、好戦的な笑みと共に涎を垂らすハーピーの隊長……だが……
「ふわふわパニックッ!」
「ほびゃっ?!」
「「「「た、たいちょおおおおお!?」」」」
「「「「また秒殺ぅぅぅぅ!!??」」」」
『そ、そう、ハーピーの隊長……七勇者のエスピに敗れたという報告だけ聞いて、その後は生死不明の行方不明と……』
エスピが手を翳して力を放った瞬間、ハーピーの隊長は前後左右に高速で揺さぶられ、数秒後に気を失ってぐったりとしてしまった。
「い、今のは……」
『簡単なこと。ああやって高速で肉体を動かすことで、相手の脳内も高速で前後し、そのまま脳震盪を起こしたということだ……』
ドンマイ、ハーピーの隊長。相手が悪かった。
「あー、やられてやがる!」
「隊長!」
「な、なにしやがった、あいつら!」
「くそ、よくも仲間を……隊長を!」
「全員ぶっ殺してやらァ!」
だが、先走ったハーピーたちや、単身で乗り込んできた隊長だけを倒してもまだ終わらない。
異変に気付いたのか、今度は数十のハーピーたちが隊列を組んで飛んできやがる。
流石にあの数はエスピ一人じゃ……
「うるさいなぁ……もう、全員死んじゃ……ううん、じゃない。全員ぶっとばす!」
しかし、エスピはまるで動じない。
むしろ、ウザったいぐらいにしか思っていなさそうな表情で……
「えいっ!」
まるで、物を持ち上げるかのようにちょっと力を入れている様子を見せるエスピ。
するとそれだけで、甲板に横たわっていたハーピーたち、散乱している武器などが同時に宙に浮かび上がった。
「う、浮いた!?」
「この力は……」
『ほう、懐かしいな……』
まるで『世界』がエスピの意思で操られているかのような光景。
上空から襲い掛かってくるハーピーの部隊に対し、エスピは自分が倒したハーピーや武器を一斉に上空に集めて……
「ふわふわ世界(ヴェルト)!!」
「「「「い、ぎゃ、ぎゃあああああああああああ!!!???」」」」
まるで、砲撃のようにそのままぶつけた。
武器も、ハーピーの体ごと全部ぶつけて迎撃し、やられたハーピーたちが次々と海に落ちていく。
「ついでに……」
「「「「ッッ!!??」」」」
ついで……どころではない。
なんとエスピは、船の後方に引っ張られていた大海王イカの死骸まで宙に浮かせ……
「な、何アレ!?」
「で、デカ!? つか、イカくさ!?」
「う、うそ、持ち上げて……なに? まさか、まさか!」
「や、やめっ!?」
「いやあああああああ!!」
そのままハーピーたちに振り下ろした。
『ふ、ふふふ、懐かしい。しかし、まだまだ可愛いものだ。アレを戦場でやられた時は、もっとすさまじかった……数百数千数万の死体、武器、全てを浮かせて上空から魔王軍にぶつけてくるあの地獄絵図を、余は今でも忘れぬ!』
トレイナすらもが認める力。
これが……
「お兄ちゃん、見た見た? 私、強いでしょ! あの子よりずっと強いんだから!」
これが、現役バリバリの七勇者の力。
敵を殲滅し、直後にニコニコ顔で俺に手を振ってくるも、その衝撃は甲板に居た皆を絶句させている。
「お、おお、すごいぞ、エスピ」
「んふ♪ じゃあ、いーこいーことだっこ♪」
「は、はい、分かりました」
「んふ~、ぎゅ~~♡」
とりあえず、俺もこいつを怒らせないようにしよう。
へそ曲げさせないようにしよう。
「き、君は一体……それに……エスピって……え? ま、まさか……まさか……」
「ふふふん、どう? 私の方が強いでしょ?」
そして、驚くスレイヤに対してもドヤ顔のエスピ。
とりあえず、この場は俺も一切何もすることなく何とかなってしまった。
とはいえ、ここはどうにかなったものの……
「すげー……すげーよ、お嬢ちゃん! あんた一体何者だよ!」
「なぁ、あんたらひょっとして……それにその子、エスピって呼んでたけど……まさか!」
「な、なぁ、それより、港はどうすんだよ? とりあえず、このまま逃げるでいいのか?」
そう、まだ肝心なことは終わってない。
燃え盛る港町。
流石にアレを放置するわけにはいかねーしな……それと……
「アレもなぁ……」
恐怖に染まった表情で気を失い、海の上に散乱しているハーピーたち……このままでは溺れ死ぬ……しかし、今は戦争中……あいつらも好き放題人間を殺し……でも、なんか寝ざめが悪い……
「ふわふわ回収」
「……え?」
と、俺が悩んでいたところ、海に落ちてたハーピーたちをエスピが能力で回収し始めた。
なんで?
するとエスピがニンマリして……
「軽はずみに死んじゃえは駄目なんでしょ?」
俺がちょっと悩んでいる間に、何の迷いもなく無垢な表情でそう告げるエスピ。
「くはは」
俺は思わず苦笑して、今度はお願いされるまでもなく、もう一度エスピをいーこいーこした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます