作者様の原点にして最高傑作

　作者様の作品はいくつか読ませていただいておりますが、こちらの作品を読んだときにそう感じました。

　この作品にはたくさんの思いが濃密に込められています。止まない争いの世界と平和への道しるべ、千年の時を超えてもつながる人の想いと心、つらい環境にも負けず明るさを失わない市井の人々、復讐心を乗り越えてゆく意志、そして人類史をたどる謎解きのミステリー、それらがファンタジーの世界を舞台に、鮮やかなストーリーでつながれてゆきます。

　そして物書きならばきっとうなづいてくれるはず。これだけの要素・テーマを込めるだけでも大変なのに、それを波乱万丈のストーリーの中で再現する困難さを。この作品では軽やかに、しかし深みをもって再現されています。もう見事としか言いようがないです。

　面白くて、読みやすくて、キャラクターが愛おしくて、読み進めていくうちそのストーリーの奥に現実でもちゃんと考えなければならないテーマが浮かび上がってくる。こういう構成、ストーリーを考えるには莫大な想像力がいると思うのです。この物語を書かなきゃ、これは自分にしか書けない、そんな想い・心情がストーリーを介して暖かく伝わってくるのです。

　こう書くとなんだか固いファンタジーのように思われるかもしれませんが、まったくそんなことはありません。青髪イケメンの双子の王子、遺跡マニアの老学者、前向きで明るい少女に、一癖も二癖もあるキャラクターたち、遺跡を巡るミステリーに、千年の昔をたどる冒険の旅、心躍るエンターテイメントがてんこ盛りで文句なしに楽しいストーリーを追いかけることになります。

　また世界設定の緻密さも特筆すべき点で、架空の国の歴史、文化、言語、人種などのオリジナル設定に説得力があります。ファンタジーを楽しむうえでこういう要素は欠かせないと思いますが、それらが実によくかみ合っていて作品世界への没入感を高めてくれます。作者様の想像力の広さ、深さは本当に素晴らしいと思いました。

　こんな作品を書けることはもちろん、そんな物語に出会えるのは本当にまれなことだと思います。ファンタジーの面白さと深いテーマ性が見事に合致している素晴らしい作品、このレビューで興味を持たれたのなら、ぜひ読んでみてください！