第5話 この日

 剣と鎧はコトハ村の武器屋で手に入るらしいが、魔法石は取り扱っていないらしい。

 魔法石は割と貴重らしく、魔法の使える人間がエリックしか居なかったこの村で売るメリットがあまり無いからだろう。勿論、コレクション目的で買う人も居るだろうけど、多くはないだろうし。

 コトハ村から馬を南に三十分ほど走らせると、魔法石を取り扱っている街に着くそうなので、僕たちは魔法石の調達をルークさんに頼むことにした。ルークさんは快く了承してくれたので、じっくりと武器選びが出来そうだ。


 * *


 僕たちは雨に打たれながら、村の武器屋まで歩いて行った。

「さ、着いたぞ。ここが武器屋だ」

 武器屋と聞いて僕は、看板に剣が交差して飾ってあるような店を想像していたのだけど、思ったより質素な外観だった。普通の店となんら変わりがない気がする。

 エリックは扉を押して店に入った。中に入ると、キンキンと金属を叩く甲高い音が聞こえてくる。

 濡れた服から水が滴り落ち、石の床に小さな水たまりが生まれる。そこに出来るいくつもの波紋。どうしようもないけれど、なんだか申し訳ない気持ちになった。

 質素な外観とは対照的に、店内には数多くの武器や防具が所狭しと並べられている。見慣れない武器もあったりして、少し興味をそそられる。

 ところで、店番がどこにも見当たらない。

「おはようございまーす。今大丈夫ですか?」

 エリックは店の奥に向かって叫ぶ。すると、「はーい、少しお待ち下さい!」という声がした。

 しばらくして金属音が止み、店の奥から頭に布を巻いた男性が出てきた。

「おやおや、勇者さんではないですか。お久しぶりです。今日はどうされました?」

「え? 勇者?」

 頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。

 勇者なんて呼ばれ方をしているのか? そんなことエリックから聞いたことがないのだけれど。

 僕は説明を求めてエリックを見る。

「魔獣関連、特に駆逐の仕事をしている人はそう呼ばれてるんだよ。職業名みたいな感じ」

「へー、そうなんだ。初めて知った。どうして言わなかったの?」

 するとエリックは、少しはにかんだ様子で口を開いた。

「勇者って自分で言うのはなんか……恥ずかしいだろ?」

「あー……。ふふっ、なるほどね」

「なんだよ?」

「いやいや、何でも無いですよ。勇者さん」

「お前、ちょっとからかってるだろ。言っとくけど、ユイトもそのうちの一人になるんだからな」

 エリックは苦笑してそう言った。

 ああそうか。確かに、僕も魔獣に関する仕事をするのだった。

 僕も勇者か……。響きはかっこいいな。まあ、まだ何もしていないけれど。

 閑話休題。

「ああ、なるほど。そちらの方の武器をお探しということですね?」

「そういうことです」


 僕はそれから一時間ほど、色々な剣や防具を試してみて、自分に一番合った装備を選んだ。

 剣はエリックに借りていたものより少し短くて軽いものにした。当然のことだけど、剣は三日間の練習で戦えるほど上手くならなかったので、言ってしまえばオマケみたいなものだ。重くても邪魔になるだけなので、軽さ重視だ。

 防具に関しても、気持ち的には全身鎧で固めたかったが、重装備で長距離の移動が出来るとは思えない。だから機動性を重視して、必要最小限のものに留めた。

 とりあえず心臓を守るために胸の周りは固めて、残りの部位は動きに支障が出ない程度だ。ほとんど心臓しか守れていない気がするが、そもそも目的は戦闘ではなく、調査なのだからこれで良しとしよう。魔法を使えば、近づいて戦闘をする必要がないし。

 ちなみにエリックは魔法ではなく、剣メインで戦うことが多いのでもう少ししっかりした装備をするらしい。


 僕たちは武器屋を出た後、他に必要そうなものを買ってから家に帰った。雨や日光を避けるためのマントや、バッグなどだ。

「魔法石が届けば、準備万端だな。これなら明日出発してもいいな」

「いや、心の準備がまだだからそれはやめて」

 本気で言っている訳ではないと思うが、一応僕は懇願しておいた。

「分かってる分かってる。まあ明日は疲れすぎない程度に魔法の練習して、明後日に備えよう」


 * *


 ついにやって来てしまったこの日。昨日の夜、本気で明日が来なければいいのにと願ったのに……。一週間が過ぎるのってこんなにも早かったのか。

 はあ、とため息が漏れた。

 やるって言わなければよかったかなあ……。今更後悔したって仕方がないけれど。

 覚悟を決めて鎧を装着し、剣を腰に携える。少し重い。

 一昨日ルークさんに貰った翠色の魔法石を手に取り、首にかけた。エリックのものとは違う色だけど、魅力的な美しさに変わりはない。むしろこの色のほうが好きな気がする。

 そして最後にフードの付いたマントを羽織る。

 自分で言うのも何だけど、なかなか絵になっているんじゃないだろうか。


「エリックとユイト君、これから危ないこともあるだろうが、頑張ってくれ。私は君たちの無事をここで祈っているよ。もしこの村にノアが来ても、兵士達と一緒に守ってみせるから、そこは安心してくれ」

「ああ、俺が居ない間は頼んだ。ユイトのことは任せてくれ。あんまり無茶はさせないつもりだ」

「ルークさん、ありがとうございました。出来る限りエリックの力になれるよう頑張ります」

 村の入口近くまで見送りに来てくれたルークさんに別れの挨拶をする。本当、ルークさんには感謝してもしきれないと思う。もしルークさんに見つけてもらえなかったら、今頃野垂れ死んでいたかも知れない。そう思うと少しゾッとする。

 もうこの村ともお別れか……。なんだか少し寂しいような気がする。愛着があるわけではないのだけど。

「よし……じゃあ、行くか!」

 今日の天気は、僕たちを後押しするかのように気持ち良く晴れ渡っている。雨だったら、初日から最悪の気分だっただろう。

 フラフラとしながら、慣れない馬に跨る。毛並みの綺麗な栗色の馬だ。この村の駐屯兵に育てられている軍馬を貸してもらった。名前はラリティオと言うらしい。その凛々しいその風貌は、いかにも頼りがいがありそうだ。僕なんかが乗ったら、この子にとって役不足だろうけど、まあそれは仕方がない。

 調査の進捗度合いによっては、長い付き合いになるかも知れない。僕はこの子の相棒になれるだろうか。ぜひとも仲良くしたいのだけれど。


 様々な不安を抱きながらも、僕たちは魔獣調査への一歩を踏み出した。

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