【未来視】で人助けをしました。当然の如く痴漢の冤罪をかけられました。もう助けません。

鳳仙花

【未来視】で人助けをしました。流れるように痴漢の冤罪をかけられました。もう二度と助けません。

「もう男らしく観念して認めなさい。貴方、みさきに痴漢行為をしたんでしょう?」


生徒会長の二階堂エリカさんが言う。


「してません」


僕は頭を抱えていた。

これ、こちらの話を聞く気が全く無い。

頷くまで終わらない無限ループってやつですよね。


誤解は覚悟してたけど、ここまで面倒臭いことになるとは。


わかります。

甘く見ていた僕に原因がありますよね。


あまりの話の通じなさに、ここに至ったキッカケを思い返していた。


 ◯


神通力って信じるだろうか?


僕の家は代々神社を営んでいて、その家系にはたまにこういった力を持った者が生まれる。


ただ、本来その力を人のために使う事は許されない。

神職とはカミに仕える者であって、特定の人間に仕える者ではないからだ。


これだけ聞くと時代錯誤だったり無情にも聞こえるけど、事情を知る立場としてはしょうがないと思う。


科学が発達した今でこそ、人とカミ──怪異や祟りは遠くなっている。


昔はカミと人が近く、人はその存在を畏(おそ)れ敬っていた。

今では迷信と言われる事がほとんどだ。


だけど、中にはたまに……本物が混じっている。


我が家──近衛(このえ)家の九頭竜神社で祀っている存在もそうだ。


元々は荒ぶる存在だったモノを、家の祖先が宥(なだ)め、時には己が命を擲(なげう)って鎮(しず)めてきた。


その末──僕こと近衛(このえ)国継(くにつぐ)には、生まれつき特殊な力を授かっていた。


我が家では神通力と呼ばれる、未来を見通す力。

とはいえ、それは決して万能ではない。


見たい物が見られるわけでもない。

ランダムにビジョンが浮かぶ……酷く限定的なものだった。


とはいえ、事前に人の不幸を予測した場合、厄を除ける事も多いので中々に重宝もしていた。


注意点としては一つ。


そういった運命というのはある程度の強制力があるのか、最低でも三回は退けないと、また別の不幸がその人間を襲うらしい。


僕はそれを『運命の揺り戻し』と勝手に名付けている。


幸い一度観た相手と、それに近しい人のビジョンは連続して浮かぶので、これまで困った事はなかった。


今までは家族や神社の関係者、近しい者のみの未来を観ており、その人々からは非常に有り難がられた。


カミ様の使わした子──神童と呼ぶ人も中にはいたくらいだ。


いま、僕は高校までの通学途中。

とても困った状況下にあった。


目の前を歩いている女子高生──クラスメイトの三好(みよし)みさきさん。

この人の未来が見えてしまった。


率直に言うと、僕が助けないとこの子は交通事故で死ぬ。


本来、神社とは無関係の所で力を使う事はタブーとされており、下手に手助けをしても神通力の説明など出来ない。


話を聞いてくれなければただの異常者を見られるだろう。


神社の決まり事と世の常識、それから人助けの情。

様々な要素が僕の中で葛藤となって、天秤を揺らしていた。


……さすがに、目の前で死なれても目覚めが悪い。

使う事がタブーと言われても僕のは受動的だし……。

ダメで元々、一度だけ助けてみよう。


話を聞いてくれれば良し、聞いてくれなくても死の運命だけは回避されるだろう。


……二度目か三度目の不幸で重傷くらいは負うかもしれないけど。


もう時間がない。

よし、思い切ろう──!!


「危ないッ!!」


「え──?」


!!


袖を引くだけのつもりが、彼女はこちらを振り返り──僕の手は空振り。

そのまま、もつれあうようにして二人とも倒れ込んでしまった。


彼女の後ろには急ブレーキの後、慌てて走りさる車。


でも、良かった。

彼女の無事はモチロンの事。

あれだけ派手な音をさせていれば、さすがに彼女も事故に遭いそうだったと気づくだろう。


これなら【未来視】の説明も必要なさそうだ。


と、思ったが。

彼女はこちらに気を取られたのか……。

どうも後ろの状況に気がついていないようだ。


「きゃああああああああ!?」


そして響き渡る悲鳴。

周りを歩いている人間も何事かとこちらを見遣(みや)る。


遠巻きにカメラを構えている人もいるようだった。


「あの、さすがに少しは聞こえてたよね? 今、自動車が君の──」


「いやッ! なんですか! やめてください!」


うわ、狂乱状態。

これは……とても面倒臭い事態だ!


「はい! どきました! ちょっと落ち着いてくれる?」


続けて彼女は慌てて立ち上がり──


「あなた──近衛君!? こんな事する人だったなんて……!」


僕の言い分を全く聞くことなく、この場を走り去った。

……誰でも分かる状況。

とてつもなくヤバい展開!!



果たして、学校に着いて僕を待ち受けていたのはクラスメイトの冷ややかな視線だった。


「ヨォ、国継。お前が痴漢したなんて愉快な噂が出てるんだけど。なんだ、親切心を発揮して勘違いでもされたのか?」


話しかけてきたのは竜司という親友だ。


「おはようドラゴン。相変わらずエスパー並に鋭いね」


「いやお前、ドラゴンはやめろっつったろ。小さい子どもかよ」


仕方ないでしょ。

僕もどうかと思うんだけど、神主の父さんが『呪(しゅ)で名を縛っておけ』って言うんだし。


「お察しの通り。ウチや君の家に迷惑がかからないか、頭が痛いよ……」


「まあなんだ。ややこしい事になりそうな気がするけど、本当に困ったらいつでも言え」


「……ありがとう」


うわー……この人の忠告ってシャレにならないんだよね。

ありがたいけど。


そして親友の言葉は現実となる。


昼休み──

いつものように竜司と食堂で昼ご飯を食べていたら、校内放送がかかったのだった。


『二年在籍の近衛国継。今すぐ生徒会室に来なさい』


「おい、今のって生徒会長じゃないか? クラス名も言わない上になんか偉そうだったな……間違いなく噂の件だよな。というか、教師じゃなくて一生徒が……? なんか、おかしくねぇか」


『ややこしい事』って間違いなくコレだよね。


「おかしいね。いつから生徒会長がそんな権限を手にしたんだろう?」


「どうする国継。ここは一旦避けて、相手のタイミングを外した方が良いと思うぞ。そうすりゃ、さすがに顧問の介入もあるだろ」


「うん、ご飯も食べ終わったしそうしよう」


そうして、そそくさと食堂を後にしようとすると──


「あッ! いた! 近衛だ!」


「大人しく生徒会室に来い!」


「逃げられると思うなよ?」


僕は男子生徒に囲まれていた。


「あのー……君ら何なんですか?」


面識ないんですけど……。


「白々しい! 俺は風紀委員の五十嵐(いがらし)だ」


「空手部の七尾(ななお)だ」


「サッカー部の六川(ろくかわ)!」


名前が知りたいんじゃないですよ。

何で関係ない人達が当事者のように首を突っ込んでくるか知りたいんですよ。


風紀委員の人なんか、木刀持ってるんですけど……。

まさか暴力で学校を取り締まってるんですかね。

そういうの、フィクションの世界だけかと思ってた。


「いえ、なんで部外者が関わるのか聞きたいんですけど。後で担任の所には行きますので」


「会長から逃げられると思うなよ?」


「そんなこと、許すはずがなかろう」


「担任にどうにかしてもらう魂胆だな?」


あ、これ耳を貸さないやつ。

悪意ありきの話になってるし。

何かの権限があるわけでもないのに、どうしてこんなに張り切ってるんだろう。


未だ隣にいる竜司の方を見ると──


「国継。こいつら伸(の)してもいいけど……いっぺん生徒会長に会うか。俺も行く。お前、妙に人がいいからな」


溜め息と共にそう言った。


竜司も付き合ってくれるらしい。

面倒かけてスイマセン。



生徒会室に行くと、会長と事故から助けた三好さんが待ち構えており──

冒頭の追求に戻るのだった。


ちなみに風紀委員の人は途中で連れて行かれた。

本格的に狂った学校じゃなくて良かった。



「最初に申し上げた通り、咄嗟の事故から助けようと手を引こうとしただけです」


「……残念ながら、証拠もありますよ」


「証拠?」


「通行人が撮った写真が上がってますので」


ああ、あの時撮られてた写真か。


「確かに勢い余って倒れちゃいましたけど……。あの、一方的に言うのではなく、こちらの話も聞いてくれません?」


「先ほども言った通り、観念して認めたら聞きますよ。全校生徒の前で謝罪した後でですけど」


それ、話し聞いてませんよね。

そこで、今まで黙っていた竜司が口を出してきた。


「国継。こいつには何を言っても無駄だな。こんな魔女裁判、意味ねぇよ。出直して第三者を交えようぜ。……会長、無関係の人間が出しゃばるのも疑問なんだが、そもそもアンタ何様のつもりだ? たかだか一生徒にそこまでやる権利なんかある訳がないだろ」


ごもっともだ。


「関係はあります。みさきは私の親友ですので。引っ込み思案のみさきは泣き寝入りするでしょうから、代わりに言ってあげてるだけです」


「……正義ヅラする偽善者だな。こっちは逃げようってんじゃない。公平に進めようって言ってんだ。お宅らが一方的に決めつけても話にならんから、担任でも顧問でも交えてって言ってるだろ? それと三好さんもだ。他人を頼るのに文句はないが、これが冤罪(えんざい)だったら責任取ってくれるんだろうな?」


「わ、私はそんなつもりじゃ……」


「戦うか引くか覚悟くらいはしてくれよ。そっちも怖い思いをしたのかもしれんが、こっちも一人の人生が懸かってんだからな? そこは重々承知しろ」


「待ちなさい。みさきを脅しても無駄ですよ。それに、正義はともかく偽善者は取り消しなさい」


ああもう。

竜司も悪気がないわりに口が悪いからなあ。

泥沼ですよ。

とりあえず着地点どうしよう……。


「ええと、とりあえず仕切り直しませんか? 休み時間も終わる事ですし……」


「待ちなさい。逃げようと──」


「するわけじゃないですよ。ほら、もうチャイムも鳴りますし。まさか授業をサボれと?」


「くっ、それなら放課後ここに必ず来なさい」


「分かりました。それじゃあ失礼しますね」


それだけ言って竜司と退室した。



教室に戻る最中──


「なあ国継。今回ってどうせ未来を観た結果だろ? 三好だけか? 都合良く会長の分も観たりしてないか?」


「……確かに観ちゃったけど。君、そういう嗅覚鋭すぎない?」


その言葉を聞いて、竜司は悪い笑みを浮かべるのだった。


 ◯


そして放課後。


「いい加減認めて貰いましょうか。私もそんなに暇ではないので、手間を取らせないで下さい」


引き続き追求するようだった。

会長はどうしても僕という悪を断罪したいらしい。


「忙しいなら無理して出てくんなよ。それより、こっちの話を聞いておいた方がいいぞ? 痴漢だとか言ってる余裕もすぐ無くなるさ」


「昼の時もそうですが、貴方こそ何ですか? 無関係というなら貴方こそそうでしょう?」


「俺はコイツと家同士の付き合いがあるんでね。コイツ、人が良いからこの不毛な話し合いにも真面目に向き合いそうだし……。そもそも、会長が言えた話じゃないだろ?」


「……目上への口の利き方に気をつけなさい。なら聞きましょう。聞いて置いた方がいい話とはなんですか」


「あまりに尊敬できない人に払う敬意はないんで。話ってのは当事者のコイツに関する事だ」


「貴方こそ社会不適合者じゃないですか。コイツって、近衛君の?」


「そう。コイツ──国継は神社の生まれでな。環境か血筋か、異常に勘が良いんだ。超能力じみてると言ってもいい」


「……それで事故から助けたと? 与太話ですね。そうやって煙に巻くつもりなんでしょう」


「よし、じゃあ実証しようか。国継、この二人に内容を言ってやれ」


ここでキラーパスですか!?


「いいけど……。もう僕、具体的な事は言わないよ? ……そうだね、三好さんは引き続き事故に注意。次は死ぬことはないから。重傷は負うかもしれないけど、命がなくなるよりはいいよね。で、会長は……頭上と段差に注意かな。三好さんは明日、会長は明後日以降だね」


ずっと黙っていた三好さんはビクッとした。

会長は怒りからだろうか、顔を真っ赤にして震えていた。


「やっぱり、そうやって適当な事で誤魔化そうと──」


そう会長が詰め寄ってこようとしたところで先生がやってきた。

ここに来る前、竜司が話をつけに行った生徒会顧問の先生だ。

なんか言いくるめてる感じだったけど、段取り良すぎるよ……。


「二階堂。昼の放送、生徒会の用事ではなく私的に使われたと聞いたんだが──本当のようだな。職権乱用するなら然るべき処置をとるぞ。プライベートならここ以外でやれ。話はまた手空(てす)きの時に改めて聞くから今日は解散しろ」


「先生! 近衛君がみさきに痴漢をしたので私はそれを認めさせようと──」


しかし、忙しい中ワザワザ来てくれたらしく、先生はそれだけ伝え終わると早々に戻っていった。


「先生もそう仰ったんで俺らは帰るから。国継、行こう」


「あッ! 待ちなさい!」


しかし、会長の声は無視して竜司は僕を引っ張っていった。


 ◯


次の日。


前日の登校で懲りたので、少し時間をずらして教室に入ると──騒然とした雰囲気になっていた。


「ヨォ、国継。三好、事故ったんだってよ」


「そっか、揺り戻しが。死んではないよね?」


「おう、そこは安心しろ。入院はしてるらしいが、命に別状はないんだとよ」


「……もし信じてくれたら安全圏まで忠告したんだけどね」


「それは言ってもセンの無い話だろ。お前の言うとおり、命があるだけ儲けものだ。さて、後は会長だな」


この人も身内以外の不幸にはわりとドライだからなぁ……。

まあ竜司の家系ってそういう人が多いみたいだけど。


「間違いなく呼ばれるよね」


「むしろ呼ばれないハズがない」



そして、その言葉通り僕は生徒会室に再び呼ばれたのだった。

昨日、先生が職権乱用するなって言ってたのに直す気ないですよね。


「……みさきが重傷を負いました。貴方たち、まさか故意に事故を」


どうしても僕を悪者にしたいらしい。


「そんなはずないでしょう。大体、僕は今日登校の時間をずらしてるんですよ。事故の話も教室に着いてから聞いたくらいですし」


僕はあらかじめ用意しておいた言い訳を言った。

同じ時間帯に登校しなくて本当に良かった。


「だから人の話を聞けっつってんだろ。まあ聞かなくても信じなくても次はアンタの番だ」


「今度は私を脅す気ですか?」


「いや、信じなくていいって。俺らも近寄らないし。というか、頼まれても関わりたくない。それよりも今日は痴漢の追及どころじゃないだろ。お宅の親友が入院したのに、見舞いにも行かなくていいのか? 冷たいヤツだな」


「──!! 絶対に認めさせて謝らせますからね!!」


竜司の言葉に憤慨して、会長は三好さんのお見舞いに行った。


 ◯


それから翌々日。


昨日は呼ばれなかったが、今日はそういう訳にも行かないらしい。

竜司と生徒会室に入ると──

腕にギプスを付けている会長がいた。


「……先日の話、詳しく聞かせなさい」


「なんで? 信じてないんだろ? 聞かせろって事は事故から庇った事を認める、つまりは痴漢してないって認めると?」


会長の偉そうな物言いに対し、竜司は冷たく斬り捨てる。


「それは取り下げません。みさきは傷ついているんです。話を聞けってしつこいから聞いてあげようって事ですよ」


「そっちは聞かなくていいよ。俺が聞けって言ってるのは冤罪の経緯についてだ。そもそもそんな都合の良い話が通るわけないだろ。疑いを取り下げた上で謝罪して話を聞くか、自分の意思を押し通して痛い目に遭うか。どっちかハッキリしろ」


「~~! この! 人が下手に出れば調子にのって……!」


もはや僕と三好さんの話し合いじゃなくて、竜司と会長の鍔迫り合いになってるよ……。


というか会長、どの辺が下手に出てるんですかね……。

もしかして生まれ持ってのノーブル階級なのかなあ。


「あー……申し訳ないけど、謝ってもらっても僕はもう絶対に話さないし、二度と助けないよ?」


「なッ!? 近衛君まで!?」


「いや、僕がいつ会長の味方に……。誤解覚悟で最初は庇いましたけど、痴漢扱いされてまで助ける訳がないですよ」


最初すら決まりを無視した横紙破りなわけですし。


「近衛君!! 貴方、人の心というものがないのですか! 困っている人がいたら助ける、常識でしょう!?」


もう論点どこなんでしょうね。


「近しい人なら無条件で助けますけど……そうやって自分の身を犠牲にして他人を助け続けていたらキリがないですよ。会長は知らない他人の為に自分の命を投げ捨てられます?」


「それはッ……! いえ、私と貴方は知らない仲じゃないでしょう!」


「知らないも同然どころかそれ以下ですって。大体、彼が喋ってくれるから黙ってはいましたけど、さっきも言った通り痴漢扱いされて面白いはずがないです。なんで恩を仇で返す人達に尽くさなきゃいけないんですか?」


「……分かりました。そこまで言うなら痴漢の件は取り下げてあげてもいいです。なんなら、少しの間だけ貴方と交際してもいいですよ」


え、交際って。

宇宙人と会話してる気分になってきた。

そこに至る思考が意味不明すぎるんですけど……。

それに、取り下げるとか三好さんを無視して会長の一存で決められるの?


「あの、どこから交際なんて話に?」


「だって、痴漢をするくらい異性に餓えてるって事ですよね。仕方がないですから、私が一時的にその欲求を満たしてあげようと言ってるのです」


……頭がおかしくなりそう。

痴漢の件も言葉だけで結局取り下げてないし。

どれだけワガママなんだ。

どう返そうか考えていると、再び竜司が口を開いた。


「あのな、国継にそういう話は無駄だぞ……」


「無駄なはずがないでしょう。それとも、何か理由があるとでも?」


「いやだって……コイツ、仲の良い許嫁がいるし……」


「ハァ!?」


あ、それ言っちゃうんだ。


「その話、本当ですよ。一学年下ですが、同じ学校ですし。痴漢も交際も彼女に申し訳ないといいますか……。ということで、そういうのは間に合ってます」


「でも貴方、運命を変えられるほどの力があるのかも知れないのでしょう!? その勘の良さを使って人助けをしたいとは思わないのですか!?」


食い下がるなあ。

というか、これ何の話し合いでしたっけ。

もう【未来視】の話、信じてるのかな。


「いえ全く……。そもそも僕には持論がありまして」


「持論ですか……?」


「はい。身内こそ助けてはいますけど、本来こんなのは人の手に余るモノです。カミ様じゃあるまいし、人の運命を自由にしようなんて本当は傲慢な考えと思うわけです。なので、思い上がっちゃわないように普段は自分自身で戒めています。最初の三好さんの件も、命に関わらなかったら助けませんでしたよ」


身内を助ける時も少し後ろめたさがあるくらいですし。


「…………」


もはや言葉が尽きたのか、それだけ聞くと会長はガックリとうなだれた。


 ◯


その帰り道。


「ねえドラゴン。いつもの君なら三好さんには手心を加えそうなのに、珍しいね?」


「だからドラゴン言うなって。三好か……アイツ、大人しそうだけど相当悪いぞ」


「ええッ! なんで!?」


「会長の陰に隠れてる時な、俯いてるようで口の端が笑ってた。金輪際アイツには関わらない方がいい」


「怖ッ! 地雷原には飛び込まないに限るね……。でも、僕も説明下手だし、今回は助かったよ」


「いや、お前のは説明下手じゃなくて大体が説明不足だろ……。しかも天然だし。そうだ、あの会長の手下っぽい男どもはどうするかな」


「手下? ああ、生徒会室に連行した人たち?」


「まあ……今回は仕返ししなくていいか。次に絡んで来たらでいいや」


「君が本気でやり返すと祟りレベルでシャレにならないんだから、ちょっと自重してね……」


元々、彼の家系って神憑(かみがか)り関係というか、憑きモノの家柄だし。


そういえば、三好さんはともかく……都合よく会長にも不幸が降りかかってたけど、まさか君、祟ってないよね?



その後、泣いて縋りに来た会長達に対して衆人環視の前でキッチリと謝罪させ、僕の痴漢容疑を完全に晴らした竜司だった。


……父さんにも常々言い含められているけど、僕に新しい家族が出来たら彼の縁者は絶対怒らせないように注意しよう。

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【未来視】で人助けをしました。当然の如く痴漢の冤罪をかけられました。もう助けません。 鳳仙花 @syamonrs

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