第139話「クヌート工房」
紹介されたのは都内に拠点をかまえているドワーフの店だった。
原作でも主人公が利用していた『クヌート工房』か。
立ち位置的にカレンが紹介してくるのは想定の範囲内だった。
「錬成か。カレンちゃんが男連れなのは珍しいな」
と対応した女性ドワーフが珍獣を見るような目で俺を見る。
原作でも主人公は最初似たような反応をされるからこれも予想通り。
ジーナがイラっとした表情をしたが、0.1秒くらいだったのでカレンも気づかなかったようだ。
「戻り石を作ってもらいたいんです。必要と思われる素材は持ってきました」
相手は年長者ということで敬語を使い話しかける。
「へえ、戻り石ね。あんたくらいの年で必要なのかい」
女性ドワーフはちょっと驚いたものの、できないとは言わなかった。
「まあ素材が揃っていて、報酬をちゃんと払えるなら引き受けるよ。素材を見せてくれるかい?」
女性ドワーフに言われたので素材を提出する。
「ふん。これなら手間賃だけでいいよ」
と言って金額が提示された。
「それなら充分支払えますね」
と言ってカレンが出してくれる。
……流れるような展開だったから待ったをかけ損ねた。
あとで支払金額について相談するとしよう。
「じゃあすこしの間待っててくれるかい? たぶんそんなに待たせないからね」
「お願いします、アマンダさん」
とカレンが言うと女性ドワーフのアマンダさんはうなずいて店内に引っ込む。
「素材を用意できた分だけ料金を抑えられましたね」
とカレンは微笑みながら言った。
「さっきの支払い金額についてなんだが、こっちも払ったほうがいいと思うんだが」
俺の言葉に彼女は笑みを消して首を横に振る。
「嘆きの砂以外はほとんどあなたたちが自力で手に入れたものです。我々五人で使うものなのに、こちらが負担しないのは筋がとおらないでしょう」
「……正論だな」
カレンの言い分に納得した。
たぶんそうだろうと思ったが、たしかめておいたほうがいいことだったからな。
「こちらが製作費を負担することで、折半まではいかずともかなり近づけたと思います」
「そうだな」
ひとまずうなずく。
数字ならともかく感覚が入ってくるとなると、正確を期すのは難しい。
大事なのはお互いが納得することだろう。
「このあとあなたたちはどうなさいますか?」
とカレンが聞く。
探ってる様子はないし、彼女はそういう性格でもない。
単純な世間話のつもりだろう。
「すこし寄りたいところがある。帰宅するのはそのあとだな」
「場所によってはわたしが案内できますが?」
俺の返事を聞いたカレンは申し出る。
厚意もあるだろうし、俺たちに対する借りを減らしたいという計算もあるだろう。
「いや、大丈夫だ。何かあれば頼らせてもらうよ」
だが、ここで受ける理由が俺にはない。
「わかりました。ではわたしは失礼します」
カレンは綺麗にお辞儀をして立ち去った。
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