第137話「ラサ遺跡⑧」

「ティア様、サラ様、わたしが片方、残りをラスター殿とジーナ殿と分担するのが一番堅実です」


 カレンの判断は早かった。


 他に堅実な選択はないってこともあるだろう。


 だが、「せっかくだから経験を積もう」なんて言い出さなかった点をまずは評価したい。

 

「ジーナ殿、前と右とどちらが敵の数が多いですか?」


 とカレンがたずねる。


「前からですね」


 ジーナが即答すると、


「では前をラスター殿とジーナ殿にお願いしましょう。あなたたちのほうが現状戦力としては上ですから」


 とカレンは話す。

 

「わかった」


 ジーナは答えずこっちに目を向けて指示をあおいで来たので、俺が返事する。


 効率的には俺たちは別れたほうがいいのだろうが、純粋にドロップ率を高めるためには固まったほうがいい。


「さっさと片づけたあと、もたついているようなら援護しよう」


「お願いちゃおうかな」


 俺はいやみのフリをしたエールを送ったつもりだったのだが、ティアがどこかうれしそうに応じたので空振りに終わる。


 サラとカレンがちょっと困った顔をして彼女を見たのは、ふたりには通じていたからだろう。


 ティアが天然という情報はなかったように思うんだが……考察は今度にするか。


「さくっと終わらせるぞ」


「はい」


 俺の呼びかけにジーナは小さくうなずく。


「敵の種類は?」


「ゴーストが2にスケルトンです」


 彼女の答えに俺はチャンスだと思う。

 嘆きの砂を落としやすいのはゴースト、その次がスケルトンなのだ。


 狙ったわけじゃないのだが、たまには運にあやかるのもいいだろう。

 すべてが計算どおりにいくほど、世界は単純じゃないはずだ。


「ジーナはスケルトンから頼む」


「はい」


 俺が近寄られたくないのはスケルトンのほうだからだ。

 一番右のスケルトンをジーナが襲い、


「サンダー」


 残り二体のゴーストは俺が魔法攻撃を浴びせる。


 ゴーストは遠距離で魔法、近距離で「アンデッドタッチ」を使ってくるすこし厄介なモンスターだ。


 ただし、攻撃の射程はすべて「サンダー」よりも短い。


 つまりサンダーが届くギリギリくらいの距離をキープしていれば、怖くない存在なのだ。


 何事もなく倒すと、ふたつのドロップを残す。

 ひとつは赤い砂が入ったビンで、もうひとつは紫色の表紙の本だ。


「あるじ様、ふたつもドロップしました」


 ジーナが回収して見せてくれる。

 これはラッキー。


 片方は「呪いの呪文書」で、もうひとつが「嘆きの砂」じゃないか。

 呪いの呪文書は俺も使えるし、嘆きの砂よりもドロップ率が低いレアアイテムだ。


 嘆きの砂をとって余裕があれば狙おうかと思っていたので、幸先がいい。

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