第73話「二つの図書館」
学園中等部に編入する当日がやってきた。
指定の制服に俺とジーナは着替え家を出る。
「お似合いです、あるじ様」
「ありがとう」
ジーナは絶対褒めてくれるだろうが、ここは喜んでおこう。
どんな展開が待っているか読み切れないんだ。
せめて気分をあげてから挑みたい。
情報収集を任せたギルバートは、いくつかの情報を持ってきた。
学園生にとって最も使いやすい施設はやはり、学園の図書館。
それについで王都にあるクライスター図書館だ。
ギルバートが持ってきた情報は俺の記憶と一致する。
あまり露骨に疑わないほうがいいのかな。
これだけで信頼するには安直すぎるが。
学園の図書館は学生なら誰でも使える施設で、俺にとっては一番ありがたい。
ただ、安息日、元の世界で言う日曜日は閉館で使えないという欠点がある。
一方でクライスター図書館はクライスター伯爵が設立した私立図書館だが、外国人や平民にとって利用しやすい施設で、しかも安息日も開く。
安息日に勉強をしたいという向上心を持つ者のために、と理念を掲げているはずだ。
なぜならクライスター伯爵は学問や芸術の保護者という立ち位置で、得がたい才能を発見して育てるというポリシーがある。
正確には図書館の設立者が掲げた者だが、だいだい受け継がれる。
原作の当代伯爵もそうだったから、この世界の伯爵もそうだろう。
そしてそういった考えが浸透しているからか、伯爵一族はだいたい平民にかなり寛大だった。
王国は帝国と比べて開明的とは言え、平民と貴族が対等だと思っている貴族はあまり多くない。
たとえ芸術や学問方面だとしても、平民の才能に期待して門戸を開いているのがクライスター伯爵家だった。
今は余談だが主人公の親友がクライスター伯爵家の息子だったりする。
王家とは言えあまり立場のよくない主人公にも分け隔てなく接し、一緒に勉学にはげんだという設定だ。
シナリオでは主人公を支える側近であり、主人公が新しい国王になると宰相になって死ぬまで彼と運命を共にする。
……今のうちにクライスター伯爵一族に何かあれば、主人公は強力で信頼できる味方を失うとも言えるか。
もちろん現在の俺にそんな力があるはずもない。
クライスター家は貴族からも平民からも信頼と尊敬を集めていて、多少いるアンチくらいではびくともしないのだ。
うかつにちょっかいを出したところで、巨象に踏みつぶされるアリと同じ運命をたどるだけだろう。
むしろ帝国の皇子でもクライスター伯爵家の評判を慕ってきた、という展開に持っていくほうがよい。
クライスター伯爵家も、それを慕う者たちにとって受け入れやすいだろうから。
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