インタールード④
幕間 次なるシナリオ
そこは薄暗い部屋だった。
所狭しと機材が並び、天井や床には何本ものパイプが張り巡らされている。そんな部屋の隅、設置されたディスプレイからぼんやりと明かりが漏れる。
ディスプレイの前には一人の男が座っていた。ボサボサの黒髪にヨレヨレの白衣、ヒョロッとした身体つきの猫背の男だ。そう、彼こそこの世界に勇者候補として異世界人を送り込んだ張本人、“神”を名乗る男である。彼は先程から何事かを考え込んではキーボードへ指を走らせることを繰り返している。
「ふー。こんなものですか」
暫くすると男はキーボードから顔を上げて呟いた。視線はディスプレイへ向けられている。
「それにしても死んだ勇者候補がまだ2人だけとは皆さん思ったよりも慎重ですね……」
他に誰がいる訳でもないが男はこれみよがしにわざとらしく溜息を吐いた。この場にノブヒトがいれば「わざとらしい」とツッコミを入れたであろう、そんなどこか芝居掛かった仕草である。
「ユキちゃんがああなのは仕方ないとしてもニシダくんがまだ生き残っているのは予想外ですねぇ」
男は呟くのだが、内容とは裏腹に口調からは興味を持っているようには感じられない。
「ナンリくんは残念だったねぇ。まあしょうがないけど」
言いながら男は何が楽しいのかクスクスと笑い声を上げる。
「うーん、帝国は戦争中っと。相変わらず
さして気にしてないような口ぶりをしているが男の顔は僅かだが不快げに歪んでいる。
「はぁぁぁ、それにしてもいざ全てを一人でこなすとなると面倒ですねぇ。自分のせいとはいえこれはさすがに過去の自分を殴りたくなってきます」
男は「やれやれ」とでも言うように頭を左右に振る。その行動がいちいち芝居掛かっているため余計に胡散臭さを感じさせるのだがその事実に男は気付いていない。
彼が言うように本来他の神々と分担して行っているはずの世界の維持は
「まあ愚痴を言っていても始まりませんね。彼の調整も最終段階ですし」
そう言って彼は椅子を回転させた。その視線の先にはいくつもの大きな試験管――いや、培養槽と言ったほうが正しいだろうか――が並んでいる。
そのうちの一つ、たっぷりと液体が注がれた容器の中に中学生くらい少年がたゆたっている。頭まで液体に浸かり黒髪が揺れている。瞳は閉じられており眠っているようだ。
「進捗は……75%ですか。まもなくですね」
ディスプレイに照らされた男の酷薄な笑みが薄暗い部屋に浮かび上がる。
「彼が目覚めれば……待っていてください、××××」
そう呟いた男の顔がそれまでにない真剣なものだったことを知る者はどこにもいなかった。
勇者ゲーム ~13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う~ 玄野 黒桜 @kurono_crow
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