第67話 昇格と指名依頼
カトリナさんの工房を後にした俺たちは
昼時ということもあってギルドは閑散としていた。
「あの、昨日の買取報酬の受け取りに来たんですけど? 」
ちょうど昨日対応してくれたおばさんが受付にいたので声を掛けた。
「ああ! ニシダさんにスギミヤさん。お待ちしていました。こちらへ」
おばさんは俺たちが話し掛けると待ってましたとばかりに奥の部屋へと案内した。
「この部屋で少々お待ちください」
通されたのは椅子とテーブルだけが置かれた簡素な部屋だった。恐らくは打ち合わせなどの際に使用されるのだろう。
「とりあえず座ろう」
俺がどうしようかと思っているとスギミヤさんはさっさと席に座ってしまった。俺もその隣の席に腰を下ろす。
「こんな部屋に通されて何の話なんですかね? 」
「さあな。慌てなくても待ってればそのうち説明してくれるだろう」
なんとなく不安に感じている俺に対してスギミヤさんは落ち着いた様子で答えると目を瞑ってしまった。
―コンコン―
暫く待っていると入り口がノックされ、入ってきたのは副ギルド長のカレヴァさんだった。
「ああ、そのままでいいですよ。お待たせして申し訳ありませんね。いろいろ立て込んでしまっていましてね」
カレヴァ副ギルド長は立ち上がろうとした俺たちを制すと、自分も俺たちの正面の席に腰を下ろした。
「わざわざこんな部屋にお呼び立てして申し訳ありません。まずは先に買取の清算をしてしまいましょう」
そう言うと副ギルド長は持ってきた書類は俺たちの前に出した。
「拝見する――なっ!? 」
正面に座っていたスギミヤさんが受け取って書類を確認したが、突然目を見開いて声を上げた。
「どうしました? 」
俺が首を傾げると、「見てみろ」と言って俺に書類を差し出してきた。俺は不思議に思いながら書類に視線を落とす。
「えっ!? 」
そこには『買取証明書:
「あの、これは貰い過ぎではないでしょうか? あの
あれだけの大物である。本来であれば毛皮の用途は多いはずだが、俺たちは倒すためにかなり傷を付けてしまった。商品価値はかなり下がってしまうはずなのだ。
「いえいえ、適正価格だと思いますよ? あれだけの大物ですから。まあ多少色は付けてますが」
「その色と言うのは? 」
副ギルド長の言葉にスギミヤさんが説明を求める。
「色と言う言い方は良くなかったですね。半分はあれだけの大物が森から出る前に討伐してもらったお礼です。森から出ていればかなりの被害や損害になったでしょうから。あとの半分は迷惑料みたいなものです。本来であればあんな森の浅いところに出るはずのないクリーチャーです。完全にこちらの調査不足でした」
そう言うと副ギルド長は「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。
「そんな! 頭を上げてください!
頭を下げる副ギルド長に俺は慌てて言った。俺の言葉に副ギルド長は「ありがとうございます」と言って頭を上げる。
「では、こちらが報酬になります。ご確認ください」
頭を上げた副ギルド長は持っていた皮袋を俺たちの前へ差し出した。
「……」
それを受け取ったスギミヤさんは無言で中身を確認するとそのまま俺へ袋を渡してきた。
「確かに受け取りました」
俺は中身を確認してそう告げる。
「それではこの2枚の書類にサインをお願いします」
俺たちは言われたとおりに2枚の書類にサインをして副ギルド長へ渡した。彼は書類を受け取ると中身を軽く確認すると、2枚の書類を少しずらして重ねると、重なった部分に割印を押して「控えです」と言って1枚を俺たちに俺たちに渡してきた。
「それで? 俺たちをここに呼んだのはこれを渡すためだけじゃないんだろ? 」
受け取った書類を俺に渡しながらスギミヤさんが副ギルド長へ質問した。
「これだけの大金ですのでそれだけでも十分に別室に呼ぶ理由にはなるんですけど」
「そうだとしてもそれだけなら副ギルド長がわざわざ話に来る必要はないんじゃないか? 」
「まあそうですね。では、次の話に移りましょう。まずはこれを受け取ってください」
言って副ギルド長は持ってきた袋の中から緑色の小さな板を取り出すと俺たちの前に置いた。
「これは? 」
「エメラルドのギルドプレートです」
「「なっ!? 」」
副ギルド長の言葉に今度は2人同時に驚きの声を上げる。
「どういうことですか? 俺たちはまだ昇格試験を受けてませんよ? 」
「確かに試験は受けてませんが元々資格はあるんです。そこにあれだけの大物を討伐したとなれば当然の評価だと思いますよ? 」
驚いて聞いた俺の質問に副ギルド長は答えた。
「他の冒険者から問題視されないのか? 」
「まあ無いとは言いませんが逆にあれだけの獲物を討伐した冒険者を評価しないというのもギルドとしてどうなんだ、という声も上がりますからね」
副ギルド長はスギミヤさんからの質問にそう答えると、「パールのギルドプレートは返却してください」と言って手を出した。俺たちは顔を見合わせが、おずおずとパールのギルドプレートを返却してエメラルドのプレートを受け取った。
「おめでとうございます。これであなたたちは今日からエメラルド級の冒険者です」
多少釈然としないものはあるが評価されたこと自体は嬉しく思う。これで全ての用件が終わったと思ったが、ここで副ギルド長は「ここからが本題なのですが」と言って続けて話し始めた。
「早速エメラルド級の冒険者になったあなた方に指名依頼です」
どうやらことは俺たちが昇格したから「めでたしめでたし」とは成らないらしい。
「どういうことだ? 」
スギミヤさんも訝しげな表情で副ギルド長に質問する。
「順を追って説明します。まず今回の件でハルヴォニの森に入ることに制限を掛けることになりました。今後
「それだと森からクリーチャーがどんどん溢れてくるんじゃないですか? 」
「はい。そこで森の外の依頼はパール級までが受注し、森の中のクリーチャーの間引きは、ギルドが緊急依頼という形でエメラルド級以上の冒険者に指名依頼を出すことになりました」
「つまり俺たちにもその指名依頼を受ける義務が発生すると? 」
「その通りです。とは言えあなた方にお願いしたいのはまた別のことです」
「別? 」
「はい。いえ、全く関係訳ではないんですが――あなた方にはこちらが指名するパーティーと一緒に森の調査に加わって欲しいのです」
「森の調査? 確か元々の昇格テストがそんな内容だったと記憶しているが……」
「ええ。本来はそうしてもらう予定だったのですが、今回の件で立ち入り制限をかけることになってしまったので昇格テストが行えなくなってしまいます。ただ、幸いなことに今回の件はあなた方の実力を証明することにもなりましたので、無事昇格手続きを取ることが出来た、という訳です」
つまり「昇格させるんだから義務は果たせ」ということらしい。なんだか貧乏くじを引かされた気もしないではないが、ギルドプレートを受け取ってしまった以上は仕方ない。
「それはいいが俺たちは今装備を修理に出している。すぐにと言われても無理だぞ? 」
「それは承知しています。修理は入る頃終わる予定ですか? 」
副ギルド長の質問にスギミヤさんが「3日後」と答えると、副ギルド長から「では4日後からお願いします」と言われてしまった。断る訳にもいかないため、こうして俺たちは4日後に森の調査に加わることになった。
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