第30話 暗闇の中 side エリーゼ

 今日バルビエーリっていう街に着きました。人がいっぱいいてびっくりです!


 前の街では怖い人が沢山いたんですけど、この街はそんなことないから少しだけ見て回れるってノブヒトさんが言ってました。ワガママは言えませんがエーシアの街みたいに自由に外が見えるのが本当は凄く嬉しいです♪


 宿に荷物を置いてノブヒトさんとレイジさんと3人でお出掛けします。


 先に足りない物を買い出ししてからご飯を食べに行くんですって! どんな物が食べられるのか今から楽しみ過ぎます!


 市場にはたくさん人がいます。エーシアでもたくさんの人を見ましたがここはもっとざわざわしています。私がいた村とは全然違います! 村のお祭りでもこんなにたくさん人はいませんでした。


 ノブヒトさんが変わった食べ物? を見ています。固そうな白い塊でちょっと臭いです。本当に食べ物なんでしょうか?


 あっ! あっちのお店にはたくさんアクセサリーが置いてあります! ノブヒトさんとレイジさんは別のお店を見てるので少しなら見てもいいでしょうか?


 キラキラしたいろんな色の石が付いている物や細かい細工がしてある物がたくさんあります!


 私が眺めているとお店のおじさんがあっちにもっと置いてあるから見に行かないかと誘ってくれました。


 ノブヒトさんやレイジさんに相談しようと思ったら、「すぐそこだから」と急かされます。ちょっとくらい……大丈夫ですよね?


 少し歩くとおじさんが路地に入っていきます。うーん、知らない街の路地に入るのは抵抗があります。2人から姿が見えなくなってしまうと心配させてしまうかもしれません。おじさんにお断りをしようと思ったら手を掴まれて引っ張られてしまいました。ちょっと強引過ぎませんか?


 手を振りほどこうとしたら後ろから口に何かを押し当てられました!

 えっ!? 何だか眠くなってきました……




「ねぇっ! ねぇっ! ちょっとあなた! ねぇっ! 」


 うーん、遠くで知らない女の子の声がします。もう少しだけ寝かせてください。


「ねぇっ! ちょっと起きてよぉ~」


 ん? 何故だか女の子が泣きそうです。私は仕方なくゆっくりと目を開けます。なんだか薄暗いです。まだ夜が明けていないのでしょうか? というかここは何処なのでしょうか?


 私は眠る前のことを思い出します。


 確か市場に3人で買い出しに行って、露天を見ていたはずです。そのあとおじさんに誘われて路地に引き込まれて……その後どうなったのでしょう? 何かで口を塞がれたと思ったら眠たくなってきて……


 はっ! これはもしや私は攫われてしまったのでしょうか?


 私は辺りを見回そうとしますが体が横になっている様でよく見えません。体を起こそうとしますが手が縛られているみたいで上手く動かせません。


 まずは状況を確認しようと耳を澄ませます。


 すると人の息遣いとすすり泣くような声が聞こえてきます。きっと私のほかにも攫われた人がいるんですね。


 私たちは何処かに囚われていてこれから売られてしまうのかもしれません。

 もしかするともうバルビエーリの街にはいないのかも……

 もうレイジさんやノブヒトさんには会えないのかもしれません……

 そう思うと私も泣きそうになってきました。


「ねぇってばぁ、起きてよォ……」


 頭の上から半分泣いている女の子の声が聞こえてきました。そういえば先程はこの人の声で起こされたんですね。


 私は何とか体を動かして上を見ます。暗くてよく分かりませんが同い歳くらいの泣き顔の女の子が私を覗き込んでいました。


「うっ、良かったよぉ……」


 私と目が合うと安心したのかポロポロと涙をこぼし始めます。

 えーと、どうしたらいいんでしょ? 何か声を掛ければいいんでしょうか?

 同い歳くらいの、しかも女の子と話すのなんて久しぶり過ぎて……ましてや泣いている女の子になんてどう対応していいのか分かりません。こんなとき【】ならうまく慰めたり出来るんでしょうけど私には無理です。


 しばらく「ぐすんぐすん」と嗚咽を洩らしていた女の子ですが漸く落ち着いたみたいです。彼女も手を縛られている様なので涙は拭えないのか顔には涙の筋が出来てます。


「あ、あの、ごめんなさい。漸く話が出来る人が出来たら安心してしまって……」


 彼女が少し恥ずかしそうに言います。よく見ると少し乱れていますが髪は綺麗に梳かれいるし、着ている服の生地も高級品のように見えます。どこかのお嬢様なのでしょうか?


 私が観察している間も彼女は話し掛けてきます。


「私はレティシアっていうの。あなたは? 」


「レティシアさんですね。私はエリーゼといいます」


 とりあえず名乗り返します。


「エリーゼね。私のことはレティって呼んで! 」


 少し明るい声が返ってきました。


「レティさんですね。私のことはエリーと呼んでください」


 私も愛称を伝えます。


「分かったわ。それであなたも今日攫われたのよね? 」


 彼女、レティさんが聞いてきます。


「今がどのくらい経ったのか分かりませんが、先程起きたときに攫われたことに気付きました」


 今は一体いつなのでしょうか?

 私はどのくらい眠っていたのでしょう?


「あなたは私と一緒に連れてこられたから、まだそんなに時間は経っていないわ」


 レティさんが教えてくれます。彼女は眠らされなかったのでしょうか?


「えっと、レティさんは起きたまま連れてこられたんですか? 」


 とりあえず聞いてみます。


「私も眠らされたんだけど運ばれてる途中で目が覚めたの」


 そういうことのようです。では、ここが何処なのか、せめてバルビエーリの中なのか外なのかは分かるでしょうか? 聞いてみましょう。


「レティさんはここがバルビエーリの中か外か分かりますか? 」


「中よ。今は連邦から逃げてきた人がたくさんいるから街を出る時のチェックが厳しくなってるってお父様が言っていたわ。だから、こんなに人を連れて外に出ようとしたらすぐ捕まってしまうわよ」


 なるほど。でも、外に連れていかないと売れないはずですからいつかは連れ出そうとするはずですよね。そのときに逃げられるでしょうか?


「レティさんは誰か助けに来てくれそうですか? 」


 お嬢様っぽいレティさんなら家族が人を雇って探しているかもしれません。というかきっと護衛の人がいたはずなのになぜ捕まったのでしょうか?


「きっとお父様が探してくれているはずだけど……」


 レティさんは暗い顔になります。


「レティさんは何処かのお嬢様ですよね? なぜ捕まってしまったんですか? 」


 聞いてもいいものか分かりませんが聞いてみます。


「私はその……お付の者たちと街に出たんだけど自由に見て回りたかったから途中で撒いたの……」


 あー、護衛の人たちを撒いてしまったんですね……それはきっと助かっても怒られてしまいますね。


 さて、私も何とかしてここのことをレイジさんやノブヒトさんに知らせないといけないんですが何か方法はないでしょうか?



 私が悩んでいると外の方から足音が聞こえてきました。ガチャガチャと鍵を開ける音がすると扉が開きます。


 入っきたのは2人。どちらも男性の様ですが1人は後ろでに縛られているみたいです。薄暗いロウソクの光だけでは顔までは分かりません。


「とりあえずここに入ってろ! 」


 また誰かが攫われてきたんでしょうか? 縛られた男性をロウソクを持った後ろの人が部屋に蹴り入れます。


「ぐえっ!? 」


 蹴られた男性はカエルが潰れたような声を出して床に倒れました。扱いが酷いです。


「ケッ! 手間掛けさせやがって! 」


 蹴り入れた男性は吐き捨てると扉を閉めてまた外から鍵を掛けました。足音が遠ざかっていきます。


「痛ててて。ったくもうちょっと丁重に扱えよ……」


 蹴り入れられた男性がグチグチ言いながら体を起こします。この声はまさか……


「さてと、とりあえずエリーゼちゃんとレティシアって人はいますか? 」


 やっぱり蹴り入れられた人はノブヒトさんでした! 彼も捕まってしまったのでしょうか?

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