第4話 夏の日常

 必要なのは勇気である。


 さおりんに告白するかではなく。さおりんの誘いを断らない事である。改めて、さおりんに告白などしたらと、思うが今の関係が壊れるのは見えていた。さおりんに告白はあり得ないことである。そこで必要になるのが勇気である。


……。


「おい、そこ!何をブツブツ言っているのだ?」


 あぁ!


 今はさおりんに勉強を教えている最中であった。不機嫌そうなさおりんの前で無限ループの難題を考えていた。それは告白とその周辺事項である。えーと、世界史であったな。


「このオスマン帝国は要チェックだぞ。ここから現在の中東情勢も見えてくるから」


 何か適当な事を言った気がするが本題の世界史について考えを戻す。それからは単調な勉強が続いた。そして、そろそろ帰ろかと思うと……。


 町に一軒だけあるコンビニに向かう事にした。二人でアイスコーヒーを頼んでカウンターで飲み始める。


「えへへへ、恋人同士みたい」

「ま、そうだな」


 あれ?さっきまで無限ループの難題を考えていたのにあっさりと言うな……。わたしは首を傾げて不思議な気持ちでいると。


「風邪がうつるからキスは無しだよ」


 ニヤニヤと照れているさおりんは、どう見ても健康そうであった。


「えへへへ、えへへへ、えへへへ」


 この様子からして言ってみたかっただけらしい。大切な一ページになりそうである。


 高校が休みに入り、わたしは図書館にいる事が多くなった。さおりんは、この雰囲気が苦手らしい。


「やっは、東京だよ」


 東京か……T大は意外と上野に近いのは本当であろうか?携帯で調べると1.2キロとか。


 確かに近い。あーやはり、T大に未練があるな。


 そうそう、話を戻すとさおりんは静かな場所が苦手らしい。試しに、天体観測に誘ってみた。


「望遠鏡があるの?」

「イヤ、無い、アプリで星座の解説をみながら天体観測だ」


 しかし、便利な時代だ。上野からT大が近いのが分かったり星空関係のアプリも充実している。しおりんの様子は頭を抱えて考え込んでいる。やはり、女子が夜に出かけるのは抵抗があるのか。


 うん?


 しおりんは考え込んでいるのではなく寝ているぞ。


「ふがぁ~」


 ようやく起きたか。


「わたしは夜には寝るの、だから天体観測は無理」

 

 夜中に電話をかけてきたり、今も眠そうにしてただろが。あえて言いはしなかったが、自由なさおりんらしな。図書館から帰り道でさおりんは右手を上げて傾いた太陽に伸ばす。


「つかめそうだよ」


 さおりんの顔に夕日が当たり、その眼差しにくもりはなかった。わたしは何を生き急いでいたのであろう?


「えへへへ、可愛く見えた?」

「まあな」


 さおりんは少し離れて振り返り。笑顔でいる。


 消える事のない想いを胸にしめて、将来の事を考える。わたしは教師の道に進む事を考察していた。


 わたしはキッチンの椅子に座り読書をする。国語の課題で簡単な読書感想文をする為だ。


 700文字程度でいい簡単なものだ。この時期に書店に行くと子供向けの読書感想文推薦図書が置いてある。いっその事、そのコーナー買おうか迷うくらいだ。


 さて……。


 さおりんからヘルプのメッセージが届いている。読書感想文のお悩みだ。わたしはあらすじを300文字程度でいいから書けとアドバイスする。しかし、ヘルプのメッセージは続くのであった。読む本のアドバイスが欲しいらしい。本との出会いは一期一会である。書店に行き目の合った本にしてはと返す。最近は本屋も潰れて街の店まで行くのは一苦労である。


 うん?


 玄関をノックする音が聞こえる。さおりんである。仕方なく玄関に行き。本を渡す。読みかけだが面白い本であった。さおりんを家に上げて茶でも出そうかと思うと。


「じゃ!」と言って帰っていく。


 それからしばらくして、本の感触を聞くメッセージを送ると。


『あ、寝てた』


 わたしの本の推薦ミスか?


『ヒロインが天国に召されるお涙系だったよ』


 なるほど、あのヒロインは結局死ぬのか……。おい!ばらすな!まだ、読む途中の本だぞ。


 やはり推薦ミスだ。完読した本にするべきだった。


『それで、読書感想文は書けたのか?』

『寝てた』


 肝心の感想文が書いていないとな。きっと、さおりんは誉めて伸びるタイプだ。将来の夢が教師になったならここは手探りでいいから。さおりんに読書感想文を書かせよう。

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