第3話 ただ何かが起こるだけの話

 五月。

 俺、川崎佑は陽キャの人たちを席に座りながらぼーっと眺めていた。

 本来であればあそこに俺がいるはずだったんだけどな…。

 部活の先輩たちと遊ぶことが多くてクラスの人たちと全然遊べなかったし、もうクラスにはいろんなグループができちゃったから話しかけづらい。

 大学は頑張ろう。


 何分か経ってからチャイムが鳴る。

 そして、担任の先生(鎌倉先生)が教室に入ってくる。

 教室のどこからか「先生今日も美しいなーマジ女神」とか「あれで彼氏無しって…」って言う言葉が聞こえてきた。

 確かに美しいしマジ女神だなって思うけど…あれ普通に生徒殴るからな。

「おーい川崎!私のことをいやらしい目で見るなー!」

 突然先生は言った。

「え、…は?いやいやいや見てませんて…ってか第一そんな目で見るか!」

「…………お前後でちょっと来い…後横浜も」

「なんで僕も!?」

 クラスに笑いが起こった。

 


「なんですかー先生。お付き合いの申し込み以外は受け付けませんよ?」

「………(おどおどおどおど)」

 SHRが終わって教卓の前の先生のところに行く。

 次移動教室だから早く終わって欲しいんだけど。

「大事な話だ」

 俺は顎に手を当てて考える。

 大事な話……はっ!

「先生、彼氏できたんですか?」

「なんで川崎はいつもいつも彼氏とかの話になるんだ」

 先生はため息を吐く。

「健全な男子高校生だったら普通ですよ、ね?凛」

「……(おどおど)え?あ、うんそうだね」

「絶対凛、話聞いてなかっただろ?」 

「話を戻すが…二人とも、心して聞け!」

 なにその真剣な表情!?

 ってか凛もそんな真剣になるな!

 どうせ下らねえことなんだから

「わた」

「せんせー、わからないところがあるんですけどー」

 このモブ!

 口を開いた瞬間、横からモブが口を挟んできた。

「……二人とも話は放課後、部活で話す。……で、どこがわからないんだ見せてみろ」

 うお、先生が先生らしいことしてるー!

「了解っす」

「はい」

 俺らは自分たちの机に戻り次の授業の準備をした。

 なんだろう…。

 この…ネタしかない小説に似つかないシリアスな出来事が起きそう予感。

 なんとなくチラッと隣を見る。

 えっと………。

「凛?」

「どうしたの?」

 僕何か悪いことした?って言いたそうな目で俺を見るな!

「どうしてさ」

 凛が今机に置いている持ち物を紹介しよう!

 可愛らしい筆箱、化学基礎の教科書にノート、電子辞書、アイマスク、スマホ…。

 まぁスマホはわかる。俺も持っていくからね。

 でもさ…、

「アイマスク持ってくの?」

「当たり前じゃん」

 何がだよ。

「あんなつまらない化学なんて受ける時間あったら寝るほうがまし」

「だからってアイマスクいるか?」

「あっ!」

 今度は何に気づいたのかな。

「…シュラフのほうがよかった、よね?」

「お前バカだろ?」

 みんなが真面目に授業受けてる中でなに一人だけ実験室の床に寝袋広げてるんだよ。

「僕頭いいし!」

 腰に手を当てて偉そうに言う。

 そうだった。

 こいつ高校入試全教科100点だった。



 放課後。

 俺らはいつものように青春を謳歌する部の部室へ行き、凛は寝て、俺は本棚から適当に取り出した本を読んでいた。

 先輩たちはいつものようにギャルゲーやったりしていた。

 ……このラノベの題材は将棋なのか。

 ぺらぺらと本のページをめくる。

 いろんなものがあるんだな。

 この前までお母さんとゲームの世界を旅する話のラノベ読んでたから、なんか新しいって言うか…面白そう。


 10分後

 何このラノベ!?面白すぎでしょ!!

 本を読んでこんなに笑ったのは初めてだ。

「三浦先輩!」

「ん、どうした?」

「このラノベ誰が持って来たんですか?」

 さっきまで読んでいたラノベを見せながら言う。

「あー、それ…俺が持ってきたやつ。面白いだろ」

「はい!すごい面白いっす!」

 こうやって本の感想言いあったりするの楽しいな!

「川崎も買おうぜ!」

「これ買いますわ!」

 学校帰りに買うか。

「………葉山生きてる?」

「ん?…生きてるぞ」

 声がするほうに視線を向けると…

「先輩って狭いところホントに好きですよね」

 椅子の下に入ってゲームをしている葉山先輩がいた。

 なんか、ヤドカリみたい。

「まぁそうだな」

「狭いところに思い入れみたいのがあるんっすか?」

「うーん…ただ好きってだけで…あぁっ!」

「次急にでかい声出したら殴る」

 そう言って殴る体勢を作る先輩。

「好きなキャラクターが狭いところ好きなんだよね…」

「なるほど…」

 俺の知る限り狭いところが好きなキャラクターはバン〇リのドラム担当、大和〇弥しか思いつかない。

 ほかにいるのか?

 俺は制服のポケットからスマホを取り出し調べようとすると、扉がノックされた。

「あ、俺出ますね」

 椅子から立って部室の前の扉へ向かう。

 そんで、開ける。

「どなたです…」

「生徒会のものですが」

 俺の目の前にいたのは…この令和時代にあまり見かけない制服をしっかり着て、黒い眼鏡をかけた、いかにも頭がよさそうな人。

 …生徒会?

「生徒会の方がどのようなご用件で…」

「中に入っても?」

「ああ、どうぞ…」

 生徒会の人は扉の前で一礼してから中に入る。

「あれ、会長さんがうちの部活にどんな用ですか?」

 机に脚をのせ、腕を組んで座っている葉山先輩が言った。

「ちょっとお話がありましてね」

「帰って」

「なぜ?」

「俺ら今重要な会議してたんで」

 おい、嘘つくな。

 お前はさっきまでゲームしてただろ。

「それは…興味がありますね…どのようなことを?」

 お前も興味を持つな!

「…どうやったら俺らが…童貞卒業できるか、だっ!」

 キメ顔で言うな!そんなこと。

 絶対怒られるだろ……。

「あーね」

 お前もあーね、じゃねぇよ!

「…会長、本日はどのようなご用件で?」

 咳払いをしてから、三浦先輩が真面目な顔をして言う。

「失礼しました……本題に入りましょう」

 黒メガネをくいっと持ち上げて、

「この前、生徒会のほうにこの部がうるさいと、何回も苦情が来ましてね」

「文芸部か……今書いている小説の人気が出ないからってうちに八つ当たりか…」

 違うと思います葉山先輩。

 ただ単に俺らがうるさいだけだと思います。

 今思ったんだけど…こんな中でよく凛は寝られるな。

「で、生徒会と職員で議論しました。青春ラブコメ部…でしたっけ?…この部の処遇を」

「違います、青春を謳歌する部です」

 思わず言ってしまった。

 なんだよ、その青春ラブコメ部って。

「で、どうなった?」

「廃部となりましたことをお伝えします」

「まじかよ」

「…うるさいだけで廃部になるって」

 三浦先輩が口を開く。

「うるさいだけ?いやいや…部費でライトノベル、マンガ、フィギュア、ギャルゲー、買ったりしてる部がどこにあるんですか?全国探してもどこにもないでしょ?」

 三浦先輩が目を逸らした。

 葉山先輩が反論する。

「世界は?世界はまだ探してないでしょ?世界に羽ばたきましょうよ!夜〇駆けるんじゃなくて世界に駆けましょうよ!」

「沈むーようにー溶けてゆくようにーってやかましいわっ!」

「……顧問の先生から聞いてませんでした?」

 俺らは顔を見合わせる。

「「「いや、聞いてないです」」」

「あのババァ!」

 生徒会の人は叫んだ。

 あーあ言っちゃった。

「誰がババア?生徒会長さん♡」

「え?」

 会長さんが震えながら振り返る。

 やっと気づいたか。

 会長さんが振り返るとそこには笑顔で立っている鎌倉先生。

「どっ、どどどこから聞いてたんですか?」

「夜〇駆けるのところ」

「………言いましたので…三日後までに部屋の荷物片づけておいてください!」

 失礼しますと言って廊下を駆けて行った。

 この後はY〇ASOBI(夜遊び)でもするのかな?

「先生…」

「言うのが遅れて悪かったな…昨日言おうと思ってたんだけど」

 昨日、先生はここで寝てましたよね?

 あ、凛が起きてる!


 

……うわぁ…何この張り詰めた空気。


 先生がテキトーな椅子に座る。

 その前に俺ら四人が立つ。

「………」

 みんな静かだ。

 葉山先輩や三浦先輩は下向いてるし、凛は今何が起こっているのかわからず困惑している。

「葉山、三浦、川崎はさっき生徒会長から聞いたと思うけど…横浜はまだ、だよな」

「あ、はい…」

「……この前の職員会議で、青春を謳歌する部は廃部ってことになった」

 淡々と言うな!

 ここもっと泣きながら言うシーンじゃないのか。

「先生、もしかして朝の時言おうとしてた大事な話って」

「あぁ、廃部のことだ」

 全然下らねえことじゃなかった。

「あの、一応…廃部になった理由を教えてもらえますか?」

 三浦先輩が問う。

「ほかの部への迷惑行為と部費の無駄遣い」

「それだけでのことで……廃部になるんですか?」

 横にいる凛が聞く。

「この部は…」

「二人には俺が説明します」

 一歩前に出て葉山先輩が言った。

「この部はさ…同好会から部になるのに一年もかかっちゃって。許可されたのは二人が入るちょっと前で」

 この学校は部になるためには、同好会として半年以上活動しないと部活になれない。

 まぁあと顧問と部員が4名以上いないといけないって決まりがあるんだけど。

「なかなか許可されないから俺と三浦で生徒会を力でねじ伏せに行って、やっと部活になったんだ」

 力でねじ伏せたってすげえな。

 生徒会室荒らしたのかな。

「生徒会ねじ伏せて強引に部活に昇格したからさ、この部のことをよく思っていない先生たちは多いわけで…」

「この部を潰すにはいいチャンスってことですかね…」

「うん」


「一応私も反論したんだけどな。…息抜きできる場所がなくなるから」

「部室で息抜きしないでくださいよ」

 三浦先輩が言う。

「ってことで、部室の物全部片づけてくれ。あと次入る部活も考えておけよー」

 じゃあなーと言って先生は部室を出て行った。



「じゃ、じゃあ部室の物片づけちゃいますか!」

 いつもとは違う笑顔で部長が言う。

「俺と凛の物はほとんどないんですよねー」

「二人とも頑張ってください!」

 えー先輩たちいいなー!

 凛に応援されるなんて!


「俺ら先帰りますわー」

「お疲れ様でーす」

 部室を出る。

 階段を下りて、俺たちの靴がある一年昇降口へと向かう。

「なぁ凛」

「ん?どうかした?」

「いや何でもない」

「なにそれー」

 俺、この場所好きだからさ…無くなって欲しくないんだよね。

 

 それから少し歩いた時、凛が口を開いた。

「………先輩達さ」

「ん?」

「悲しそうだった」

 先輩達はいつも通り元気よく笑顔で片付けやってたけど、心の中では絶対悲しんでるのに違いない。

 だって……。

「うん」

 窓を見る。

 空にはグレーの分厚い雲がかかっていた。

 雨降りそうだな。

 

 

 

  

 

 





 

 

 


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます