愛炎奇炎――わたしの愛よ、

① 迅雷

「ハッハッハッハァ!」


 霊幻は自分に向かってくるテレパシーの束に向かって落雷する。


 目標は見えている。幅三メートル程の一本道の通路、二十五メートル先。


 霊幻は撲滅すべき対象の姿を初めて見た。見た目の肉体年齢は十代後半。やや低めの身長。蘇生符から垣間見える眼光に光は無く、無機物的な印象を与えた。


 研究棟の四階は無数のテレパシーで絡め取られていた。通路の至る所に蜘蛛の巣や雪の結晶を思わせるテレパシーが縫い止められ、避けて通ることは叶わない。


 クネクネクネクネ! クネクネクネクネ! クネクネクネクネ! クネクネクネクネ! クネクネクネクネ!


 テレパシストの頭から無数の糸の力場が放射線状に広がり、曲がりくねながら向かってくる。力場の量は膨大で霊幻の視界を覆い隠した。


――出力が低いと言うのに良くもまあ!


 一本一本の出力はE-。吹けば崩れるほどの弱い力場だが、これだけの量となれば別である。


 バチバチバチバチバチバチバチバチ! ブチブチブチブチブチブチブチブチ!


 糸を千切りながら霊幻は一直線に落雷する。既に全身に紫電を纏っている。この形態で動けるのは百八十秒。射程に敵を収めれば霊幻の勝ちだ。


「撲滅だぁ!」


 霊幻は右手を伸ばす。距離は十メートル先。二足で届く。届いたその瞬間に放てる様に右手に紫電をチャージした。


 だが、


 ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 霊幻の左右の扉から強烈な炎が放出された!


 タイミングは完璧だ。霊幻が右手に紫電を充電した刹那の隙間。


 霊幻の体は一瞬で火達磨に成った。


「ハハハハハハハハハ!」


 視界は塞がれた。赤と橙しか見えない。霊幻は炎に構わず突撃する。


 直後、霊幻の右眼が炎に紛れて十数の力球の接近を感知する。


――狙いはこちらか!


 炎と糸の力場は全て眼暗まし。紛れた力球達こそが本命。


 霊幻は懐から五枚の鉄片を取り出し、紫電を纏わせ宙に投げた。


 グルグルグルグル! グルグルグルグル! グルグルグルグル! グルグルグルグル! グルグルグルグル! A4紙サイズ程度の鉄片がクーロン力によって霊幻の周囲で旋回する。


 キいいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 キいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいン!


 キイイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイイイン!


 キいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 キイイイイイイイイイイイいいイイいいイイイイイイいいイイイイイイイイン! 


 鉄片は力球と激突し、ぐちゃぐちゃに捩じ切れた。


 細切れになった鉄板全てを霊幻は紫電で操作し、炎の中で力球へとぶつける。


「吾輩の得意分野では無いのだがな!」


 ハハハハハハハ! 霊幻は笑う。笑いながらギリギリで力球を破壊し続ける。炎の中で笑う物だから、人工の機械の肺の中は熱融解寸前だ。


――後、百五十秒!


 テレパシストの意図は消耗戦だ。霊幻のタイムリミットはバレているに違いない。


 脚止めすると決めて、テレパシストはフロア中のキョンシーへ指示を出している。


 それがどんなに無謀な物か分かっているだろうに。


「まずは邪魔物からだな!」


 どうせバレているのだ。霊幻は高らかに宣言し、進行方向を変えた。


 テレキネシストを撲滅するのには周りのキョンシー達が邪魔だ。


「ハハハハハハハ! さあどう出る!?」


 右手の炎と力球達の中へ、すなわち401号室へ霊幻は狂笑を上げながら突撃した。




 炎熱を抜けると、401号室には二体の撲滅対象キョンシーが居た。


 炎で焼け焦げたパソコンやリカバリーカプセル、キョンシー解体机や機械化パーツ等の残骸の中で、パイロキネシストとテレキネシストが一体ずつ。


 研究棟はマイケルの居る六階を除いて、一階毎に四つの部屋がある。


 霊幻のデータにある研究棟に居る対策局のパイロキネシストは五体、テレキネシストは残り四体。この階に全員集合しているのであれば、一部屋ごとにパイロキネシストとテレキネシストが一体ずつは居ることになる。


 401号室のパイロキネシストとテレキネシストは額と手から炎と力球を霊幻へと向ける。


 部屋の広さは七十平方メートル程。入り口近くの霊幻とキョンシー達に九メートルほどの距離が開いていた。


 四方を壁で囲まれた場所の中では力球を避ける空間が少ない。


 ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 キイイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイイイン!


 放出される炎は勢いを増し、その中で捩じり回る力球が飛び回っていた。


――何としても近づけたくないようだな!


 テレキネシストの眼と耳と鼻からは血が垂れており、オーバーヒートの一歩手前だ。


「根競べをする気は無いぞ!」


 ハハハハハハハ! 霊幻は懐から追加で鉄片を投げ、周囲で旋回させる。


 力球と鉄片が激突し、鉄片は捩じ切れて力球は霧散した。


 その時、絶え間無く放たれていた力球に僅かの隙間が開いた。


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!


 霊幻は両足への紫電を爆発させ、強烈なクーロン反発でジグザグに前進する。


 床、壁、天井。部屋の全ての面を霊幻は足場として飛ぶ。その動きは室内で弾ける紫の稲妻だ。紫色のマントの残像が空間を埋め尽した。


 ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 キイイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイイイン!


 キイイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイイイン!


 キイイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイイイン!


 パイロキネシストが炎を広く、テレキネシストが力球の回転数を更に上げる。


 近寄らせまいと、再び炎で捕まえようと、撲滅対象達は霊幻を追う。


 だが、一度でも射程から離れてしまえば、このパイロキネシストとテレキネシストの性能では霊幻の姿を捉えられない。


 バチバチバチバチバチバチ! バチバチバチバチバチバチ! バチバチバチバチバチバチ!


 紫電の稲妻はジグザグに縦横無尽。炎も力球も霊幻の影を通過するだけだ。


「ハハハハハハハハハ!」


 ハハハハハハハハハ!


 ハハハハハハハハハ!


 笑い声が401号室の中で響き合い、空間を削って撲滅対象へと近付いていく。


 研究室の残骸が宙を舞い、紫電と炎と力球に捕らわれて破壊される。


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!


ったぞ!」


 そして、ついに霊幻の有効射程、四メートルにパイロキネシストとテレキネシストが入る!


 霊幻は右手を向ける。紫電のチャージは完了していた。額の蘇生符が激烈に発光した。


解放リリース!」


 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!


 解放されたPSI電気エネルギーが指向性を持って全て二体のキョンシーへ注がれる!


 ジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!


 電熱でキョンシー達の有機物部分が焼け漕げ、瞬時に蘇生符と脳が破壊された!


「次だぁ!」


――残り、百三十一秒!


 霊幻は後方へと振り向き、403号室へと落雷する。まだ撲滅対象が残っているのだ。

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