第93話

「(ははは~~~)ササラ―――?今のあんたの“アレ”……って。」

「はいっ☆今のが『天使言語術エンジェル・ロア』になりますッ☆」(ムヒ)

「(……)うん、今ほどあんたが味方で良かった―――と、つくづく……しみぢみ思うよ。」


魔界侵略軍本陣までにはだかる関門の一つを越え、また一つここに撃退の為の橋頭保を確保した魔界軍。

一方の侵略軍は、これ以上の本陣への侵蝕を望まないからか、今回の侵略軍総大将の懐刀達を第二・第三の関門へと配置させたのです。


「グモモモ……ここまで我らを押し込めるとは、その匹夫の勇、少しばかり誉めてやろう……だがここはそう易々と通れるものと思うな!」


身の丈10mを超す巨体を揺らし、これまた天を覆うかのような醜悪なる者―――『キュクレウス』、彼の存在もまた、彼の存在が元いた次元せかいではそれなりに知られていた猛者の一人ではありましたが……

「なんだあ?あのザコ臭プンプン臭う奴―――」

「(……)あれは『キュクレウス』―――なるほどな、今回侵略軍を率いてきたのは、“ヤツ”で間違いなさそうだな。」

「あーーーっそ、まあなんやかんやうっさいし、取り敢えずやっつけとこう。」

〖弓引く者よ、限りなく引き絞られたる弓勢ゆんぜいよ、的を砕き、穿てうがて〗―――〖アナイアレイト・シューター〗


敵の陣容を好く知る者は、以前その者も同じ陣営に属していた事からつまびらかに出来ました。

しかしシェラザードにして見れば、別の次元せかいで猛威は奮えてもこちらにはそれを上回る実力を保有する方々を知っているだけに、目障り耳障りでしかなかった……だから以前、披露してみせた事がある様に、その弓の“弦”や“矢”を光属性の魔法を付与させ、キュクレウスとその配下を―――諸共もろとも殲滅させたのです。


         * * * * * * * * * *


そして、また更に前線を押し上げ、敵本陣へと続く第三の関門―――


「フム……キュクレウスを倒したか……だが、我輩が彼奴きゃつ如きの軟弱とは努々ゆめゆめ思うなよ?」


「だ~れ?あいつ―――……」

「『フォルネウス』か……水を操るにかけてはヤツの右に出る者などいなかったが―――」

「ふぅ~~ん……て事でりゅうきちぃ、出番だよッ。」

「あのねえ~~そんな呼び方しないで頂戴―――とは言え、奴と私との実力は拮抗……と言う事で、協力をお願いするわね、ウリエル。」

「2対1……で、よもや卑怯―――などと言うまいよなあ?これは元々、お前達が仕掛けてきた戦争なのだ……それに、私達の事を卑怯だと言うのならば、宣戦の布告すらしないで侵略してきたお前達はどうなのだ?言えるわけがないだろう、それにお前達が魔界各地で展開させた戦線も、今や徐々に収まりつつある……お前達は敗北まけたのだ、『魔界の軍及び武力ブリキは遥かに我らより劣る』と言う、間違った報告を受け入れたお前達の首脳の無能を思い知るがいい!」


              ≪盤古幡≫

        ≪雷帝の進撃トォール・アクセラレイター聖雷衝神鎚ヴォルテックス


“地”の熾天使のその一言により、自分達がおびき出されてしまった事をついぞ知る『フォルネウス』。

しかし、そう……今ウリエルが表現した『間違った報告』の出所でどころこそ、最初の侵略に失敗し、この地で果てたと思われたニュクスからのものだった―――

けれど今……息も絶え絶えのフォルネウスの網膜に焼き付けられていたのは……


姿形すがたかたちは違えど、ニュクスそのもの……だっ―――た??


「(おのれい……この女―――我輩達をたばかおおせたな!!)」


その“後悔”―――今や遅し。

同じ水を操るにかけては同等の実力を有している竜吉公主の、もう一つの切り札……重力磁場を操るすべによって身動ぎみじろぎ一つ出来ないようにさせられ、そこへもう一つ―――雷を纏ったウリエルが携える『神鎗ロンギヌス』の突進攻撃により、原子の塵と化してしまったのです。


         * * * * * * * * * * *


そして―――最後に残る関門の前で、行く手を阻みたるは……


「そう言う事であったか―――ニュクス、貴様が生きていようなどとは……な。」


「―――……。」


「(あ……れ?)―――どうしたの?クシナ…ダ…………」

わらってる―――?しかし、このわらい方尋常じゃない……これまで“こいつ”がわらう処を何度か目にしたことがあったけど……こんなにも気色の悪い……嫌なわらい方なんて、目にしてこなかったのに―――!!?


侵略軍本陣へと続くみちに、最後に立ちはだかった者こそ『アウナス』……それにこの人物は、ニュクスとは浅からぬ因縁がありました。

そう―――そもそもの事の成り立ち、ニュクスやアウナス達のいた元の次元せかいで、“あのお話し”のもとともなった『ある出来事』……


「ク・ク・ク―――久しいな、アウナス……“わたくし”は、お前の面だけは決して忘れはせぬぞ、お前達が“神”と崇めた邪神の命により、この“わたくし”の領域を侵略おかしたけだものよ!!」


そう……ニュクスは、忘れなかった―――忘れ

あの『出来事』さえなければ……多くの同胞達が邪神の甘言に惑わされる事がなかったら、数多くの苦しみを―――数多くの哀しみを―――産むことなどなかったのに……ゆえにこそ、その怨恨うらみついぞ極まりて、あるかたちを為して現出する―――……


「貴様など……この世に存在の一片すら遺さず、消滅させてくれる!!」

               ≪終極無限インファナル・アフェア


その大意を、『果てなく続く永遠の地獄』と伝わるその権限チカラこそ、ニュクスを一世一代にまで伸し上げた唯一無二……無比の強力な御業といえました。


けれど―――……


「フッ―――フフフ……効かぬなあ?そのわざは。 それにそのことは、貴様とて先刻承知ではないか。」

「(くぅ……っ)ええい―――まだ、まだぁ!」


            ≪終極無限インファナル・アフェア≫!

            ≪終極無限インファナル・アフェア≫!!

           ≪終極無限インファナル・アフェア≫!!!



それまでは、常に冷静で状況判断・分析に於いても他の追随を許さなかった者が……無駄だと判っていても連発してしまうと言う取り乱し様に、心配になってきた―――



『苦しい―――……』



えっ―――……



『苦し……い―――』



ふと、聞こえてきた……聞こえてきてしまった―――ニュクスのなかで苦しみ藻掻いもがいている、悪友よきともの声



苦しんでる……? クシナダが??



クシナダは、巫女でありながら呪力を基とする『鬼道』を修めていました。

だからこそ、誰よりも“呪い”への耐性はあったはず―――なのに……

その彼女が、自身の耐性をも上回る怨恨うらみを持つ者にとらわれ、取り込まれてしまった事により、次第に『クシナダ』と言う存在意義が薄まって行くような感じがしてしまった―――



「クシナダ―――クシナダ―――クシナダぁ!!」



このまま何もせず、手を拱いたこまねいたままでは、彼女はもう二度と戻っては来ない―――そう感じてしまった……

最初に出会った頃には、一人の異性を巡り何かと衝突を繰り返していた火花を散らし合っていた……だからこその“悪友”。


“幼馴染”……“王室では禁じられていた事”……


『王室で禁じられていた事』と言うのは、王家やそれに連なる貴族の家同士で血縁関係を結び、そこには容易に庶民の血を入れてはならない―――そうした穿うがった見解の下に王女シェラザードも自由な恋愛は禁じられていたのです。

そんな中―――“出奔”を機に、マナカクリムへと着いた時ふと見知らぬ男性から腕を掴まれた……その時に“動悸”や“発汗”を自覚するのでしたが、シェラザード自身、極秘で城から出奔してきているのにもう既に追手がこの街まで来ていたのかと思い―――


『……誰だ? お前―――』


違っていた……エルフとは、しかしよく見ると“イイ男”ではあったようで、途端に心奪われるのでしたが、その男性についていた女性もこれまた……

しかもこの女性も、どうやらこの男性を狙っている様だった―――



「クシナダ―――クシナダ―――クシナダぁ!!!」



そこから始まる、この男性……ヒヒイロカネを巡る、クシナダとの“争奪戦熱いバトル”、時には本気で掴みあい、時には本気で殴り合い、時には本気で罵り合い―――……だにしても、自分の“本質ほんとうのすがた”を見せた時、本音を打ち明けられたのは、たった一人だけ……



「クシナダ―――クシナダ―――クシナダぁあ!!!!」



そして、【夜の世界を統べし女王ニュクス】に囚われてしまった時、真っ先に気付いたのは、彼女王女だけ―――



「クシナダ―――クシナダ―――クシナダぁああ!!!!!」



彼女王女は、有らん限りの声量を振り絞り、何度となくその名をぶ―――


『果てなく続く永遠の地獄』―――等と言う、強い呪力の籠った業を連発している最中さなかに、術者の近く―――してや術者自身にしがみ付くなど、無謀の極みと言えました。


けれどシェラザード彼女……王女は、そうせずにはおれなかった―――


“悪友”とは言え、その存在こそは、自分が唯一心赦せた“真友”でもあるのだから。



#93;君の名前を叫ぶよ、何度でも……



つづく

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