第77話

『魔界随一の頭脳』と讃えられる〖昂魔〗は悪魔族の“長”ジィルガによって自分達が知る由もなかった『裏の歴史』と言うものは明らかとされました。


「(あの【闇の衣】の成り立ち……って、そう言う事だったんだ―――私は、何も知らないで魔王様の事を批判しようとしていた……けれどヴァーミリオン様は、そうした事を知っていたから魔王様を批判しようとしていた私をかばってくれた……

でもどうして、その事を話してくれなかったんだろう……話してくれていれば、私も誤解せずにすんでいたのに……)」


しかし、は無理というもの―――それと言うのも、“そもそもの原因”と言うのがヴァーミリオンを含める“当事者達”も判っていなかった―――

そしてそれは、ササラでさえも―――

その“原因”を掴んでいたのは、ジィルガと―――カルブンクリスのみ……


そして、“今”―――


「さて、それでは今一つ、知れずにいた『もう一つの真実』について話してやろう。」

「知れずにいた……『もう一つの真実』?」

「元々ルベリウスは、『賢王』と称されるほどの有能な魔王であった。 しかし、ナレらも知れているように彼の者は突如として狂い始めた―――『豹変』してしまったのだ、どうしてだと思うね?」


その事はよく聞く噂でもあり―――また、『緋鮮の記憶あのお話し』の導入部でも語られてはいた事でした。

しかしながら……その“原因”は、語られずのままにいた―――?


一体なぜ…………


けれど、その真実こそが、不都合の塊だったら―――?


「既にナレらも知ってのように、ラプラスの魔の侵攻は常にしてあったのだ。

だがそれは、庶民レベルでは知れぬ事実……逆を返せば、庶民達に無用な心配の計らいなきよう取られた措置、“王”だの“貴族”だの“長”だのと祭り上げられている者達が最優先にしなければならぬ行為、無論ルベリウスも武勇にかけては申し分なかった―――なにしろ、あやつを政権の座に推したのは他ならぬワレなのだからな……」


そう―――シェラザード達が、かつて相手とした『オピニンクス』なる“超”獣……

『ラプラスの魔』と定義づけられた者達は、彼女達が生まれる以前にも頻繁に魔界に襲来きていたようなのです。

それを最優先で撃退し、民衆に無用な心配をかけさせないようにしてきた者達こそ、『王族』であったり、『貴族』であったり、『派閥の長』だった……


それだけでもかなりな衝撃だったのですが、まだ更には―――


「ルベリウスは―――狂ったのでも、してや豹変したのでもない……あやつは敗れてしまったのだ、魔界の王がたった一人の『ラプラスの魔』と言う災厄に。」


そう―――歴史上では『暴虐の魔王』とされてきたルベリウスは、自然とそうなったわけではなく……何者にも屈してしまう事は赦されない―――その魔界の王が、たった一人のラプラスの魔に敗れてしまったと言う事実。

そう……魔王ルベリウスは、そのを【夜の世界を統べし女王】と言われた『ニュクス』なる存在の前に屈し、遍くあまねく洗脳をほどこされてしまった……


「そ―――そんな……!」

「受け入れ難いがたいであろうが、それが真実と言うものだ、だがルベリウスも最初の内には抵抗をしたものだった……しかしニュクスは洗脳を定着させる為、しばらくはルベリウスを裏で操る事としたのだ。 その異変をいち早く察した〖聖霊〗の女媧により適切な手段は取り計らわれたものだったが……逆に目を着けられてしまってな、ニュクス操るルベリウスが保有せし『魔王軍』により〖聖霊〗は徹底的に叩かれてしまった……だが、密命を帯びた竜吉公主によりニュクスとルベリウスを引きはがす事に成功をし、しかる後に封を施したと言うが……竜吉公主も無事では済まなかったことも、ワレの知る処だったのだ。」


少しずつながら見えてきた……創られた話しではない―――本当にあった真実こと……

〖昂魔〗の出身であり、魔人族の出身でもあったルベリウス……で、あったがゆえに同族を討つ事を躊躇ためらった〖昂魔〗の各種属でしたが、“長”であるジィルガの計らいによりかつての弟子であったカルブンクリスにこういう事態に陥った内情を総て打ち明け、そしてカルブンクリスにより英雄達は集められた……そして〖神人〗の天使族や、〖聖霊〗の神仙族からの扶助たすけを借り、ようやく内なる災厄の芽は摘み取られた……。

もし、最後の切り札である英雄達がルベリウスを討ち鎮めてくれなければ、愈々以いよいよもって最悪の事態となり、やがては『魔界占拠』を画策した者の思うがままとなっていた……けれど“現在”そうなっていない―――と言う事は、最悪の事態避けられていた……と思うしかほかはなかったのです。



#77;烈情の炎



そしてここで―――皆様方には気付いておかれただろうか?

このジィルガからの真実の語り部により、この場に集まっていたのは計5名……

ただこのなかでこれまでただの一言も発さなかった―――いや……発なかった者が一名ほどいたことを……


そう……“彼”は発なかった―――

なかったのではなく、発なかった―――


なぜ…………?


それは――――――


内に抱える“烈情”という名の『炎』を―――抑えることに精一杯……だったから。


“彼女”には、どことなく判っていた―――この魔界の、何処いずこかの場所で“何”が起こっているのかを……“それ”は遥けき過去より紡がれていた“絆”だったからか……

人族の『都城』で、元々はその種属でありながらその身体を張って護り通してきた者達―――でさえも、熱さが咽喉元を過ぎれば忘れてしまうものか……

その“強さ”が故に化け物扱いを受け、煙たがられた……なのに、今回の『ファフニール』の件では身に受けた迫害を反故にしてまで危機に駆けつけてきた……

本来ならば【清廉の騎士】一人でも凶悪な竜の相手は出来たものでしたが、現場で何があったか―――は、最早説明不要……

もう……過去の英雄には、味方など一人としていない―――護っている対象からも妨害を受け、ラプラスの魔からは容赦のない攻撃を受け、身も……心も……満身創痍―――


なぜ私らがこんな目に遭わなけりゃならない―――

けど……当然か―――

私もかつては弱者であるこいつらを食い物にしてきた―――


『傭兵』とは、雇い主から依頼された物件を“金銭”で解決をする職業―――

依頼物件を金銭を主体とする“報酬”によってこなす―――と言う点に於いては冒険者とそう変わりはありませんでしたが、冒険者と大きく違う点……それは、金銭によって―――『誘拐』『拉致』『殺人』『強奪』『戦争の肩代わり』を行う……こんな後ろめたい内容は冒険者が請け負う依頼クエストにはありませんでしたが、かつてリリアはそうした事で生計を立てていた……


それが、何がきっかけだったか―――

いや……そこは、最早言うべくもない……


彼女自身の運命―――『最大の理解者ニルヴァーナ』と出会ってしまったから……


自分よりも強者を相手とする事こそ、“武人”の本懐―――とでも言う様にリリアの内でも“何か”変わりつつあった……そして―――だからこそ、自らの進むべき道が視えてきたからこそ傭兵家業から足を洗い、ついで待たせていた幼馴染を迎え入れた……。


しかし、とは言え、これまでの“罪”は、赦されたわけではない―――


傭兵団自分達の名声の為に他人の財や生命を奪うごとに、これまでにも幾つものそうしたモノを奪ってきた事か……そしてそれは、盗賊であったノエルも同様でした。


彼女達は今―――自らの穢れけがれを……濁った血と共に流している―――


けれども、彼女達の事を一番よく理解していた者にとっては見て見ぬふりなど出来るはずもなかったのです。





つづく

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