第55話

350年前当時を知る、見かけの上だけではお道化どけた人物―――“自称ちゃん”により過去は語られました。


しかして―――


「あのぅ~~一ついいカナ?」

「なぁに?」(ニコニコ)

「今の“話し”……信じていいんだよね?」

「―――と、言うと?」

「今代の……魔王様って、前代の魔王様を倒す為にヴァーミリオン様達に依頼をした……って事でいいんですよね?」

「それは事実ね、ただ勘違いして欲しくはないのは当時は『どうしようもなかった』のよ、だって“通常”の考えでは魔王様が為されようとしている事に異論を差し挟む余地なんてないもの、とは言え、“それ”を口にでもしたら立ち処に『反意アリ』だの『謀反』だのとはやし立てる者達もいたことだしね、してや私はあなたも属している〖聖霊〗と言う派閥をまとめる神仙族の出身―――だからこそ、“疑わしい”とまではしても口にするのははばかられるのよ。」


目の前の“自称ちゃんアンジェリカ”を名乗っていた者の正体とは、魔界を支える“三柱みつはしら”の一つ〖聖霊〗という派閥に属している『神仙族』の『竜吉公主』なる方でした。

ただ……そんな方でも『どうしようもなかった』と言わざるを得ない程に魔界せかいは動きを鈍化させ、行き詰まり感を見せていた……それが所謂いわゆるところの『閉塞感』―――

そんな時に、魔界を良くする為にと立ち上がった存在こそが『緋鮮の記憶』で【緋鮮の覇王】達に当時の魔王を討伐うちたおしてもらうよう依頼をした『知恵ある者』…………


そして――――――


「ここまで説明をしてあげたわよ、ベサリウス―――」

『フッ……ヤレヤレ―――何度も言って差し上げているんですがねぇ?“オレ”も今は……ま、こっちとしても立場ってもんがあったんでしてね。』

「あの~~こいつと何かあったんです?なんだか会うたびに厳しい事しか言ってないですけど……」

「ええ……こいつとはね、個人的な恨みは数えきれないくらいあるのよ―――」

「―――聞いても?」

「一番の怨みは、私達の眷属の子達をその悪辣な策謀で多く葬ってきた事。」

「ふぅ~ん……2番目は?」


すると、なぜか先程まで饒舌じょうぜつに喋っていた女性は、途端に頬を紅潮あからめさせ……“モジモジ”と、し始めた―――?


ン?なんだ?この反応―――ついさっきまではうちのヘレナの事、憎々しい感じしかしてこなかったのに?


そう思っていたら、案の定―――


「(う~~)じ―――実は…………こいつに(ごにょごにょ)されて~~」

「(――――)ほあっ?! え?ちょっと?? ナ―――  ナニされちゃっ…………たの?」


すると伏し目がちに、小さく頷く女性……シェラザードも、もう子供ではありませんのですから、そうした状況だけで察するべきは察しました。


だから……


「ちょ……ちょっと、ヘレナ??」

『ま―――それもこれも、仕方がなかったんですよ、“あの当時”は……ねえ?“オレ”自身の弁護にもなるようで、実に申し訳ないんですが―――この“オレ”もこうなるまでは前代の魔王『ルベリウス』が率いる魔王軍の『総参謀』を務めていたもんでしてね、まあ……おおむねそうした役職に就いていた者の仕事と言えば、相手にいかにして大損害を負わせ、味方に勝利を呼び込めるか……それに、特に公主さんは捉え処のない方でしてねぇ、ある折にこちら前代魔王軍としてもこれ以上の被害を出させないようにする為、一個大隊をエサにようやく捉えることに成功したんです。

まあ、その間の出来事は、我が主マイ・マスターの“ご想像上”にお任せしますが―――しかし反乱軍の結束は、想像以上に固かった……こいつも想像通り、数日も経たない内にヴァーミリオン達に知れ渡っちゃいましてね、救出は為された―――て、訳です。』


なんだか……“水の神仙竜吉公主”が激しく嫌う気持ちも判らない気がしないでもなかった―――ある意味での『戦争』と言う状況下では、あらゆることが許されはするのですが、戦争が収まってしまった後ではそうではなくなってしまったら―――?

“それ”が今現在の竜吉公主の気の持ち様―――なのですが……

「まあ……事情は大体判りましたけど―――だったらどうしてヤっ一発殴っちゃわないんですか?」

「(は・あ……)私がね、昔の恨みや辛みでこいつを一発殴って『ハイオシマイ』―――てな訳にはいかないのよ。」

「はあ……そりゃまたなんで?」

「それが、“今の”こいつの立場―――」

「……はい?」

「ヘレナ―――現在のあなたの事情を。」

我が主マイ・マスター、“オレ”達があなた様との『血の誓約ちかい』にもとづき、あなた様を我が主マイ・マスターと認めた……が、実はあなた様以外にも“主上リアル・マスター”に仕える身なんです。』

「“主上リアル・マスター”―――?!」

『“オレ”達の主上リアル・マスターの名―――『魔王カルブンクリス』』



#55;魔界せかいに君臨せし存在



『魔王』―――…………


それは、この魔界せかいに君臨し、数多あまたある種属の上に立ち、『行政』を―――『法の整備』を―――『経済の循環』を一手に取り仕切る…………


     『魔界』の    『魔族』の    『王』


ただの一種属―――エルフの王族であるシェラザードと、比べるべくもない…………


“権威”も“権力”も、持っている存在……


その存在を明らかにされただけでも、動揺ははしる……の、ですが、冷静になろうとすればする程に、明らかとなってくる……


魔王……様の側近の―――?公爵ヘレナが、私の事を“我が主マイ・マスター”と認めた……?


それはまさに、重大な局面と言えたものでした。

ただの、一種属の王族でしかない自分を“我が主マイ・マスター”に迎えた、今代の魔王の側近である『公爵』―――それにここ最近、また妙に付き纏ってき始めた“自称ちゃん”も、その元を正して行けば自分達エルフも属する〖聖霊〗と言う派閥の代表格的存在、『神仙族』の実力者『竜吉公主』だった……


いや……それに―――?


「あの……じ、じゃあ―――ヴァーミリオン様は……」

「多分、気付いていたでしょうね。 ベサリウスの姿をし、尚且つ今代の魔王様の側近が動いている時点で……」


思えば―――二度目に城から出るのに際し、その当時ではどう言ったやり取りをしているかが判り難かった両者でしたが、今にしてようやく一つに繋がりを見せ始めた……いにしえの英雄の霊は、知った当時から衰えてくるどころか益々冴え渡りを見せる英知の塊の様な盟友の思惑にのっとり、少なからずの助力を尽くした……そして、自分の事を我が主マイ・マスターと認め、『誓約ちかい』を結んだ者は、自分達の主上リアル・マスターが目を掛けた者に危害が及ばぬよう見守ってくれていた……


そしてまた今、自分の事を優しく見守る眼……………………


とは言え―――


「え……えぇ~~っと……あの、じゃあ私、これからどうなっちゃうんです?」

「どうもならないわよ?まあ―――お互いに顔見せする程度かしらね? そこの処の段取りは、どうなっているの―――。」

『(……)近い内に予定はしていますよ、ところで嫌味も大概にしてもらえませんかね?』

「嫌味だって判って言ってるのよ!けがれのないこの肉体からだを、散々もてあそびやがってえ~~!!」


「あ゛~~~やっぱ“そう言う事”だったのネ、そりゃ、あんたが悪いわ―――ヘレナ。」

『フッ……我が主マイ・マスターよりそう言われたのでしたら、致し方ありませんかな。』

「全く……ヘレナったら、何を考えてこいつを取り込んだんだか。」

『そこの理由は簡単なもんでしょう?事ある毎にあなた様方を苦しめてきた―――その部分を買われたのでしょうよ、それ程までに、これから相手をしなきゃならないのは厄介この上ない―――て、事です。』


350年前、前代魔王が討伐されるまで『反乱軍』達を苦しめてきた『魔王軍総参謀』ベサリウス……この存在の、悪魔的な頭脳を今代の魔王も欲した、その理由も淡々としたもので、これから魔界が相手をしなければならない存在の厄介性がこの時語られたのでした。





つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る