第54話

ニルヴァーナの思わぬ弱点を知り『盗賊の首魁』の“悪”の顔が覗かせ始める……それとまた、ニルヴァーナに言い寄る“高貴”な芳香かおりのするエルフの女性にやましい考えが頭をもたげ始める“元”『傭兵団頭領』―――


が、しかし……


この後、思わぬ事態により、彼女達自身普段出したことのないような声の類が……


「―――うぴょおっ?!」

「み゛ゃ゛っ゛??」


「まああ~~なんて可愛らしい……私の子猫ちゃん♪」

「ふにゃああああ~~~??ななななななななななななななななにをしゅるんでしゅか~~~!!」

「そう怖がらなくてもいいのよぉ?おおよしよし―――」


“闘気”“殺気”の類が全くないからか、無意識の内に最接近を許してしまいお互いに変な声がでてしまった“元”『傭兵団頭領』リリアに、『盗賊の首魁』ノエル……


しかも?


なんとこのエルフの女性、ノエルを無造作に抱え上げ彼女の身体を撫でくり回し上げたもみくちゃにしたのです。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~私……なんだか判りませんが、穢されてしまいました……しかも、よりによって高貴な芳香においのするエルフの女性にぃぃ~~~」(サメザメ)

「あ゛~~~うん……なんだか判んないが、同情するわ……だけど、私の方に見向きもしなかった―――てのは、ある意味“良かった”って言っていいのか??」


今尚、ノエルの頭を自分の膝上に置き“なでなで”されてしまっている―――この状況を一体どのように理解してよいのか、判らない……判るはずもない、常日頃であれば自分達の懐を潤す為の収入源ともなるべき存在が、こうも無警戒に自分達の側に寄り、あまつさ手懐てなずけようとして来るとは……


「それより―――も、だなあ……そなたは一体何者なのだ?私はそなたの事は一切知らない……なのに、そなたは私の事を知ってくれている。」

「私も―――あなたとは初見にはなりますが、そのご高名は聞いておりますのよ。」

「(ご高名……)未だ、何も為しておらぬのに?」

「(ん~~……)これは少々説明不足でしたね、私はあなたの“学の師”―――『カルブンクリス』様よりあなたの事を聞き、ここへと足を運ばせてきたのです。」

「(!)私の盟友ともの―――そう言う事だったか……いや、だとしても―――だ、エルフであるそなた自身からオーガである私に抱き付いてくるなど……」

「私は……この気持ちを抑えきれなかったのです―――粗暴・粗野で通っているオーガ……なのに、その心の内には大志を秘め『知恵ある者』の導きによって魔界を正道せいどうに直さんとしている“あなた”の事を……」

「(~~~)なんだか―――随分と話しが盛られている様な気がしてならないが……ただ、私はオーガとしては変わり者だ、オーガであるはずなのにその角を持たず、常にまわりからは“半端者”呼ばわりされていた……だが私は、そんな誹謗中傷にけたくはなかった―――その一心でオーガが最も得意としている“武”に磨きをかけることによりまわりを見返してやりたかった……それが動機だったのだ。

そして―――やがて私の望み通り、私はオーガの中でも一番の武勇を誇れるまでになった、そうなると多少の慾の方も出てくるものでな、 それがこの“剣”だ―――この剣自体は元々私の家に伝わるモノだった、そして元々のこの剣は『鋼の剣』だったのだ。」

「『鋼の』―――?けど、そいつは……」

「ある折に『優れた腕を持つ鍛冶師』の“噂”を聞きつけてな、ならばその者に家伝来の剣を打ち直して貰おうとした―――そして、持ち寄った場所こそ……」

「“あの方”の庵―――だった、と言う事ですね。」

「ああ……あの“噂”を聞きつけ、実際その為人ひととなりを見た時愕然がくぜんとしたものだったよ、この私よりも女らしくエルフのそなたすら凌駕する美貌の持ち主が、『優れた腕を持つ鍛冶師』の正体だったのだからな。」


“噂”は、所詮“噂”―――当時ニルヴァーナが聞きつけていた『優れた腕を持つ鍛冶師』はさぞかしいかつい職人気質かたぎの親父―――だと思っていただけに、実際その庵を訪ねた時姿を見せた“女性”を見て、こんな女性が自分の望み注文を叶えられるものか―――と、心配をしたものだったのです。


しかし―――……

その“噂”に、一斉の偽りなし…………


実は、ニルヴァーナの家に代々伝わっていた剣とは、普通に流通している様な『鋼の剣』でした。

けれど……『緋鮮の記憶あのお話し』には、あった―――

それに、“元”『傭兵団頭領』も『盗賊の首魁』も、狙っていたのか―――

「つまり―――『錬金術アルケミー』と言う事ですね。」

「ああ―――実際私も、目の前で鋼が金に変じて行くのを見て驚嘆したものだよ。」


鍍金メッキ』―――等の紛い物ではない……

“純”然なる『金』―――に、変じていく鋼の剣……


見栄えはもとより、斬れ味などの性能も格段に向上していく……

その当時、この世に概念すらなかった“錬金”術―――

その日を境に、ニルヴァーナは“知”に目覚めてしまった……

本来ならば、知力が低いオーガのはずの彼女が―――

本来ならば、その頭に角がなければならない“異質ヘテロ”が―――

滅多と、その膝を屈さない強者であるはずのオーガが―――

まるで武を感じさせない一人の貴婦人の前に、伏して頼み込む……


「この対価―――そなたの言い値で構わない、だからそなたが修めた“学”を、この私にも教えて頂きたい!」

「“対価”―――か……ならば、“ロハただ”と言う事でいかがかな?」

「“ロハただ”……?いや、しかし――――――」

「“あなた”も、どうやら例の噂を聞きつけてこの庵へと来たのだろう?少し“悪戯いたずら”な感じのする『吟遊詩人』が流した“噂”に……」

「あの者の事を、知っておいでなのか?!」

「ああ……まあ、ちょっとした知り合いでね―――それに、確かに私は“ロハただ”とは言ったが……この私自身の“師”も言っていた―――『ただより高い物はない』と、ね。 今、私が“ロハただ”としたことは、果たして“高い”のか、“安い”のか……それを決めるのは“私”ではない、“あなた”なのだ。」


それからと言うものは、互いに深く交流まじわり合い、『師とその弟子』ばかりではなく、互いに“盟約”を結んでの『友』と、成った――――


「それがあんたの―――」

「うむ、私とカルブンクリス殿との馴れ初めの経緯だ、それよりも、そうか―――そなたも私の盟友の教えにたっていたと言う事ならば……」

「はい―――奇しくも私達は同じ道を歩む者……それにカルブンクリス様からあなたの事を誇らしげに語って頂くに伴い、私の脳内の“あなた”が形成されて行ったのです。」

「(ムグ……)だからと言ってだな……出会いの当初から抱き付いてくるなどと―――そう言えばそなた、そなたの事を聞いていなかったな。」

「あら、私としたことが―――私の名は『ローリエ』と言います。」



#54;今昔こんじゃく<エヴァグリム王女>



「ほう――――(ん?)」

「(ん?)」「(ん??)」「(……?)」


「『ローリエ』……だ、と?」

「はいっ―――」

「まさか……あんた??」

「どうしたの?リリア―――」

「いや、このエルフ―――私の記憶に間違いなければ……」

「ええ……エルフの王国『エヴァグリム』の『王女』が、確かその名前……」


その、高貴な芳香かおりのするエルフ―――とは、全くそのような存在だった……その当時、“れっき”とした、また“確”とした、エルフ王国の王女―――そんな高貴な身分の方が雑多な種属の坩堝るつぼと成っているマナカクリムにいようなど誰が想像をしただろうか……

いかにも世間知らず―――それでいて下賤の身分である“人”や“獣人”自分達と分け隔てなく接してくれている……


その王女ひとは、差別なく総てを包み込む『慈愛の人』―――だったのです。






つづく

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