第49話

現在より『350年前』―――以上も前、鬼人の“郷”であるスオウに、ある異質ヘテロが生まれました。

鬼人オーガ―――であるのに『角がない』……

鬼人オーガ―――であるのに『見目麗みめうるわしい女性にょしょう』……

だからとて、その時代の風潮もあり“その者”はさげすみを一身に受けました。

けれど“その者”はくじけることはありませんでした。

この“さげすみ”を糧に一層の武の錬磨に励み、腕試しの為にと“郷”を出る頃には“その者”にかなう者など誰一人としていなかった……


“その者”……“彼女”の名は、『ニルヴァーナ』。

後世に、【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン】と成る者―――



#49;今昔こんじゃく<傭兵団頭領>



とは言えニルヴァーナも未だこの頃には“無名”だっただけに、その装備は家に代々伝わる名剣、『黄金の剣』しかありませんでした。


しかし……そう―――『黄金』の剣……


その斬れ味もさながらに、目を惹く“見た目”、―――か……


「フッ……この程度か、話しにならんな。」


「チッ―――こいつ!」

「やりやがるぜ……」


「お前達が“この剣”目当てで群がってくれるおかげで私のレベルの底上げにもなってくれると言うものだ。  まあ、せいぜい……私の武の糧になるがいい!」


『防具』は、“貧相”―――なのに

『武器』は“超一級品”


だからこそ、“良い”も“悪い”も併せ呑み敵は群がりくる……

そしてこの時ニルヴァーナを襲った連中も―――


「待ちな―――お前達じゃ話しになりゃしないよ。」

「『頭領』―――!」

「貴様が、この者達の“かしら”か……」


『傭兵』―――依頼主から金で雇われ、“なんでも”する者達。

内容によっては“人殺し”や“強奪”“誘拐”……それに“戦争の肩代わり”すらすると言う“集団”、けれど時と場合によっては依頼もなく悪事に手を染める事も、ある―――

今、ニルヴァーナが襲われたのもそうした理由からでした。

売れば後世の一生を遊んで暮らせるだけの“金”になるモノを奪う為―――

けれど持ち主が思いの外手強かったものと見え、この傭兵団を束ねる者―――『頭領』が顔を出す……

『亜麻色』の長髪を戦闘時に邪魔にならないよう後頭うしろで一つに纏め、『碧い眸』、目鼻立ち整った顔立ち、武人にしておくにはもったいない程の身体つきをしながらも、自分ニルヴァーナ以上に鍛え上げられた肉体―――


それに……


「貴様―――武器はどうした。」

「フン―――私は目に見える武器は持たない……あるのは、この肉体だけ……」

「(ならば武闘家の類か)了解した。 だとてこの私の剣を狙う以上―――」

そう、ニルヴァーナが言い終わらない内にヒト族にしてはありえない速さで寄せてくる傭兵団頭領―――“口上”の途中での奇襲を受けダメージを負うニルヴァーナ、しかし傭兵の闘いの流儀―――型にはまった『道場モノ』とはまた一味違う『戦場のけん』―――


フッ……この私がおくれを取ろうものとは、中々に面白い―――

やはり“闘争”とはこうではくてはな―――!


チッ……入りが浅かったか―――しかも、思ったよりダメージを与えられてない……

こいつインパクトの瞬間、僅かながら後方うしろに飛び退きやがった。

……こうなったら、“アレ”を使うしかないか―――


これは後世に主要PTメンバーを束ねた【緋鮮の覇王リーダー】と、【清廉の騎士No,2】の、駆け引き無用の“闘争生命の奪い合い”―――

そしてこの時、傭兵団頭領は“寸鉄”すら帯びていなかったのに妙な“構え”を見せたのです。 そう……自分ニルヴァーナの様に、剣を―――


むっ?! こやつ……―――!


その途端、鋭い掛け声とともに間合いを詰める傭兵団頭領―――しかし近づくにつれ、その手には“気”で練り上げた『ひかりの剣』が顔を覗かせ始める……


『私は、目に見える武器は持たない』

そう言う事であったか―――!こやつが、この魔界せかいで唯一存在すると言う≪晄剣こうけん≫の所持者スキル・ホルダーであったとは!


ニルヴァーナは、“郷”を出て行くまでに数々の噂を耳にしていました。

そのうちの一つに物理的な剣ではない、“気”で…その身に備わる魔力で、剣を創造する能力の持ち主がいる―――と、言う『噂』……最初は耳を疑ったモノでしたが、現実を目にすると信じざるを得なくなってくる……


             が…………


もう形振なりふりは構っていられない―――型にはまった武では到底この者には敵わない―――と、さとったからこそ……


ぐふぅっ―――くうぅ……足癖の悪い奴だ―――必要以上に踏み込み過ぎたのを見計らってっ―――!!


鬼人オーガ”は、“ヒト”より体格が良かった―――その利点を生かし、ニルヴァーナは決着を急ぐあまりに近づきすぎた傭兵団頭領に対し、ヒト族の腕の長さリーチよりほんの少しだけ長い鬼人自分の足を傭兵団頭領の“鳩尾みぞおち”部分に入れていた―――人体の急所に思わぬダメージを貰い、傭兵団頭領の動きは途端に鈍くなりました。

そしてこれで、自分達の悪事も終焉おわりを迎える―――


           ?   ??   ???


「(!)お前―――どうして剣を……」

「私は、無益な殺生は好まん。 例え貴様達がこの剣を奪おうとも、私が貴様達から奪うものは、なにもない。 それに貴様―――貴様との生命の奪い合い、中々のものであった……気が向いたならまたこの剣を奪いに来るがよい。」

「ヘッ―――私も随分と酔狂だが、お前も中々酔狂なようだね。 私の名は『リリア』―――この傭兵団の頭領だ、あんたの名は……?」

「『ニルヴァーナ』……こう見えて、一応は鬼人オーガだ。」

鬼人オーガ?!成る程なあ―――角が見えないからガタイが好いヒトだと思ってたぜ。」


これこそが邂逅……後世に、その名を残す事と成る【緋鮮の覇王】と【清廉の騎士】の―――この後、両者は幾度いくたびか刃を交らわせる事と成るのでしたが、いつしかその様相は回を経るごと、増すごとにどこか愉しげであった……まるでしのぎを削り合うように、互いに武を磨いていくことの喜びに目覚めた者同士―――『好敵手』として……


そして最初の闘争から幾許いくばくかして―――……

「なあ―――ニル……始める前に私からの話しを聞いてもらえないか。

「どうした、リリア―――また改まって。」

「あんたとの闘争、今回を限りにお仕舞いにしよう。」

「どうしてだ―――私との……」

「あんたとの、生命の奪い合いにいだ―――て訳じゃない、寧ろその逆さ……ただな、強い奴らって私達2人だけじゃないんだぜ?」

「ふむ……面白い話だな。」

「だろう?それにこの私の“誘い”―――ただの“誘い”って訳じゃない、ああそうさ……知ってるのさ―――この私の“知り合い”にな、あんたも……聞いたことくらいはあるだろう?『巫女』ながらにして刀を振るい、血の味を覚えてしまったヤツの事を。 なぜ私が“そいつ”の事を知っているかって?そんな事は簡単なんだよ……私と“そいつ”とは昔からの馴染み―――なもんでね……」


その武を高め合う中で、互いに“好敵手”と認め合った者からの『いざないの言葉』……それは、自分達2人だけではない―――その当時をして世間に名の通った者達との腕の試し合い……その“いざない”に、ニルヴァーナの体内にはし鬼人オーガとしての血が、たぎり始める……


より―――強き者を、求めてまない血が……






つづく

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